どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

みどりのゆび

2018年11月06日 | 創作(外国)

   みどりのゆび/モーリス・ドリュオン・作 安東次男・訳/岩波少年文庫/1977年初版


 日曜日、図書館にいったら、人形劇「みどりのゆび」(人形語り「星の馬」)の公演がありました。時間がぴったりだったので予備知識がなにもないなかで見ていました。ちょっとしたきっかけで素敵な物語に出会うことができました。

 上演されたのは時間の関係から一部でした。

 花で、貧困、病気、そして戦争にたちむかう少年の物語で、20のパートにわかれています。

 美しい両親、何階もあるすばらしい家、自動車が九台、馬も九頭、掃除係、料理係、庭師、うまや番までいるまでいる家のチトという少年。髪は金色でさきっちょがカールしていました。

 八つになると、チトは学校に行きますが、居眠ばかりしています。三日間学校にいきますが、「あなたのお子さんは、ほかのお子さんとおなじではありませんので、わたくしどもではおあずかりいたしかねます」といわれてしまいます。

 両親は心配のあまりチトにあたらしい教育の方法をこころみます。

 あたらしい勉強の手はじめは、庭の授業、つまり土の授業です。
 庭師のムスターシュ(ひげさん)は、チトが、<みどりのおやゆび>をもっていることを発見します。

 いたるところにある何の役にも立たない種。けれども<みどりのおやゆび>で、種にさわると、たちどころに花が咲くとベゴニヤを証拠にあげます。
 「<ほかのこどもとおなじじゃない>っていわれるよ」と心配したチトに、ひげさんは「ふたりだけの秘密にしておこう」といいます。

 つぎに、<かみなりおじさん>から規律について。
 規律をみだした人はどうしますか?と刑務所の建物を説明します。鉄格子が何本もあって、陰気なへいのむこうにまた陰気なへい。「囚人というのはわるい人間だ。ものをぬすんだり、ひとをころさないように、おしえてみる」と<かみなりおじさん>がいいますが、チトは、こんなにきたなくなれば、きっともっとはやくおぼえるよと思います。

 チトは月や星にまもられて、刑務所の石と石の間の隙間、鉄格子の一本一本の柵のねもと、門の扉の鍵穴や見張り小屋にも<みどりのおやゆび>でさわっていきます。
 すると刑務所は花のお城、ふしぎの国の宮殿のよう。塀はバラでおおわれ鉄格子はクマシデ、塀のとんがりにはサボテン、見張り小屋にはスイカズラがのびていました。
 観光名所となった刑務所の囚人は、けんかをしたり、なぐりあいをわすれ、みんな園芸が好きになっていました。
 うれしくなっても、だれかに話すわけにもいかないチトは、ジムナステックという子馬に「花って、さいなんをがおこるのをふせぐんだよ」とささやきます。

 道はせまく、どろんこでいやなにおいがし、くさった板張り、ボール紙、古いあきかんが散乱する貧民街では、小屋をアサガオでおおい、垣根にはゼラニウムがあって、まるで美術館のよう。見物にきた人から入館料?をとり、管理人、案内人、絵葉書売り、写真やなどの仕事もかんがえられました。

 足が不自由で病院に入院している女の子には、テーブルにスイセン、掛布団はツルニチニソウをプレゼントです。
 チトは、この病院で「病気がよくなるためには、生きるのぞみをもつことがことがたいせつ」「病気の人たちをよく看病してあげるため、その人たちをうんと愛してあげる」ことを知ります。

 動物園ではパオバブ、アメリカクズ、もみの木、アシ、ジャスミンなど、動物たちのふるさとの植物でおりをいっぱいにします。

 やがて、パジー国、バタン国の戦争がおこります。じつは父親は武器商人でどちらとも商売していたのですが・・・・。

 個性的な登場人物やさまざまな花がでてきて、最後までドラマチックな物語が展開します。

 そして、戦争についてもじつにわかりやすく説明されています。

 作者のモーリス・ドリュオン(1918年 - 2009年)は、フランスの小説で1973年から1974年までは文化大臣をつとめた政治家です。
   
 当日、上演されたのは<みどりのゆび><病院の場面>で、地元の方が作曲した歌もありました。