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あなたをずっとあいしている/作絵 宮西達也/ポプラ社/2006年初版
ラジオをかけっぱなしでいることが多いが、その中でよく聞いているのが夏休みに放送される子ども科学電話相談。大人がきいていても参考になることが多い。よせられる相談に恐竜に関する質問も多いが、初めて聞く恐竜の名前を子どもたちがよく知っているのに驚かされています。
シリーズになっているこの絵本には、ティラノサウルスとマイアサウラがでてきます。
ティラノサウルスは、北アメリカ大陸に生息していた肉食恐竜で、現在知られている限りで史上最大級の肉食恐竜の一つ。一方、マイアサウラも北アメリカで発見され、全長9mほどで、重さ4トン、草食。そして子育てでも知られた恐竜という。
あるひ、森の中でちいさな卵をみつけたマイアサウラは、自分の家に持ち帰るが、ひろった卵から生まれたのはティラノサウルス。
このままだとたいへんなことになると、お母さんは赤ちゃんを森のなかにおいてきますが、どうしても胸が痛み、あかちゃんを抱きしめて家に帰ります。
マイアサウラの子には、ライト、ティラノサウルスの子にはハートという名前がつけられ、兄弟のように育ちます。
ある日、ハートは、つめが鋭くて、牙がギザギザ、体はゴツゴツ。ずるくて弱い者いじめばかりするきらわれものというティラノサウルスのことをおじさんから知ります。
ライトはハートがティラノサウルスに似ていると思いますが、おかあさんは怖い顔でたしなめます。
やがて二人ともお母さんとおなじくらいのおおきさになります。
ハートが赤い実をとってかえろうと林に行くと、目をギラギラさせたティラノサウルスがとびかかってきますが、自分とおなじだと気がつきます。
ハートが「だあれ」ときくと、ティラノサウルスは、同じじゃないかと答えます。ハートはマイアサウラと勘違いします。
ハートがおいしいものをとりにいくというと、ティラノサウルスも「おれさまもおいいしいものをとりにいくとこだ」といいます。
ハートは赤い実、ティラノサウルスのおいいしいものは、マイアサウラを思い浮かべています。
二人が一緒に歩いているときに、ティラノサウルスは、むかし嵐のあと大切な卵をなくしたとさみしそうにいいます。
ハートが実を食べていこうというと、ティラノサウルスは、この先にはマイアサウラのごちそうがまっているといったので、ティラノサウルスであることに気がつきます。自分がティラノサウルスであることを信じたくないハートは、はげしくおこります。
ハートは悲しくなって涙をながしながらお母さんのところへ。
お母さんはハートを抱きしめながら、お母さんの子じゃないの?と言うハートへ、「わたしの大切な子、わたしのたからものよ」
ハートはティラノサウルスにむかって、走りはじめ、がぶりとかみつきます。
ティラノサウルスはハートからかまれたままじっとしています。ハートはかむのをやめます。そしてこのおじさんもしかしたら本当のお父さんかもしれないと思います。
ハートはやがてお母さんのところからいなくなりますが、お母さんがハートとであった林に行くと、そこには赤い実がやまのようにつんであります。
生みの親からも育ての親からも離れて一人暮らすハートがとったのは、育ての親に赤い実をとってあげること。
自分が他人の子どもとは知らずに育ったハートが、事実に気がついたときの驚き。
母親は、すぐに他人の子と気がつきますが、自分の子どもと同じように深い愛情で育て、ライトが自分たちと違うというと、強くたしなめるあたりに、子を育てる母親の気持ちが表れています。
ティラノサウルスが自分の子どもから、かまれてもじっとしている場面に、父親の悲しい心境があらわれているようです。