牙の生えた王様の話/レダン山のお姫様/アジアの現代文芸 マレーシア/藤村裕子訳/大同生命国際文化基金/2003年初版
ある日、王さまが食べた料理があまりにもおいしかったのは、料理人があやまって指を切り、その血が料理にはいってしまったからというもの。
それからは、王さまは、囚人の血を入れた料理を食べるようになります。それとともに、王さまの犬歯は、日に日に大きく長くなります。
やがて血を採られていた囚人がいなくなって、普通の人々からも血を採る方法しかなくなって、大臣たちが相談し、王さまを追放しようとします。
やがて、王さまと大臣たちの戦がはじまりますが、民衆は残酷な王さまを見捨てます。
すこしびっくりするような話で、読むだけにしたい話です。
イスラムというと中近東を思い浮かべるが、インドネシアがイスラム教徒が一番多い国で、東南アジアにもイスラム教徒が多いというのはあまり意識されていないようだ。
イスラムというと酒、豚肉はダメというのが知られているが、どうしてもなじみにくいのが妻を複数もつことが許されているということ。
「アリババと四十人の盗賊」では、アリババが、兄が亡くなったあと、その妻と財産を受け継ぐのが原典に忠実であるが、子ども向けの話としてだされているものでは、このへんが微妙に表現されているのは、われわれの感覚にそったもののようだ。
ところで、イスラムの昔話を読むうえで参考になる指摘がされていた。
イスラムでは、死者が生きている人たちに及ぼす力を認めていないということ。生きている人たちが死者に対して直接的に語りかけるという概念がないため、日本でみられるようにお墓の前で使者に語りかけるというのが、イスラムでは全くありえないという。
亡くなった人に、語りかけように感謝する行動は、イスラムの教えにはあってはならないという。(レダン山のお姫様/アジアの現代文芸 マレーシア/藤村裕子・訳/大同生命国際文化基金/2003年初版の訳者あとがき)
いま、イスラム国で、少女を奴隷にしたり、イスラムを名乗って学校を襲撃した事件が報道されているが、これはイスラム教の教えであるわけがない。
文化的な違いにあまりにこだわると、外国の昔話を語ることが難しくなりそうだが、こうしたことも踏まえていきたい。