コンタロウのひみつのでんわ/安房直子・作 田中槇子・絵/ブッキング/2007年復刊 1982年初出
一人暮らしのおじいさんと、ひとりぼっちの子狐との心温まる交流をえがいて、ゆったりと安房さんの世界を楽しめる物語です。しかし、このタイトルでは少しイメージがひろがらず損をしている感じです。
山のふもとの小さな村に小さなふとんやがあって、おじいさんはそこで一人暮らし。息子や娘たちはここから巣立ち、おくさんに先立たれたのです。
ある春の夕暮れどきに、男の子が春のふとんをほしいとやってきます。
朝でも、日中でもなく夕暮れどきです。
男の子は、野ばらの模様があしらわれているふとんが気に入って、そのふとんを届けてほしいといいます。男の子にいわれて、おじいさんはふとんを背負って、山道をあるきはじめます。
重いように思ったふとんですが、まるで紙くずでも背負っているような感じ。
からだの調子がいいときはいつだってこんなもんさ・・・とおじいさん。しかし、背中のふとん、全部はなびらでした。
子ぎつねのコンタロウが、いつのまにかはなびらにかえてしまっていたのです。
はなびらのふとんにねころび、月を見ながら仲良くなったふたり。
コンタロウが、店にやってくるのは、やっぱり夕暮れどきでなくてはならなかったのです。
今度でんわをかけましょうかとコンタロウにいわれて、おじいさんはあたりをみまわしますが、でんわはどこにもありません。しかしコンタロウは、山にはひみつのでんわがあるといいます。
雪やなぎの白い花が咲くころ、おじいさんの家のでんわがみじかくなります。
さきたてのたんぽぽをでんわきにしているというコンタロウ。
おじいさんは不思議におもいますが、風がでんわせんの上をはしって、おじいさんのでんわきを鳴らし、おじいさんがでんわにでると花が一輪ふるえるというコンタロウ。
それから、二人は、まっかなつつじの木のしたで、よもぎのてんぷら、たんぽぽのサラダ、すみれのさとうずけをたべたり、月のひかりがまぶしすぎるというコンタロウのところへ、おじいさんがかやをとどけてやったり。
やがて秋のおわりに、おじいさんは、手と足がとてもつめたいというコンタロウのところへ、ぶどうの模様のこたつぶとんをもっていきます。
ぶどうをみたコンタロウは、ほんもののぶどうにかえてしまいます。秋の山のなかで、ほこほこあたたかいこたつにあたって、ぶどうをたべますが、のこりのぶどうでぶどうしゅをつくることに。
やがて冬。冬は山から電話をかけることができません。
おじいさんが戸棚のぶどう酒をとりだしてコップをテーブルのうえにおくと、コンタロウの姿がみえてきます。そしてコンタロウのぶどう酒にはおじいさんがうつっています。
ふとんを背負って歩く山道には、こぶしの木。花の電話は、ふくじゅ草、すいせん、たんぽぽ、つつじ、ヤマユリ、ききょう、のぎくなど。
ほかの安房作品では、季節が特定されていますが、この物語は珍しく一年の変化がうまく生かされています。
花の電話はお父さん、はなびらにするのはお母さんのちょっとしたまねごとというコンタロウですが、火のおこしかたは教えてもらわなかったようです。
”電話”でなく”でんわ”というのがぴったりです。