温泉クンの旅日記

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岩室温泉(1)

2016-06-05 | 温泉エッセイ
  <泊まれる料亭(1)>

 意外なことに五月はゴールデンウィークを除けば、実は旅のオフシーズンなのである。だから高嶺の花の名旅館でさえ、新規開拓のために格安のお試しプランを売ったりする。
 それにわたしが乗った、というより喰いついた。

 食事は部屋出しと聞いたときからわたしの緊張が始まった。
 なにしろこの宿で提供する料理は『花鳥風月を慈しむ 心と繊細な技でひと品ひと品 手間を惜しまずお作りする伝統日本料理』だそうなのだ。

 そういえばバブルのころ、取引先の金融機関から赤坂にある料亭で接待を受けたことがあったと思いだす。末席に連なっただけだったのだが、どうせ相手側も接待費で落とすはずだと、次々と運ばれる豪華な料理にあまり手をつけずもっぱら高い酒ばかりを飲んでしまった。
 今回はそうはいきそうもない。完全な自腹であるし、それにここの総料理長の面子を潰さないように配慮したほうが良さそうなムードなのだ。

「お待たせいたしました、お食事のご用意ができましたのでどうぞこちらへ」
 夜の帳が降り始めた中庭に面した広縁の椅子で煙草を吸っているわたしに、三つ指ついて正座する仲居から声がかかった。
「お飲み物はいかがいたしましょうか」
 座布団に座り、飲物のメニューを素早く点検する。今日は食べるほうに専念したほうがどうも良さそうな雰囲気である。二種類ある飲み比べセットというのが眼にとまった。
「こちらの飲み比べセットを」



 前菜といわずに「酒菜」が、鯛乃子、蚕豆、白髪葱と木乃芽。辛子酢味噌和え鮪湯引き、うるい、薇(ぜんまい)、枸杞乃実。あけび新芽お浸し、刻み胡桃、鶉玉、割醤油。青豆腐葛寄せ、山葵、セルフィーユ、汁。
 ほどなく越の景虎、雪中梅、八海山の飲み比べセットが届いた。



 お造りは、鯛松皮、鮃、鮪で、お椀は「清汁仕立」、鯛つみれ、蓴菜、蓬白玉、芽葱、柚乃花である。



 焼き物は、川鱒塩焼、独活皮金平、煮梅、干大根たまり漬、ですだちが添えられている。



 煮物は渡蟹入りじゃがいも饅頭、才巻海老、筍、菜乃花、山葵、木乃芽、銀庵、だ。



 油物は蟹湯葉巻揚げ、こしあぶら、独活乃葉、抹茶塩、れもん。



 真剣に食べてきたがここらで先が見えてきたので気が楽になり、もうひとつの久保田千寿、清泉、〆張鶴の飲み比べセットを頼んだ。



 食事は岩室産コシヒカリ、香乃物、味噌汁。





 三年熟成させた大根の味噌漬けに柚と胡麻をあわせた「きりあい」を載せるとご飯が進む。



 デザートのあいすくりーむと苺で、苦手な今夜のミッションは完遂したのであった。ほぼ完食できたのは、供された料理が洗練されておりなにより旨かったからである。


  ― 続く ―


   →「魚のアメ横」の記事はこちら
   →「おやひこさまの湯(1)」の記事はこちら
   →「おやひこさまの湯(2)」の記事はこちら

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