女性、結婚 姓で考える 香山リカのココロの万華鏡
その他 2015年12月22日 (火)配信毎日新聞社
仕事のやり取りでメールを使うことが多くなったが、つい相手の名前を間違ったりしてしまうことがある。たとえば、藤本さんを「藤木さん」、三船さんを「美船さん」という具合にだ。後から気づいて「しまった」と思うこともあるが、こちらが気づかないこともあるだろう。
しかしときどき、「私の名前は藤本ではなく藤木です」などと伝えてくれる人もいる。メールだからその心情まではわからないが、文面からするとちょっと機嫌をそこねているのかな、と思うこともある。もちろん、名前を間違えるなどというのは失礼なことだから、こちらも「たいへん申し訳ありません。老眼が進んでおりまして、名刺のお名前を読み間違えてしまいました」などと言い訳しながら、謝ることになる。
そういうメールをくれるのは決まって男性だ。きっと自分の名前をとても大切にしているのだ。だとしたら、結婚して姓をまるごと変えなければならない女性の気持ちも、少しは想像できるのではないだろうか。
いまの日本では、結婚する男女はだいたい96%が男性側、つまり夫の姓を名乗ることになる。「結婚する男女で姓を選べる」というのは建前で、実際には女性には選択肢などないのだ。かつて友人がこんなことを言っていた。「私の親族は字画占いにこだわりが強くて、私の名前も姓名全体の画数を考え抜いてつけられたものなんだよね。でも結婚して名字が変わることになったら、画数も変わっちゃうでしょう。それでもう一度占ったら最悪の運勢なんだって」。結局、彼女は親族のすすめで名前も漢字を変え、「姓も名も変わっちゃったよ」と苦笑していた。
選択的男女別姓を主張している人の多くは「仕事をする上で女性が姓を変えるのは不便だから」と言っているが、仕事をしていない女性の中にも、ずっとなじんできた姓を変えたくない、自分の姓と名前の組み合わせが好き、という人はたくさんいるのではないだろうか。「仕事をしていない女性なら姓を変えても問題ないでしょう」という考えはおかしいと思う。
診察室でも「今度、名前が変わったんです」と笑顔で報告する女性もいるが、彼女は結婚がうれしいのであって、改姓そのものがうれしいわけではないだろう。メディアで「女性であれば誰でも夫の名字になるのは喜び」と真顔で言う男性もいて、「女性って何だろう。結婚って何だろう」と改めて考えさせられた。(精神科医
その他 2015年12月22日 (火)配信毎日新聞社
仕事のやり取りでメールを使うことが多くなったが、つい相手の名前を間違ったりしてしまうことがある。たとえば、藤本さんを「藤木さん」、三船さんを「美船さん」という具合にだ。後から気づいて「しまった」と思うこともあるが、こちらが気づかないこともあるだろう。
しかしときどき、「私の名前は藤本ではなく藤木です」などと伝えてくれる人もいる。メールだからその心情まではわからないが、文面からするとちょっと機嫌をそこねているのかな、と思うこともある。もちろん、名前を間違えるなどというのは失礼なことだから、こちらも「たいへん申し訳ありません。老眼が進んでおりまして、名刺のお名前を読み間違えてしまいました」などと言い訳しながら、謝ることになる。
そういうメールをくれるのは決まって男性だ。きっと自分の名前をとても大切にしているのだ。だとしたら、結婚して姓をまるごと変えなければならない女性の気持ちも、少しは想像できるのではないだろうか。
いまの日本では、結婚する男女はだいたい96%が男性側、つまり夫の姓を名乗ることになる。「結婚する男女で姓を選べる」というのは建前で、実際には女性には選択肢などないのだ。かつて友人がこんなことを言っていた。「私の親族は字画占いにこだわりが強くて、私の名前も姓名全体の画数を考え抜いてつけられたものなんだよね。でも結婚して名字が変わることになったら、画数も変わっちゃうでしょう。それでもう一度占ったら最悪の運勢なんだって」。結局、彼女は親族のすすめで名前も漢字を変え、「姓も名も変わっちゃったよ」と苦笑していた。
選択的男女別姓を主張している人の多くは「仕事をする上で女性が姓を変えるのは不便だから」と言っているが、仕事をしていない女性の中にも、ずっとなじんできた姓を変えたくない、自分の姓と名前の組み合わせが好き、という人はたくさんいるのではないだろうか。「仕事をしていない女性なら姓を変えても問題ないでしょう」という考えはおかしいと思う。
診察室でも「今度、名前が変わったんです」と笑顔で報告する女性もいるが、彼女は結婚がうれしいのであって、改姓そのものがうれしいわけではないだろう。メディアで「女性であれば誰でも夫の名字になるのは喜び」と真顔で言う男性もいて、「女性って何だろう。結婚って何だろう」と改めて考えさせられた。(精神科医