温泉クンの旅日記

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本命麦代餅、対抗かつら饅頭

2012-07-18 | 京都点描
  <本命麦代餅、対抗かつら饅頭>

「麦代餅をください」
 店の奥の座敷にあがり、どっかと座るとすぐに注文した。



 ここ桂離宮前の中村軒は、創業明治十六年の和菓子・甘味屋の老舗だ。奥の座敷は壺庭を巻くように配置されており、かなりの人数が座れる。



「麦代餅ですが、普通のでいいですか? ミニもありますが」
「えっ、ミニ?」
「少し小さめで、男性のお客さまの場合よくご注文なさいますが」
「では、ミニでお願いします」
 男はみんなミニ(スカート)好きだ、わたしも例外ではない。飲みものを抹茶にしようか冷たいものにしようか迷っていると、
「あのォ・・・一緒にお茶をお出しいたしますが」
 なんともはや気がきく。ではそれでお願いします。

 酒呑みだから基本的に甘いものは苦手だが、美味しければすこしは食べる。
 たとえば大宰府天満宮の「梅ヶ枝餅」、鹿児島の磯庭園の「両棒餅」など、気がつけばわたしの好きなものはやたらに餅系が多い。
 京都では大徳寺裏、今宮神社の「あぶり餅」ひと筋だった、いまの今までは。



「麦代餅」という旨いシロモノが京都にあると聞いたので、餅好きとしてはさっそく行ってみることにした。
 麦代餅の読みは「むぎてもち」とかなり難しい。



 麦刈りや田植えどきの間食として農作業の時期に田畑まで直接届けていたそうで、農繁期が終わってから、農家は代金代わり(麦代餅二個につき約五合の割)の麦で精算する、いわゆる物々交換だったそうだ。麦と交換したのがこの餅の名前の由来である。



 ふむふむ。餅二個で麦五合の割合で物々交換ということは、一升で四個、一斗で四十個、麦一俵が四斗だから餅百六十個か。よくわからないが高価なものだったのだろう。

 朝作った分が売切れたらその日はお終い。しかも作ったその日いち日しか持たないので、京都に食べにくるしかないのだ。



 柔らかくよく伸びるお餅で、昔ながらの竈(かまど=おくどさん)で上木(くぬぎの割り木)を燃やして炊きあげた美味しい粒餡をまいて、上に煎ったわたしの嫌いな黄粉がちょこっとかかる。
 これはけっこう甘い。ボリューミーで、食べ応えもある。きつい農作業の間食でレギュラーサイズを二個も食べたら、きっと元気が出そうだ。旅人はミニにしといてよかった。

 座卓の上に、かつら饅頭を勧めているメニュースタンドみたいのがあった。
 たしか、麦代餅とならぶ創業以来の銘菓である。餅が、ミニだったのですこしもの足らない。せっかくだ、食べてみよう。日持ちは二日間だから土産にもなる。

 先ほどの気の利くお姐さんを呼んだ。
「追加でこのかつら饅頭をバラでひとつと、持ち帰りで六個いただけますか」
「ちょっとお待ちください」
 そういうと、店先のガラスケースを見に行った。
「今日はあと五個しか残っていません。どうしますか」
 まだ昼前だというのに、売り切れ寸前である。
「では、バラひとつをここで食べます。残りの四個を持ち帰りで」

 かつら饅頭だが昔は米(よね)饅頭ともったそうだ。

 それは中村軒初代の姉のお米(よね)さんが、甘い甘い饅頭を食べたら一個でうんざりする、あっさりした薄味のお饅頭だったらもうひとつ食べたいなとなって二倍売れる、だからあっさりした饅頭をつくりなさい。果たしてそのとおり作ってみると、言った通りにこれが大受けしたそうだ。




 饅頭の餡はあっさりとした「こしあん」で、薄めに味がついた皮の部分がなんとも旨い。これは飽きない味である。たしかに二個くらいはたちまちペロリと食べられる。土産に買ったがたぶん帰る途中で食べてしまうような気がする。
 
 どちらもたっぷり堪能させていただいた。麦代餅もいいが黄粉がちょっと苦手なので、どちらかと言うと鼻の差でかつら饅頭のほうが気にいった。


  →「梅ヶ枝餅」の記事はこちら
  →「天街(天文館)で呑む(1)」の記事はこちら

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