勇気と良心忘れるな 相次ぐ企業の不祥事 コラム「近景遠景」
行政・政治 2015年12月24日 (木)配信共同通信社
企業の不祥事が止まらない。東芝の不正会計、旭化成建材に端を発したくい打ちデータ改ざん。12月には「化学及(および)血清療法研究所」(化血研)による血液製剤不正製造の詳細な内容が判明した。なぜ不正は繰り返されるのか。人間の心理面から考えてみる。
認知心理学や社会心理学に「確証バイアス」という用語がある。自分の仮説や信念を検証するとき、それを補強する情報や材料ばかりを集め、相反する情報を無視することを指す。人間が陥りやすい「わな」といえる。
例えば、不正に気付いたとする。でも「まあ、このぐらいはいいか」「他の人も黙認している」と考える。不正を矮小(わいしょう)化し、正当化する材料や情報を集めて判断してしまう。しかも、不正の隠蔽(いんぺい)にかじを切って進んでいる組織を、個人の力で軌道修正するのは難しい。
確証バイアスが頭をよぎったのは、化血研の不正の隠蔽工作が長期間発覚しなかったからだ。第三者委員会の報告書によると、不正製造が始まったのは1974年ごろ。血液製剤の早期の製品化や安定供給を図る目的で、国の承認と異なる方法で製造していた。
国の査察による発覚を逃れ、正式な書類を提出しないように画策。偽の製造記録はゴシック体、実際の製造記録は明朝体で2種類の書類を作成した。国に求められた書類がなかったため、虚偽の書類に紫外線をあて変色させ、作成時期を古くみせかけていた。
「よくまあ、悪知恵が働くものだ」と、あきれるのが市民感覚だろう。法令順守に甘い組織の体質に、そもそも問題がある。「告発」できない雰囲気もうかがえる。その上でチェック機能が働かないのは、確証バイアスの「負のスパイラル」も関係したのではないか。
その悪循環から脱出する特効薬はない。結局、一人一人の良心や勇気にかかっている。品格や誇りと言い換えてもいい。効率や成果に追われる日常でも、強固な意志で襟を正す。その意識を忘れてならないと思う。
化血研を例に挙げれば、血液製剤の売上高は国内2位の医薬品メーカーである。不正や隠蔽に関わった人は、その社会的責任や薬に頼らざるを得ない患者に思いをはせなかったのだろう。(共同通信編集委員 志田勉)
原発に起きたら、起きないとは絶対にいえない、このリスクを背負うことの、後世への悔恨
行政・政治 2015年12月24日 (木)配信共同通信社
企業の不祥事が止まらない。東芝の不正会計、旭化成建材に端を発したくい打ちデータ改ざん。12月には「化学及(および)血清療法研究所」(化血研)による血液製剤不正製造の詳細な内容が判明した。なぜ不正は繰り返されるのか。人間の心理面から考えてみる。
認知心理学や社会心理学に「確証バイアス」という用語がある。自分の仮説や信念を検証するとき、それを補強する情報や材料ばかりを集め、相反する情報を無視することを指す。人間が陥りやすい「わな」といえる。
例えば、不正に気付いたとする。でも「まあ、このぐらいはいいか」「他の人も黙認している」と考える。不正を矮小(わいしょう)化し、正当化する材料や情報を集めて判断してしまう。しかも、不正の隠蔽(いんぺい)にかじを切って進んでいる組織を、個人の力で軌道修正するのは難しい。
確証バイアスが頭をよぎったのは、化血研の不正の隠蔽工作が長期間発覚しなかったからだ。第三者委員会の報告書によると、不正製造が始まったのは1974年ごろ。血液製剤の早期の製品化や安定供給を図る目的で、国の承認と異なる方法で製造していた。
国の査察による発覚を逃れ、正式な書類を提出しないように画策。偽の製造記録はゴシック体、実際の製造記録は明朝体で2種類の書類を作成した。国に求められた書類がなかったため、虚偽の書類に紫外線をあて変色させ、作成時期を古くみせかけていた。
「よくまあ、悪知恵が働くものだ」と、あきれるのが市民感覚だろう。法令順守に甘い組織の体質に、そもそも問題がある。「告発」できない雰囲気もうかがえる。その上でチェック機能が働かないのは、確証バイアスの「負のスパイラル」も関係したのではないか。
その悪循環から脱出する特効薬はない。結局、一人一人の良心や勇気にかかっている。品格や誇りと言い換えてもいい。効率や成果に追われる日常でも、強固な意志で襟を正す。その意識を忘れてならないと思う。
化血研を例に挙げれば、血液製剤の売上高は国内2位の医薬品メーカーである。不正や隠蔽に関わった人は、その社会的責任や薬に頼らざるを得ない患者に思いをはせなかったのだろう。(共同通信編集委員 志田勉)
原発に起きたら、起きないとは絶対にいえない、このリスクを背負うことの、後世への悔恨