失った声、ソフトで再現 がん、ALS患者が活用 話し方も本人似に 「スクランブル」
2019年1月24日 (木)配信共同通信社
病気や手術で失った声を、音声合成ソフトで再現する取り組みが広がっている。事前に録音した本人の声をつなぎ合わせる仕組みで、喉頭がんや筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者らが活用。話し方を本人に似せるソフトもある。親しみのある声がよみがえり、周囲とのコミュニケーションも豊かになると好評だ。
「体の痛みや具合の悪さを周りに伝えるのは、苦労しますよね」。ALS患者の米沢和也(よねざわ・かずや)さん(60)は、札幌市西区のコミュニティーFMで月1回パーソナリティーを務める。闘病生活や時事問題が主な番組内容で、音声合成ソフト「ボイスター」を使い、穏やかな低い声でリスナーに語りかける。
発症前から話すことが好きで「声で伝える大切さを実感しています」。番組では巧みにアドリブを交えながら、インタビューにも挑戦している。
ボイスターの利用者は、病状が悪化したり、喉頭摘出などの手術を受けたりする前に400~千の文章を録音しておく。ボイスターは録音を基に話し方の特徴を分析し、パターン化する。パソコンに文章を入力すると、その人の話し方に最も近い音を選んで再生する。
販売元のシステム開発会社「ヒューマンテクノシステム東京」の渡辺聡(わたなべ・さとし)さん(54)は、別の会社に勤めていた2007年、下咽頭がん患者で大阪芸術大教授だった牧泉(まき・いずみ)さん=享年(60)=から「手術後も自分の声で講義したい」と相談を受けた。ソフトが完成し、既に声帯を切除していた牧さんが使ってみると、本人に似た関西弁がよみがえった。
大学の講義で活用し、学生からは「親しみが持てる」と好評だった。息子の結婚式でもボイスターを使ってあいさつした。妻恵子(けいこ)さん(69)は「元々よくしゃべる夫婦で、ちょっとしたけんかもできた」と振り返る。
口コミで利用者が増えているボイスターの価格は、録音する声のデータ量などに応じて約36万~95万円。渡辺さんは「もっとリーズナブルに、その人らしさを再現できるよう改善したい」と研究を続けている。
インターネットで公開されている無料ソフトもある。東京都立神経病院の作業療法士本間武蔵(ほんま・むさし)さん(56)と、長崎県佐世保市のシステムエンジニアで、自身も言語障害がある吉村隆樹(よしむら・たかき)さん(53)が手掛けた「マイボイス」だ。あらかじめ録音した124音を組み合わせる。
都立神経病院では、患者や来訪者が肉声を残そうと録音に取り組む。本間さんは「録音を通じて、病気に立ち向かう気持ちが湧く人もいる」と、精神面のプラス効果にも期待している。