天の鹿/作:安房 直子 絵:スズキ コージ/ブックキング/2006年復刊/1978年初出
挿絵はスズキコージさんで、この話にぴったりの方を編集者の方が選ばれたようです。
他の絵本をみても、独特の雰囲気をもっているスズキさんですが、やや難解なこの物語のイメージをふくらませてくれます。
鹿撃ち名人の猟師、清十がものをいう不思議な牡鹿と出会います。
牡鹿は、清十をずっとはなれた、はなれ山で開かれるという鹿の市に案内します。フクロウが鳴くまで開かれるという鹿の市では、珍しいもの、食べたいもの、金と銀の刺繍がある反物、宝石を売っている店などが並んでいますが、清十が買えるのは、一つだけ。
清十のところには三人の娘がいましたが、牡鹿はこの三人を次々と鹿の市につれていきます。
長女が市に行って買ったものは、紺地に、白と黄とうす桃色の小菊が一面にちりばめられた反物。
しかし、市から帰る途中、菊の模様が次々に零れ落ちてしまいます。
次女が市にいくのは、まっくろの闇夜。闇夜があぶないといわれ、次女が買ったのは、ランプ。このランプは、牡鹿の角から落ちて、ガラスが砕けてしまいます。ここで20頭あまりの鹿とあいますが、牡鹿は「生きた鹿がいく」とかすれた声でいいます。
このあたりで、鹿の正体がみえてきます。鹿の市で品物を売っている鹿も、殺された鹿。
末娘が牡鹿と天にのぼるという結末。
清十と三人娘の物語のようですが、清十に殺された鹿の側から見ているようです。
作者はどんな読者を想定していたのでしょうか。幻想的で難解ですが、命についてじっくり考えさせてくれます。