iPSがん治療 実用化に向けて今が正念場だ
2019年1月15日 (火)配信読売新聞
人の様々な細胞や組織へと分化するiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた病気治療の研究が活気付いている。
開発の当初から期待されてきた再生医療にとどまらず、がん治療などにも幅が広がっている。実用化へ、正念場に差しかかったと言えよう。有用性をしっかりと見極めたい。
iPS細胞による国内初のがん治療に挑むのは、理化学研究所と千葉大病院だ。臨床試験(治験)を年内にもスタートさせる。
がんを攻撃する特殊な免疫細胞をiPS細胞から作り、頭頸部がんの患者に注入する。従来の手法では十分な量の細胞を確保できなかったが、活発に増えるiPS細胞なら、大量に作製できる。
この免疫細胞は、他の免疫系も活性化する。今回の治験で安全性を確認できれば、効果を測る治験に移る。順調に行けば、肺がんなどへの適用も検討するという。
iPS細胞が、がんと闘う新たな手段となるよう期待したい。
再生医療でも、実際の患者を対象とした取り組みが相次ぐ。
京都大はパーキンソン病患者に対する治験を始めた。iPS細胞から分化させた神経細胞を脳に移植し、手足の震えを減らせるかどうかを確認する。効果が出れば、治療の選択肢が広がるだろう。
慶応大は、脊髄損傷患者を対象とした臨床研究を計画中だ。大阪大も、重症の心不全患者にiPS細胞から作った心筋シートを移植する臨床研究の実施を目指す。
京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長が、人のiPS細胞を開発してから12年になる。いよいよ基礎研究段階は脱しつつある。
現時点で重要なのは、安全性の確保である。iPS細胞は様々な細胞に変わり得るが、その柔軟性は、がん化のリスクとも隣り合わせだ。患者の状況を注意深く、継続して見守る必要がある。
iPS細胞の作製や供給でも、新たな態勢が求められよう。
患者由来のiPS細胞なら、治療に使っても拒絶反応が出にくい。このため、オーダーメイドの細胞が望まれるが、最大で1億円もかかる。清浄な環境を保つ専用施設などを設けるよう、関連法令で定められているためだ。
国内のiPS細胞の備蓄・提供事業を主導する山中所長は、これを100万円にまで引き下げる目標を掲げる。備蓄事業も外部委託してコスト低減を図る。
政府は、法整備や予算面で後押しすべきだ。日本発のiPS細胞の治療技術を大事に育てたい。
2019年1月15日 (火)配信読売新聞
人の様々な細胞や組織へと分化するiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた病気治療の研究が活気付いている。
開発の当初から期待されてきた再生医療にとどまらず、がん治療などにも幅が広がっている。実用化へ、正念場に差しかかったと言えよう。有用性をしっかりと見極めたい。
iPS細胞による国内初のがん治療に挑むのは、理化学研究所と千葉大病院だ。臨床試験(治験)を年内にもスタートさせる。
がんを攻撃する特殊な免疫細胞をiPS細胞から作り、頭頸部がんの患者に注入する。従来の手法では十分な量の細胞を確保できなかったが、活発に増えるiPS細胞なら、大量に作製できる。
この免疫細胞は、他の免疫系も活性化する。今回の治験で安全性を確認できれば、効果を測る治験に移る。順調に行けば、肺がんなどへの適用も検討するという。
iPS細胞が、がんと闘う新たな手段となるよう期待したい。
再生医療でも、実際の患者を対象とした取り組みが相次ぐ。
京都大はパーキンソン病患者に対する治験を始めた。iPS細胞から分化させた神経細胞を脳に移植し、手足の震えを減らせるかどうかを確認する。効果が出れば、治療の選択肢が広がるだろう。
慶応大は、脊髄損傷患者を対象とした臨床研究を計画中だ。大阪大も、重症の心不全患者にiPS細胞から作った心筋シートを移植する臨床研究の実施を目指す。
京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長が、人のiPS細胞を開発してから12年になる。いよいよ基礎研究段階は脱しつつある。
現時点で重要なのは、安全性の確保である。iPS細胞は様々な細胞に変わり得るが、その柔軟性は、がん化のリスクとも隣り合わせだ。患者の状況を注意深く、継続して見守る必要がある。
iPS細胞の作製や供給でも、新たな態勢が求められよう。
患者由来のiPS細胞なら、治療に使っても拒絶反応が出にくい。このため、オーダーメイドの細胞が望まれるが、最大で1億円もかかる。清浄な環境を保つ専用施設などを設けるよう、関連法令で定められているためだ。
国内のiPS細胞の備蓄・提供事業を主導する山中所長は、これを100万円にまで引き下げる目標を掲げる。備蓄事業も外部委託してコスト低減を図る。
政府は、法整備や予算面で後押しすべきだ。日本発のiPS細胞の治療技術を大事に育てたい。