クラスターに激しい誹謗中傷、客の応援で再起 夢追う人の背中を押し続けるライブハウス経営者
客席の周囲で役者たちが歌い踊り、駆け回る。昨年12月中旬、大阪市北区のライブハウス「ソープオペラクラシックス梅田(Soc)」で、6日間にわたってミュージカルが上演された。
カーチェイスあり、銃撃戦ありのスパイコメディー。少し間隔を空けて並べた55席は連日、ほぼ満席だった。盛況に終わった公演を、自ら原案を手がけたSocの片山行茂代表(54)は客席後方から、感慨深げに見守っていた。
2020年2月、この劇場を上陸間もない新型コロナウイルスが襲った。「コロナが出た大阪のライブハウス」として名が広まり、激しいバッシングにさらされて、3年近くが過ぎた。
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「京橋のライブハウスで複数の感染者が出ている」
Socに出演予定のアーティストから連絡が入ったのは、同年2月29日だった。「うちでも広まっているのでは」と不安を覚え、すぐにライブの中止を決めた。だが、翌々日、市の保健所から「複数の感染者が『Socを訪れた』と答えている」と電話があった。
事態を知らない人が少しでも早く検査を受けられるよう、施設名の公表に応じた。直後から「どう責任取るんや」「つぶれろ」と電話やメールが殺到した。
誹謗(ひぼう)中傷は数百件に上った。クラスター(感染者集団)が発生した当日の出演者らは、顔や名前がリスト化され、インターネット上にさらされた。匿名の罵声を浴び続け、「ライブハウスは悪の組織に、自分自身が犯罪者になったような気分だった」。
片山さんは眠れなくなり、外を歩くと「刺されるかも」とびくびくした。ライブハウスの正面玄関を閉ざし、裏口からこっそり出入りした。
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ライブを再開する見通しが立たない中、月100万円の賃料が重くのしかかった。当時三つのライブハウスを運営していたが、20年5月に1カ所を閉めた。
存続を図ってクラウドファンディングを募ったところ、計900万円以上が集まった。銀行の融資や国の給付金にも助けられ、ライブを再開したのは同年8月。客席はわずか12席だったが、ビニール越しに向かい合う歌手と観客の表情は生き生きとしていた。
その後も時短要請などが繰り返され、感染状況からスケジュールを見通せない日々は今も続く。客席数をしぼった日々の公演も、なかなか黒字にはならない。
それでも、片山さんは「音楽は心を豊かにする。それを不要不急ではないと感じる人のため、受け皿であり続けたい」とステージの企画を練る。
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どうしても上演したい作品がある。コロナ前に企画したが、延期が続いているミュージカル「ドリーマー」。キャストの中には、コロナ禍で楽器を置いた音楽家や、舞台を降りた役者もいる。
夢を追う人に「また頑張ろう」「前を向こう」と背中を押す作劇を-。片山さんはこだわり続ける。