美女と野獣/ローズマリー・ハリス・再話 エロール・ル・カイン・絵 矢川澄子・訳/ほるぷ社/1984年
「美女と野獣」は、フランスで1740年に書かれたようで、作者ははっきりしています。昔話は作者不明の場合がほとんでなので昔話というのはどうかというところですが、300年ほど前のものですから昔話に位置づけてもおかしくなさそうです。
ストーリーは、金持ちの商人の三人娘の末娘が、恐ろしいケダモノと暮らすようになり、いったんは見捨てられたとおもったケダモノが餓死をはかり、急いで駆け戻った末娘が、「だめ、生きるのよ。そして結婚しましょう」というと、ケダモノが世にまたとなく美しい王子にかわり、二人が結婚するというもの。
でだしは金持ちの商人の船が海賊に襲われ、財産をのこらず失うところからはじまります。一年後、船が二隻無事だったことが分かり、商人が旅に出かけますが、このとき三人の娘に、お土産になにがいいか聞きます。
姉たちは「扇に、フランスの香水に、ダイヤモンドに、ルビーのペンダント」、末娘は「一輪のバラ」をあげます。
商人が町で用事をすませて帰る途中、嵐にであって、たどりついたのは御殿。そこの大広間には素敵なごちそうや酒の支度もしてありましたが、なぜか人っ子ひとりいません。商人が疲れのあまり、その場に寝込み、翌日、目を覚ましてもだれもいず、うまそうな朝飯が用意されていました。
御殿の庭にはバラが一面にさいていて、末娘のために一輪つもうとすると、二目と見られぬ恐ろしい怪物があらわれ、「もてなしてやったのにバラを摘むとは何事だ。いいぶんがあれば、ころされるまえに、お情けをこうがよかろう」といいだします。
商人が「あわれな父親が娘にバラたった一輪いただくのが、それほどの罪でしょうか」というと、ケダモノは、娘とひきかえに命をたすけるといいます。
商人はふるえながら家にもどりますが、上の二人の娘はかんかんにおこって姿をけしてしまいす。
末娘は、父親の命のためならとケダモノのところへ。食べられてしまうのではと父親は心配しますが、末娘の部屋は花が飾られ、音楽が流れていて居心地がよさそうでした。
ケダモノは昼間はずっと姿をみせませんでした。夕方、末娘がバラをながめているとケダモノがあらわれ「おれはきみのものだ。でも、きみ、おれがそんなにこわいかね?」というと「あなたって、ほんとに親切な方ね」と、末娘はこたえます。
ケダモノは「おれは、ばかなんだよ。おろかでひねくれたケダモノだ・・」といいますが「あなたはやさしいかたなので、うれしいわ。みかけがいくらきれいだって、あなたよりおそろしいひとが、いっぱいいてよ」という末娘に、結婚を申し込みます。これをことわった末娘をケダモノは、かげからこっそりみまもっていました。でも夕方になるとあらわれて、いっしょにすごします。
ケダモノはしきりに結婚の話をしますが、末娘は、友だちのままでがまんしてくださいというだけ、
やがて、末娘のことが心配で病気になった父のところへ一週間だけという約束ででかけます。
末娘のあたらしいきものや宝石をみた姉二人は、期限に間に合わないよう言葉たくみに末娘をひきとめます。何日かして、御殿のバラがみんなしおれ、ケダモノがのたうちまわっている夢を見た末娘が、御殿にかえってみると、ケダモノは飢死しようとしているところでした・・・。
姉ふたりの名前が、ツントとケチイ、末娘はキレイ。名は体を表しているようです。もうひとりは野獣ではなくケダモノ。絵ではケダモノの顔は二か所だけ。野獣という表現がしっくりしませんが、だとしてもケダモノというのはどうでしょうか。
描かれた女性の中世風の衣装は華麗です。