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犬吠埼の丘から、海側へ急斜面の短い坂を下るとそこに宿があった。
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正面右手の壁を見て「ぎょうけい館」は「暁鶏館」だと知った。暁鶏・・・夜明けを告げる鶏・・・と書くのか。古い名前でわかるように、創業は明治七年(1874年)というから百四十年を超す老舗旅館である。
東向きの全室オーシャンビューのため、初日の出の元日には予約がとりにくいらしい。
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時計をみると、いつものようにチェックイン時間のすこし前の到着である。
「日の入りを観るツァーがありますが、どうなさいますか」
宿のマイクロバスでご案内します、素晴らしい夕陽ですよというので、つい申し込んでしまった。出発時間厳守でお願いします、と念をおされる。
部屋に案内された後、さらに部屋の係りの仲居をじりじりとした思いで待ち、お茶を供されひと通りの説明を受ける。
仲居が消えた瞬間、素早く浴衣に着替えて一階の大浴場に急ぐ。
海辺に沿った低階層で横長の建物だから、浴場までは歩き出がある。
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フロントの真上あたりがわたしの部屋なので、けっきょく端から端まで鍵曲がりの廊下を歩くのだ。
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脱衣所に入ると、微かな消毒臭を感じる。さきに浴室内を覗くとまだ誰もいない。よし。
まずは、掛け湯をたっぷりしてから内湯に入る。
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循環っぽいがいい湯である。
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四人でいっぱいくらいの狭い露天のほうはあまり消毒の匂いはしない。渡る風のせいではなく、こちらは源泉掛け流しなのだろう。
眼の前には白い灯台、他には広く青い太平洋(鹿島灘)がぐるりと一望だ。
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この眺めならば、明日の日の出のころはきっと満員盛況になることだろう。
部屋に戻って、持ち込んだ芋焼酎で一杯やってようやくひと息つく。また浴衣を脱いで着替えるのも面倒になってきた。
フロントにツアー断りの電話を入れ、ちびちびと夕食まで呑むことにする。思いのほか身体がぽかぽかと温かくなってきた。
(さすがに強塩泉だ、なかなか効き目があるぞ・・・)
窓辺にすわって、眼の前に広がる景色を肴にしばらく呑んだいると、久しぶりの温泉で長湯したせいか、軽い酔いもあり目蓋が重くなってきた。
座布団を枕に座敷に寝転がり、すこしばかり昼寝をすることにする。
― 続く ―
→「暁の宿(1)」の記事はこちら
→「勝浦つるんつるん温泉」の記事はこちら
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