コロナワクチン 接種後に死亡して解剖されたのは1割程度…人員不足など体制に課題
2022年12月31日 (土)配信読売新聞
新型コロナウイルスワクチン接種後、副反応の疑いがあると国に報告された死亡例約1900件のうち、死因を調べるために解剖されたのが、1割程度にとどまることが分かった。医療機関や遺族の意向に委ねられ、解剖を行う体制も不十分なことが大きい。接種が始まって約1年10か月。専門家は「新しいワクチンであり、死因を究明して知見を集める仕組みが必要だ」と指摘する。(手嶋由梨)
国の公表資料によると、副反応の疑いがあるとして医療機関などから報告された死亡例は、接種開始当初の昨年2月17日から今年11月13日までで1919件。読売新聞が資料を詳しく調べたところ、死因を判断するために解剖したとの記載があったのは約220件だった。
解剖以外では、CT(コンピューター断層撮影装置)などを利用した画像診断や血液検査が行われていた。ただ、5割近くの約920件は、死因をどう判断したかが「不明」で、死亡時の状況や経緯などの詳しい情報がないものも多かった。死因は虚血性心疾患や心不全、肺炎などが目立った。
日本法医学会、日本病理学会、日本法医病理学会は7月、「積極的な解剖を推奨する」との声明を合同で発表。同学会理事長の近藤稔和・和歌山県立医科大教授は「実施が1割というのは少ない。予期せぬ死亡は起きており、詳しく調べて知見を集めるべきだ」と指摘する。
解剖例が少ない背景には、解剖を実施するうえでの体制の問題がある。
病理解剖の費用(1件約25万円)は原則として病院の全額負担となる。家族を失ったばかりの遺族から同意を得にくいという事情もある。解剖数自体が20年前の年間2万5000件から、近年は同1万件前後まで減少。コロナ禍での感染対策の難しさも影響している。
自治体が死因究明のために行う行政解剖もあるが、監察医制度で医師が常駐する東京23区や大阪市などと比べ、他の地域は人員や設備が不足しているという。
福岡大の久保真一教授(法医学)は「ワクチンは多くの国民を対象としており、国が責任を持って死因究明を行う仕組みが必要ではないか」と主張する。
死亡例については、厚生労働省所管の「医薬品医療機器総合機構」が情報を集約。複数の専門家がワクチンとの因果関係を評価し、厚労省の「副反応検討部会」が検証する。全1919件の99%が「情報不足などで評価できない」とされ、解剖が行われた約220件を含め、因果関係が認められた事例はまだ一例もない。
同部会で部会長を務める森尾友宏・東京医科歯科大教授は「心不全でも脳卒中でも、ワクチンを打って亡くなったのか、打たなくても亡くなったのかの区別は難しい」としつつ、「持病がなく死因が分からない報告例もあり、解剖して調べることは有効だ」とする。
小田義直・九州大教授(病理学)は「体内で起こっていることを解剖で解明することで、副反応の予防や治療法が見つかる可能性もある。そうすれば、より安心して使えるワクチンになっていく」としている。
娘の死「国は向き合って」
大分県別府市の女性(77)は解剖を望んだが、かなわなかった一人だ。娘(当時56歳)が昨年7月、1回目のワクチン接種をした翌日、体調が急変して亡くなった。病院から「死因は急性大動脈解離と判明しており、必要はない」と解剖を断られたという。
娘には自閉症やてんかんがあったが、毎年の健康診断で異常はなかったという。30年以上、2人で暮らしてきた。「あの子が先にいくなんて」。母親は今も、小さな骨つぼを手元に置く。
死亡例は、副反応の疑い例として病院が国に報告。因果関係は「評価できない」とされた。
母親は今年9月、接種後の健康被害を調べる国の救済制度に申請した。認められると、死亡一時金などが支払われる。
「ワクチンで助かった命も多いはず。国が接種を推奨したのは理解できる」。母親はそう話しながら、「前日まで元気だった子が接種翌日に亡くなったのは事実。国はそのことに向き合ってほしい」と訴える。