「100%の救急応需」を掲げ、鳥取県東中部圏域の医療のゼネラリスト(万能型人材)に―。2021年4月、出身地である鳥取市の県立中央病院に、救命救急センター長・集中治療センター長として着任した小林誠人医師(53)。救急医療"不毛の地"とされてきた同圏域で、地域全体を見据えた視点で救命率向上に全身全霊で取り組む彼の姿を追った。
■相次ぐ搬送
雪が舞う冬空の日の午前11時だった。同病院の救命救急センターに、ドクターヘリ(ドクヘリ)の救急搬送の一報が入った。
万全の態勢で小林医師ら医療スタッフがヘリポートで待ち受ける。ヘリが到着すると、担架に乗せられた男性患者が運ばれてきた。
「高所からの落下で、重症です」。同乗したスタッフから報告を受けると、すぐさま患者の意識レベルやけがの状態を確認する。小林医師が「痛みはありますか」と声を掛けると、男性は顔をゆがませながら小さくうなずいた。男性を救急病棟内に運び込むと、医師や看護師らに次々と処置の指示が飛んだ。
その1時間後にもドクヘリや救急車による搬送が続き、ベッドはあっという間に埋まった。
■息つく間もなく
息つく間もなく、午後4時半すぎにこの日3回目のドクヘリが到着。市内の高齢者施設から意識消失の女性が搬送されてきた。「こんにちはー」「分かりますかー」。小林医師が声を掛けるも応答はない。
エコーや胸部エックス線検査などの処置をスタッフに指示すると、医療機器が次々と準備されていく。傍らには別の救急患者について小林医師に指示を仰ぐ医師らスタッフの姿。「施設に帰せるかどうか判断しないと...」。患者の処置中にも判断が求められる。
別の日―。除雪機に指を巻き込まれ負傷した男性をはじめ交通事故や脳卒中、心筋梗塞など、午前だけでもさまざまな事案の救急患者が搬送されてきた。センター内には緊迫感が立ち込め、医療スタッフの掛け合う声や慌ただしく行き来する足音の速さが耳に残る。「これが普通の救急集中治療の現場です」。雰囲気にのまれそうになる記者に、小林医師が語り掛けた。
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2005年の尼崎JR脱線事故での現場では陣頭指揮を執り、全国屈指のドクヘリ出動実績と日本一の救命率で知られる兵庫県豊岡市の公立豊岡病院但馬救命救急センターなどの立ち上げにも携わった小林医師。次回は、数々の救急医療現場で尽力してきた小林医師の"信念"に迫る。