温泉クンの旅日記

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十津川へ ②

2006-05-27 | 旅行記
 <十津川へ ②>

 ここは奈良県の最南部、十津川温泉のホテル昴(すばる)である。

「エッー! 横浜からまっすぐここに来られたんですかア!」
 部屋に案内してくれた仲居さんが、素っ頓狂な声をあげた。丸くした目は、驚い
ているというよりは間違いなく呆れているようだった。身体に無理のきく若者には
わたしは絶対にみえないからだろう。

「本当は、今日は鳥羽泊まりで、明日あたりこちらに来ようと思っていたんです
よ。ところが思ったより高速道路が空いていて早く三重県にはいれたものですか
ら、試しにまずここに電話したら今日部屋が空いているといわれて、エーイそれな
ら行っちゃえと・・・」

「それはそれは、遠いところをさぞお疲れになったことでしょうね。はい、お茶を
どうぞ召しあがって・・・でもですねえ、今日で本当によかったですよ。明日だっ
たら団体の予約でいっぱいだったから」
 なんと、ツいていたようだ。結果オーライ、とりあえずラッキーだった。さすが
に十一時間の運転で眼はショボショボになり、肩や背中がガチガチにこりまくった
甲斐があった。

 仲居さんがいなくなるとあっというまに浴衣に着替えて、簡単に部屋をチェック
した。
 冷蔵庫の上には氷水がはいったポットや、カップ麺などもおいてあり、なかなか
気がきいている。ザックに忍ばせた非常用のカップ麺もここではどうやら必要ない
ようだ。冷蔵庫は空で、自動販売機から買ったものをいれてくれとのことだ。
さっそくザックのなかから、呑み残しのペットボトルを二本とりだして、冷蔵庫に
しまった。
 トイレは最新式のシャワートイレでありがたい。バスはないがもともと使わない
ので平気である。

 さて、なにはともあれ温泉にいってみよう。

 別棟になっている温泉の入り口には「源泉温度が六十度以上と高いので加水して
います」とか、「高温の源泉のため、レジオネラ菌については適正に対応していま
すのでどうか安心してご入浴ください」とか、インチキ温泉騒動が原因なのか、
気になることはみな貼り出してあった。泉質はナトリウム炭酸水素塩・塩化物泉
で、泉温は七十度。

 内風呂の湯の花がかなり濃い熱めの温泉が、こわばった身体のあちこちの筋やら
筋肉をゆっくり丁寧にほどいていく。適当なところで露天風呂へ向かう。露天も
内風呂よりは狭いが矩形で、十人ぐらいははいれそうだ。外気で冷やされて丁度
いいころあいの温度である。



 湯口から落ちてはじける温泉の音だけのなかで、夕暮れの空と薄暗い山の稜線を
ぼんやりみながら浸かっていると、なにもかも忘れてしまう。顔や首や肩先を包む
大気には森の精気が満ち、地球の恵みの羊水のような活力を持った湯が痛んだ身体
を抱きかかえ身も心もまるごと癒してくれる。まぎれもない至福の時だ。来てよか
った、としみじみ思う。

 夕食は、川魚や山菜などが好きなひとにはたまらないだろう。わたしは違うし
呑むほうが好きなので、いつものように半分ほどしか食べられなかった。ここの
ホテル昴には、宿泊料金が特選料理の桧コースと、手ごろな杉コースとがある。
わたしはもちろん安い杉コースを選んだのだ。金額でいうと約一万二千円である。
桧は四、五千円高めである。

 食べながら、焼酎の水割りを三杯ほど呑んだ。面倒くさいグラス売りをしてくれ
るとは誠に良心的である。
 もう一度温泉にはいり、部屋で焼酎の水割りを重ねているうちに、テレビを点け
たまま布団の上で沈没してしまう。消し忘れたテレビの音と寒さで夜中に眼を覚ま
し、テレビを消して、布団に潜り込んだ。

 朝起きると、あいにくの雨だった。かなりの雨脚である。

 朝風呂へ向かった。今日は昨日の女風呂が男風呂に変わっていた。内風呂で深く
沈みこみ髭を軟らかくしてから髭を剃った。
 抹茶茶碗と日本酒を飲む枡のようなものが、露天風呂とはべつにあった。それぞ
れひとりずつはいれるようになっている。打たせ湯が湯口となっている。湯の花が
とくに濃かった。頭に載せたタオルで強くなっていく雨を受けながら、抹茶茶碗を
たっぷり楽しむ。驟雨が霧を呼び、けむる山々がじつに幽玄な雰囲気だった。雨で
ぬるくなったせいで長湯ができたのだ。



 朝食はクロワッサンとロールパンが焼きたてでおいしいと勧められたので洋食に
したのだが、まず茶粥が運ばれてきた。このへんの名物だそうであるが、それほど
でもない。焼き立てパンのついた洋食は仲居さんがしきりに勧めただけのことは
あり満足できた。

 珈琲を飲み干すと、テーブルの隅においたまだ濡れたタオルを手に立ち上がり、
あの桝酒の露天風呂を十津川温泉のはいり収めにするためにいそいそと温泉棟に
足早に向かうのだった。

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