高齢者施設 感染に苦慮…クラスター7倍 入院先なし 療養相次ぐ
2022年2月13日 (日)配信読売新聞
新型コロナウイルスの感染者の増加スピードが鈍化する一方で、高齢者施設での感染拡大が続いている。クラスター(感染集団)の発生も急増し、病床 逼迫ひっぱく から入院できずに施設内での療養を余儀なくされるケースが相次いでいる。感染対策に不慣れで、支援も十分に届かない中、施設は対応に苦慮している。(社会保障部 野口博文、医療部 塩島祐子)
職員も感染
「まさか、高齢者が入院できないなんて。急変したらどうなるのか」
東京都内の特別養護老人ホーム(特養)の施設長(49)は、不安を隠さない。1月下旬以降、60~90歳代の入居者8人が相次いで新型コロナに感染し、クラスターが発生した。入院できたのは3人だけだ。
残りは施設内療養となり、感染を防ぐため居住区域を分ける「ゾーニング」を、昨年のオンライン研修を思い出して行った。医療用マスクや防護服も着けて介護したが、職員にも感染が広がった。施設長は「職員は精神的にも身体的にも負担が大きい」と訴える。
厚生労働省のまとめでは、高齢者施設で発生したクラスター(5人以上)は、今月6日までの1週間で292件を記録。昨夏の「第5波」のピーク(43件)の約7倍に上り、今なお増え続けている。これに伴い、大阪府の2月初旬の調査では、高齢者施設などに入居する感染者の約8割が、施設内で療養していた。
新たな変異株「オミクロン株」は感染力が強く、高齢者施設でクラスターが起きると特に抑え込むのが難しい。50人以上が感染した神奈川県内の施設では「ゾーニングしても、認知症で動き回る人がいる。あっという間に広がった」。感染拡大が先行した沖縄県の施設では、入居者ほぼ全員と職員の半数以上に感染が広がり、陽性の職員が陽性の入居者を介護する「陽陽介護」の事態に陥った。
高齢者施設でのクラスター発生で、医療機関のコロナ病床も急速に逼迫している。日大板橋病院(東京都板橋区)では、重症・中等症患者用に確保した56床はほぼ埋まり、約7割を高齢患者が占める。
オミクロン株は重症化しにくいとされるが、高齢者は、感染を機に糖尿病などの持病が悪化する例が目立つ。高山忠輝病院長補佐は「若い患者は5日ほどで退院できるが、高齢だと10日から2週間ほどかかることが多い」と指摘。こうした状況が、病床逼迫に拍車をかける。
指導受け準備
入院できない事態を見据え、感染者を介護する訓練を始めた施設もある。
東京都武蔵野市の特養「とらいふ武蔵野」では10日、感染対策に詳しい看護師の指導を受け、職員が不織布ガウンやビニールエプロンの着脱方法を学んだ。
入居者が感染して施設内療養が必要になった場合、併設のデイサービスを閉鎖し、感染者最大10人を隔離できるスペースとして転用する計画をたてた。別の施設と協定を結び、デイサービスの利用者を受け入れてもらう手はずも整えた。看護師の都築純子さん(48)は「重症化リスクが高い高齢の感染者には入院してもらいたいが、施設でみる覚悟を決めた」と語る。
高齢者施設の職員は、感染対策の教育や訓練を十分受けていないことが多い。都道府県は、国の要請を受けて、指導などを行う専門家チームを設置した。しかし、実際には支援が届いていない施設は少なくない。
菅原えりさ・東京医療保健大教授(感染制御学)は「施設と地域の専門家をつなぐ窓口を、市町村が緊急に設置するなどの対策が急がれる」と話している。