<寸又峡温泉(1)>
狭い路は大嫌いだが、どうしても隘路を走らねば目的地へいけないこともある。
いままで走った隘路といえば徳島の祖谷峡、高知の四万十川流域、九州側から向かう角島大橋などをすぐに思いだす。そういえば長野と新潟に跨る秋山郷を新潟側から入ったときも、切り立つ断崖にガードレールが無いところが多く、バックするのがとても恐かった。
ダンプとかバスとか宅配トラックと隘路のどこかで鉢合わせしたら、バックしやすい乗用車側のほうが、待避所までのくねくね路をガードレールや崖に注意しながら戻って譲らなければならない。
わたしは隘路に入ると、吸っている煙草を消して、対向車の存在を聞き分けるためにラジオを切って窓を開け、カーブミラーの向こうから近づいているかもしれない対向車に知らしめるためにフォグランプを点灯したりする。
ところで、この寸又峡へ行く路もかなりの隘路である。山越えで、見通しの悪い坂道と道幅がツチノコのように狭い路が延々と続くのである。運転に相当な自信があったとしても、あまりそれだけでは通用しない。事実、わたしは自信をまったくなくし、へこんでしまったのだった。
「うわぁーっ!」
見通しの悪い、下りの狭いヘアピンカーブを曲がった途端、眼の前にダンプカーのフロントが迫り急ブレーキを踏み込みながら思わず声が出てしまう。
半分ほど開け放した窓から、ダンプの排気ブレーキ音が車内に大量に飛び込んでくる。運転席のすぐ真横、十センチほどの距離にダンプカーの後輪を見る形で急停車した。まるで、助手席に後輪が座ったみたいな近さだ。
(ふぅー、横っ腹を絶対にこすると思ったが・・・助かった)
思わず止めていた息を大きく吐いた。
助かった、と一瞬思ったが、正確にはまだぜんぜん助かってはいない。
さて、どうする。
ダンプの後ろに車列が数台続き、わたしの車のほうもピッタリと二台の後続車が間を置かず詰めている。
バックはヘアピンの登りだし、これは無理だ。進退窮まる状態とは正にこのことである。
「おらぁ、前へ出ろ!」
ダンプの運転席から吼えるように怒鳴られ、覚悟を決めた。ジリジリと前進を始める。同時にダンプも轟音をあげてソロリソロリと進む。
左のガードレールと数センチ、右のダンプと数センチの間隔しかない。ああ、ウィンドミラーを畳めばよかったか、と思うがいまさらそんな余計な動作はできない。
汗ばむ掌でハンドルを刻み、アクセルとブレーキをこちらも小刻みに使い分け、なんとかすり抜ける。やれやれ、今度こそホンモノに助かった・・・ぞ。
緊張で張り詰めた糸が切れたのか、逃げるように右足が勝手にアクセルを踏み込んだのだった・・・。
ジツは、これは復路でのことだが、同じ路の往復である。寸又峡の観光予定があるならば注意がよくよく肝要なので、あえて先に書いておく。
往路は地元の軽トラの先導で無事に千頭に着いたのだが、溜まった隘路の気疲れをとるため、大井川鉄道の千頭駅で休憩をとることにした。
タイミングよく、駅にはSLが入線してくる。
入場券を買って、ホームへ小走りで近寄る。
思ったより小さなSLだが、やっぱり迫力は満点だ。
連結した客車を切り離して、先頭のSL車両だけがバックで出て行くのを俄か鉄道ファンと化して見送ってしまった。転車台に向かうのだろうか。
千頭から寸又峡温泉までにも隘路はあるが、それまでに比べればはるかに短い。
「寸又峡温泉」の歓迎塔をみて、ようやく着いたなあという安堵感が沸きあがる。
― 続く ―
狭い路は大嫌いだが、どうしても隘路を走らねば目的地へいけないこともある。
いままで走った隘路といえば徳島の祖谷峡、高知の四万十川流域、九州側から向かう角島大橋などをすぐに思いだす。そういえば長野と新潟に跨る秋山郷を新潟側から入ったときも、切り立つ断崖にガードレールが無いところが多く、バックするのがとても恐かった。
ダンプとかバスとか宅配トラックと隘路のどこかで鉢合わせしたら、バックしやすい乗用車側のほうが、待避所までのくねくね路をガードレールや崖に注意しながら戻って譲らなければならない。
わたしは隘路に入ると、吸っている煙草を消して、対向車の存在を聞き分けるためにラジオを切って窓を開け、カーブミラーの向こうから近づいているかもしれない対向車に知らしめるためにフォグランプを点灯したりする。
ところで、この寸又峡へ行く路もかなりの隘路である。山越えで、見通しの悪い坂道と道幅がツチノコのように狭い路が延々と続くのである。運転に相当な自信があったとしても、あまりそれだけでは通用しない。事実、わたしは自信をまったくなくし、へこんでしまったのだった。
「うわぁーっ!」
見通しの悪い、下りの狭いヘアピンカーブを曲がった途端、眼の前にダンプカーのフロントが迫り急ブレーキを踏み込みながら思わず声が出てしまう。
半分ほど開け放した窓から、ダンプの排気ブレーキ音が車内に大量に飛び込んでくる。運転席のすぐ真横、十センチほどの距離にダンプカーの後輪を見る形で急停車した。まるで、助手席に後輪が座ったみたいな近さだ。
(ふぅー、横っ腹を絶対にこすると思ったが・・・助かった)
思わず止めていた息を大きく吐いた。
助かった、と一瞬思ったが、正確にはまだぜんぜん助かってはいない。
さて、どうする。
ダンプの後ろに車列が数台続き、わたしの車のほうもピッタリと二台の後続車が間を置かず詰めている。
バックはヘアピンの登りだし、これは無理だ。進退窮まる状態とは正にこのことである。
「おらぁ、前へ出ろ!」
ダンプの運転席から吼えるように怒鳴られ、覚悟を決めた。ジリジリと前進を始める。同時にダンプも轟音をあげてソロリソロリと進む。
左のガードレールと数センチ、右のダンプと数センチの間隔しかない。ああ、ウィンドミラーを畳めばよかったか、と思うがいまさらそんな余計な動作はできない。
汗ばむ掌でハンドルを刻み、アクセルとブレーキをこちらも小刻みに使い分け、なんとかすり抜ける。やれやれ、今度こそホンモノに助かった・・・ぞ。
緊張で張り詰めた糸が切れたのか、逃げるように右足が勝手にアクセルを踏み込んだのだった・・・。
ジツは、これは復路でのことだが、同じ路の往復である。寸又峡の観光予定があるならば注意がよくよく肝要なので、あえて先に書いておく。
往路は地元の軽トラの先導で無事に千頭に着いたのだが、溜まった隘路の気疲れをとるため、大井川鉄道の千頭駅で休憩をとることにした。
タイミングよく、駅にはSLが入線してくる。
入場券を買って、ホームへ小走りで近寄る。
思ったより小さなSLだが、やっぱり迫力は満点だ。
連結した客車を切り離して、先頭のSL車両だけがバックで出て行くのを俄か鉄道ファンと化して見送ってしまった。転車台に向かうのだろうか。
千頭から寸又峡温泉までにも隘路はあるが、それまでに比べればはるかに短い。
「寸又峡温泉」の歓迎塔をみて、ようやく着いたなあという安堵感が沸きあがる。
― 続く ―
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます