<函館、滋養軒の塩ラーメン>
「お客さまで最後になりますので、申し訳ありませんがこれからお並びになる方にお伝えねがえますか」
店から主人らしき風体の人が出てきて、列の頭数を数えながら歩いてくると、わたしのすぐ後ろ、最後尾の若夫婦にいった。
「滋養軒」は昭和22年(1947年)創業の、函館一の塩ラーメンが食べられると評判の老舗ラーメン屋。
店のある場所は函館駅西口から500メートル足らずの距離、徒歩で5、6分だ。駅前から真っ直ぐ交差点を渡り、3本目の径を左に曲がるところを間違えて4本目を入ってしまった。なにかまわない。
夜はさぞかし賑わうであろう「大門横丁」を過ぎて、すこし先の角を左に曲がったらみつかった。
その営業は通しではなく昼と夜の二部制で、スープがなくなり次第終了である。
すぐに行列ができてしまうのは街中のパン屋と同じ、つまりは小体な店内なのだ。カウンター三席と四人掛けテーブルが三つ、びっしり座って15席。テーブル席はぴったり四人客とばかりはいかず、二人客もいれば三人客もいる。だからすぐ満席になってしまうのである。店内に灰皿をみかけたような気がするが、とても吸えるような雰囲気ではなかった。
「わーい、やった! やっと食べられるわ!」
いやな役目を受けたにもかかわらず喜んでいる。後ろの若夫婦は昨日も断られての再挑戦だそうだ。
並ぶのが大嫌いなわたしだが、これを聞いてやめるわけにはいかない。滅亡する地球から脱出する最後の宇宙船にとにもかくにもギリギリ乗りこめるぞ、という気分みたい。(大げさすぎるぜ)
若夫婦は、あとから並ぼうとする客に断りを入れ、二組ほど不承不承ながら引きあげていった。
ようやく順番がきてカウンター席に座れた。
目の前にあるメニューを手に取ったが、塩ラーメンと決めている。どのテーブルも餃子を頼んでいるので、その二つを注文した。函館塩ラーメンは「まめさん」、「あじさい」に次いで三軒目である。
先に餃子が届いた。焼き具合はとてもよろしい感じ。
早速熱めの一個をたっぷり目のラー油を落した醤油につけて、がぶりと食いつく。皮から手作りの餃子で、外側がカリッとしてもちもち食感の皮とにんにくが利いた餡で、まあまあの味。
北海道のラーメン屋で餃子を食べさせる店は、極めて少ない。だから餃子については切磋琢磨が不足する。総合点でいって、東京とか横浜とか、首都圏の餃子のほうにあっさり軍配をあげる。
塩ラーメン、登場。
丼の景色を眺める。具はチャーシュー、メンマ、小口に切られた葱と、とてもシンプルでばっちり好み。透明な輝くスープは、釧路の老舗ラーメン店での高血圧殺しの塩ラーメンとちょっと見そっくりで、思わずトラウマが過る。
まずは恐々とスープをいただく。
(おォ―、うまい!)
釧路の、海水なみに獰猛な塩の角がとんがったスープとは雲泥の差だ。ギザギザでなく丸みのある塩味。コクがあるけれどあっさりして、なお奥深い。
鶏ガラ、豚骨をベースに香味野菜、昆布を加えて四時間沸騰させず、アクを取り続ける手間をかけるというだけある。隠し味を使った特製塩ダレのせいより、これはスープの旨みが主役かも。
麺をいってみる。
毎日作る自家製の、中細よりはちょっと細いストレート麺がつるつると口中に滑り込む。主張を抑えているがしっかりした腰がある。
このクォリティをたったの500円で食べられるとは、まさに函館駅(近く)の穴場メシだ。
「ん!?」
いま、スープも熱い麺に絡んで口中へ、その唇を滑り通るときに違和感があった。麺があちぃというか、スープがぬるい。スープの丼投入の準備タイミングが早かったのだろう、麺は熱々なのにスープがぬるすぎる。深川の人気ラーメン店「こうかいぼう」で食べたときとまったく同じ按配。
案の定、半分ほど食べたら箸が止まってしまった。まずい状況だ。
料理は「温度」でもあるのだ。(とわたしは思う)
ぬるい“そうめん”も論外なら、たとえ大間のマグロの刺身でも人肌で生ぬるいのは話にならない。ラーメンでいえばスープと麺のどちらも、バランスよく熱くなければいけない。
ジツに惜しい。たまたまかもしれないが、点睛忘れた惜しい極上塩ラーメンである。基本に忠実、初歩的なことを愚直に続けるのが大事なのではないか。
でもまあ味はいいし、夫婦二人で忙しく切り盛りしてるし、安いから許しちゃおう。たまたまの出来なのだと思おう。
勢いで一気に食べきった。
勘定を払い、店を出て歩きはじめると、“待っていたわよ”といわんばかりのリードを付けた猫を前方に発見した。なんかえらくお行儀のよろしい猫だ。
おまえは客引きか。まだ昼間だぞォ。
ねえねえ、お店はどこなの。イイ子だねえ。嬉しさでメロメロ状態になって猫のそばにしゃがみこむ。
二軒先のバー「オクトーバー」の看板猫のうちの一匹らしい。人なつこいコイツとじゃれあっているうちに、心底猫好きのわたしはすっかり機嫌を直してしまったのであった。
→「釧路、幣舞橋界隈(2)」の記事はこちら
→「こうかいぼうのらーめん」の記事はこちら
「お客さまで最後になりますので、申し訳ありませんがこれからお並びになる方にお伝えねがえますか」
店から主人らしき風体の人が出てきて、列の頭数を数えながら歩いてくると、わたしのすぐ後ろ、最後尾の若夫婦にいった。
「滋養軒」は昭和22年(1947年)創業の、函館一の塩ラーメンが食べられると評判の老舗ラーメン屋。
店のある場所は函館駅西口から500メートル足らずの距離、徒歩で5、6分だ。駅前から真っ直ぐ交差点を渡り、3本目の径を左に曲がるところを間違えて4本目を入ってしまった。なにかまわない。
夜はさぞかし賑わうであろう「大門横丁」を過ぎて、すこし先の角を左に曲がったらみつかった。
その営業は通しではなく昼と夜の二部制で、スープがなくなり次第終了である。
すぐに行列ができてしまうのは街中のパン屋と同じ、つまりは小体な店内なのだ。カウンター三席と四人掛けテーブルが三つ、びっしり座って15席。テーブル席はぴったり四人客とばかりはいかず、二人客もいれば三人客もいる。だからすぐ満席になってしまうのである。店内に灰皿をみかけたような気がするが、とても吸えるような雰囲気ではなかった。
「わーい、やった! やっと食べられるわ!」
いやな役目を受けたにもかかわらず喜んでいる。後ろの若夫婦は昨日も断られての再挑戦だそうだ。
並ぶのが大嫌いなわたしだが、これを聞いてやめるわけにはいかない。滅亡する地球から脱出する最後の宇宙船にとにもかくにもギリギリ乗りこめるぞ、という気分みたい。(大げさすぎるぜ)
若夫婦は、あとから並ぼうとする客に断りを入れ、二組ほど不承不承ながら引きあげていった。
ようやく順番がきてカウンター席に座れた。
目の前にあるメニューを手に取ったが、塩ラーメンと決めている。どのテーブルも餃子を頼んでいるので、その二つを注文した。函館塩ラーメンは「まめさん」、「あじさい」に次いで三軒目である。
先に餃子が届いた。焼き具合はとてもよろしい感じ。
早速熱めの一個をたっぷり目のラー油を落した醤油につけて、がぶりと食いつく。皮から手作りの餃子で、外側がカリッとしてもちもち食感の皮とにんにくが利いた餡で、まあまあの味。
北海道のラーメン屋で餃子を食べさせる店は、極めて少ない。だから餃子については切磋琢磨が不足する。総合点でいって、東京とか横浜とか、首都圏の餃子のほうにあっさり軍配をあげる。
塩ラーメン、登場。
丼の景色を眺める。具はチャーシュー、メンマ、小口に切られた葱と、とてもシンプルでばっちり好み。透明な輝くスープは、釧路の老舗ラーメン店での高血圧殺しの塩ラーメンとちょっと見そっくりで、思わずトラウマが過る。
まずは恐々とスープをいただく。
(おォ―、うまい!)
釧路の、海水なみに獰猛な塩の角がとんがったスープとは雲泥の差だ。ギザギザでなく丸みのある塩味。コクがあるけれどあっさりして、なお奥深い。
鶏ガラ、豚骨をベースに香味野菜、昆布を加えて四時間沸騰させず、アクを取り続ける手間をかけるというだけある。隠し味を使った特製塩ダレのせいより、これはスープの旨みが主役かも。
麺をいってみる。
毎日作る自家製の、中細よりはちょっと細いストレート麺がつるつると口中に滑り込む。主張を抑えているがしっかりした腰がある。
このクォリティをたったの500円で食べられるとは、まさに函館駅(近く)の穴場メシだ。
「ん!?」
いま、スープも熱い麺に絡んで口中へ、その唇を滑り通るときに違和感があった。麺があちぃというか、スープがぬるい。スープの丼投入の準備タイミングが早かったのだろう、麺は熱々なのにスープがぬるすぎる。深川の人気ラーメン店「こうかいぼう」で食べたときとまったく同じ按配。
案の定、半分ほど食べたら箸が止まってしまった。まずい状況だ。
料理は「温度」でもあるのだ。(とわたしは思う)
ぬるい“そうめん”も論外なら、たとえ大間のマグロの刺身でも人肌で生ぬるいのは話にならない。ラーメンでいえばスープと麺のどちらも、バランスよく熱くなければいけない。
ジツに惜しい。たまたまかもしれないが、点睛忘れた惜しい極上塩ラーメンである。基本に忠実、初歩的なことを愚直に続けるのが大事なのではないか。
でもまあ味はいいし、夫婦二人で忙しく切り盛りしてるし、安いから許しちゃおう。たまたまの出来なのだと思おう。
勢いで一気に食べきった。
勘定を払い、店を出て歩きはじめると、“待っていたわよ”といわんばかりのリードを付けた猫を前方に発見した。なんかえらくお行儀のよろしい猫だ。
おまえは客引きか。まだ昼間だぞォ。
ねえねえ、お店はどこなの。イイ子だねえ。嬉しさでメロメロ状態になって猫のそばにしゃがみこむ。
二軒先のバー「オクトーバー」の看板猫のうちの一匹らしい。人なつこいコイツとじゃれあっているうちに、心底猫好きのわたしはすっかり機嫌を直してしまったのであった。
→「釧路、幣舞橋界隈(2)」の記事はこちら
→「こうかいぼうのらーめん」の記事はこちら
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