静岡の保育士3人逮捕 虐待の連鎖なぜ起きた
社説
07:00(最終更新: 07:00)
静岡県裾野市の私立保育園で園児を虐待したとして、静岡県警はきのう、退職した保育士3人を暴行の疑いで逮捕した。在職中だった6月、いずれも1歳児クラスの男児の足をつかんで宙づりにしたり、別の男児の頭を殴ったり、女児の顔を押したりした疑いが持たれている。
園の調査では、3人はその後も15項目もの問題ある言動を重ねていた。なぜ虐待の連鎖が起きたのか。防ぐことはできなかったのか。複数の人が何度も繰り返したのは、虐待が常態化していた証しではないか。そんな疑念さえ浮かんでくる。まずは捜査を尽くし、実態を徹底的に解明することが求められる。
園の対応が適切だったか、も追及しなければならない。逮捕された3人は全員30代。一定の経験を積んでいたはずだ。にもかかわらず、3人は園児のズボンを無理やり下ろしたり、カッターナイフを見せて脅したり、寝かしつけた園児に「ご臨終です」と言ったりするなど、許し難いと誰もが思う行為を繰り返していた。
園として、どのように指導し、対応したのか。保育士の管理のあり方や、風通しのよい職場だったのかを含め、洗いざらい検証する必要がある。
看過できないのは、園側が暴言や虐待行為を口外しないよう求める誓約書を全ての保育士に書かせていた疑いがあることだ。園児や保護者に謝罪や説明もせず、外部に漏れないよう、かん口令を敷いたように映る。これでは「隠蔽(いんぺい)しようとした」と批判されても仕方あるまい。
この事件で県警は、保育園の家宅捜索や保育士逮捕といった強制捜査を急いだ。園の体質を考えて、証拠隠滅の恐れがあると判断したからに違いない。
裾野市の対応にも疑問が残る。8月中旬に情報提供を受けて、園長との面談などで状況を調べていたものの、問題を公表したのは3カ月以上過ぎた先月末だった。虐待が疑われる3人は、その日までに退職しており、後手に回った。
保護者が安心して、保育園や幼稚園などに子どもを預けられるのは、施設や、それをチェックする行政を信頼しているからだ。今回のように問題が起きた場合は、迅速な対応や事実関係の公表が欠かせない。その点が裾野市は不十分だった。対応に甘さはなかったか、反省を求めたい。同時に、この問題でどう対応したか、経過を明らかにすることが急がれる。
信じ難いことだが、保育士による虐待は先週、相次ぎ発覚した。仙台市の認可外保育所では「服を汚さないよう」園児に下着姿で食事をさせていた。富山市の認定こども園では、泣きやまない園児を倉庫に閉じ込めたり、移動を促そうと尻を棒で突いたりしていた、という。
静岡や富山のケースで保育士は「しつけや指導のつもりだった」と釈明している。全国で後を絶たない親による体罰をはじめ児童虐待でも「しつけのため」との言い訳をよく聞く。
しかし今、親権者が子どもを戒める「懲戒権」を削除した民法改正案が国会で審議されている。体罰はたとえ親ですら許さないのが時代の流れである。
子どもを独立した人格として尊重する―。そんな社会になってこそ、虐待は根絶できる。改めて胸に刻んでおきたい。