「走る病院」患者負担軽く 自宅前で医師が遠隔診察
看護師が医療機器を載せた車で患者宅に出向き、病院にいる医師が遠隔で診察する―。岩手県北上市は車内でオンライン診療を受けられる「モバイルクリニック」の実証実験を始めた。医療資源が限られる中、遠方から市内の病院に通う患者の負担軽減を目指す。
11月24日午後、市街地を走り抜けたワゴン車が、一軒の家の前に止まった。住民の70代男性が車に乗り込むと、市非常勤職員の城島美栄子(じょうじま・みえこ)看護師が体温や血圧を測定する。「体調はお変わりないですか」。デスクトップ画面から主治医が語りかけ、診察が始まった。
男性は7年前から3カ月に1回、市中心部の北上済生会病院に、自身で車を運転して通う。しかし身体機能の衰えを感じ、雪道での運転にヒヤッとすることもあり、通院が負担となっていた。車内での診察に「画面越しでも違和感はない。待ち時間も減るのはありがたい。看護師がいるのも安心」と歓迎する。
モバイルクリニックは、患者の自宅前や近くに到着した車の中で、テレビ会議システムを介し病院内の主治医の診察を受ける仕組み。簡易な医療機器も搭載し、遠く離れた医師がリアルタイムで患者を聴診することもできる。車内の機器は同乗する看護師が操作する。
オンライン診療は、対面診療に比べると制限が多い。しかし城島看護師は「家庭での様子など、訪問することで見えてくるものもある」と強調する。
北上市では診療所の閉鎖が相次ぎ、16地区のうち中心部から遠い8地区には診療所がない。医師不足やコスト面で、設置を求める住民の声に応えられずにいた。転機は2021年12月。モバイルクリニックを導入していた長野県伊那市を視察し、「医療サービスを届ける有効な手段になる」と試験的な導入を決めた。
実証実験の対象は、診療所のない中山間地域在住で、慢性疾患で北上済生会病院に通院中の患者。症状が安定し、3回に1回は同病院で受診することが条件だ。電波が不安定な場所での診療や、雪道での運行などの課題を洗い出した上で、23年度の本格運用を目指す。
病院の担当者は、通院負担を減らせば、遠隔地でも定期的な受診や適切な服薬管理ができると指摘。「うまく活用し、市民の健康づくりに寄与したい」と意気込む。