コロナ類型「緩和」 「インフルと特徴違う」 専門家は慎重、公費負担焦点に
2022年12月17日 (土)配信毎日新聞社
新型コロナウイルス感染症の重症化率の低下を受け法律上の位置づけの緩和に向けた議論が本格化している。政府は季節性インフルエンザと同類型への移行を視野に入れる。だが、議論の基礎として厚生労働省が感染症の専門家に見解を求めたところ慎重論が出た。「インフルエンザとは明らかに違う特徴がある」。新型コロナと向き合う上で、ワクチン接種の公費負担など、どんな対策を続けるべきかが今後の焦点となる。
見解を示したのは、厚労省にコロナ対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」座長の脇田隆字・国立感染症研究所長ら4人の専門家チームだ。
14日の会合で示された資料にはこう書かれている。「明確な季節性がなく年間を通して流行を繰り返す」「心臓など循環器系の合併症による死亡に関連」「罹患(りかん)後症状(後遺症)は長期にわたる」――。インフルエンザと異なる疾患だと強調した。「同等」となるには、多くの人が何回もの感染を経て免疫を獲得する経過を経るとし、「長い時間を要する可能性もある」との評価に至った。
これを受け厚労省幹部は語った。「コロナに応じた医療体制を構築しないといけない」。感染症法で「2類相当」とされる厳しい対策が可能な新型コロナ。特別強い対策のない5類のインフルエンザと全く同じに引き下げるのではなく、「5類プラスα」として、何らかの対策を残す必要があるというのだ。
5類になると、全額公費負担だった医療費の一部が患者の自己負担となる。発熱外来などの医療機関以外でも診察することになり医療逼迫(ひっぱく)は解消されるとの見方もあるが、院内感染を避けるため受け入れない医療機関も出るとみられる。ワクチン有料化の議論も進む。「プラスα」がなければ、感染状況や患者の診療に影響を与える。
専門家の一人は「感染しても重症化しづらいので大丈夫だと言うには、ワクチンが重要。あとは治療薬と医療提供体制を整えることだ」と話す。
年明けにも、政府は専門家会議などで議論を本格化させるとみられる。
医療機関の考えはどうか。河北総合病院(東京都杉並区)は、入院しているコロナ患者の多くが80歳以上の高齢者だ。コロナ自体は軽症でも、認知症があったり、食事や排せつの介助が必要だったりする人が多いという。岡井隆広副院長は「防護服を着て介助する看護師の負担は大きく、マンパワーも足りていない」。4人部屋でも1人のコロナ患者しか受け入れられないのが現状だ。類型見直しについて「高齢者や基礎疾患のある人を守るため、仮に引き下げるとしても、一定の対策を残すべきだ」と岡井副院長は訴える。
特に維持を要望するのが、コロナ病床のある医療機関に出される補助金だ。河北総合病院では現在、一般の患者受け入れを制限しながら、全病床の35%をコロナ用に空けている。岡井副院長は「補助金があるからコロナ患者を受け入れられる。打ち切られた場合、患者を診ないところも出てくるはずだ」と話した。【村田拓也、神足俊輔、寺町六花】
◇自治体「国は早く方針を」
東京都は「2類相当」という新型コロナの分類が、政府が全数届け出を取りやめ行動制限実施を見送っている実態と見合っていないとして、政府に早期の見直しを求めている。一方で「5類」に引き下げた後も、必要なサービスの公費負担を継続するために「財政措置が必要だ」と強調する。
都内の新規感染者数(週平均)は14日時点で前週比約1・2倍の1万4000人超となり、感染拡大が続く。だが都は政府が示した「医療ひっ迫防止対策強化宣言」などの措置は当面見送り、社会経済活動を継続させたい考えだ。
15日に開かれた感染動向を分析するモニタリング会議で、都はいくつかの懸念を示した。仮に「5類」になると治療薬の自己負担分が高額になることや、9600円とされるワクチン接種費用の自己負担分が生じることなどだ。
さらに、都のコロナ対策費は、財源の大半が国費でまかなわれている。都幹部は「全てのサービスを都の独自予算で続けるのは不可能。分類や予算措置はどうなるのか、国は早く方針を示してほしい」と望む。
人口10万人当たりの感染者数で高水準が続く宮城県。確保病床の使用率が6割を超えた2日後の11月30日、独自の「みやぎ医療ひっ迫危機宣言」を発令した。医療機関の負担軽減を狙い自己検査キットの活用やワクチンの早期接種などの対策の徹底を県民に呼びかける一方、会食に制限は設けず、イベントの人数制限も強化しなかった。
村井嘉浩知事はその理由について、5日の記者会見で「できるだけ経済は止めないようにしたい」と説明。政府の示す「対策強化宣言」の発令を見送ったことについても「(県民が)重く受け止めるほど、社会経済活動への影響が大きくなってしまう」と述べた。
また、初の国産治療薬が承認されたことや、重症化率や死亡率の低下を挙げて、「5類」への引き下げにも「そろそろ分類の見直しはあってもいいのではないか」と理解を示した。県復興・危機管理総務課は「現状でも行動制限はしていないので、オミクロン株程度の感染力のままであれば問題ない」とみる。
富山県衛生研究所の大石和徳所長は「2類としての機能を一部残し、5類の運用に近づけるのが良いだろう」と語る。オミクロン株では重症化率が低いこともあり、治療費の全額公費負担は必要ないのではと指摘。一方、ワクチン接種や行政による検査の公費負担は、維持すべきだとした。大石所長は「新型コロナの性質は変化し続けており、柔軟な対応が必要だ」とした。【黒川晋史、小川祐希】