<牛乳屋食堂と芦ノ牧温泉駅(1)>
鉄道開通時に初代が駅前で牛乳の販売をはじめ、やがて食堂に姿を変えると「牛乳屋食堂」と呼ばれるようになった。
創業九十余年、現在は四代目に受け継がれている。
その店の前に行列はなかった。
ふふふ。目論見どおりだったな、とついほくそ笑む。建物が前回来たときと違い、改装したようである。
長かった旅行の自粛が全面的に解かれても、「へい! ようがす、それなら早速出かけやす」などと、ヒトは、お上の描いた絵図のように注文通りにはいかぬもの。と、とりあえず自分はさて置いて、思うのだ。
会津ラーメンを食べようと、最初にこの店を訪れ、行列をみてあきらめたのはそう15年前か、いやもしかしたら20年近い前だったろう。それから十回以上、行列みてはあきらめたのだ。なにしろ、まだ一度も食べたことない食堂より、何度も賞味している絶品の蕎麦を間違いなく食べさせてくれる大内宿も近い。
ただし、本気であきらめたわけではない。
わたしは約束を守る男である、とくに自分とのは。いったん“こう”と心に決めたら・・・もっとも“こう”と決めたことを誰にもいわないので知るよしもないが・・・わたしの「あきらめないスパン」はたいてい誰もが腰を抜かすほど長い。くだらねー“こう”だな、といわれるのは百も承知、千も合点だが。
入って右側が厨房、左に四人掛けが二卓、十人掛けの卓が続き、奥が小上がりの広めの座敷があり、そこにも四人掛けが五、六卓あるようだった。
先客が一人いる、十人掛けの手前の席に案内された。
卓に置かれたメニューを点検する。
初心貫徹の会津ラーメンは絶対に頼むとして、先客がパクついている餃子も旨そうだ。人気メニューの双璧をなすソースカツ丼も捨てがたいが食いきれるかなぁ・・・。
どうする、どうする。あ、どちらも食べられるセットメニューがあったぞ、よし「牛乳屋ミニセット」に決めよう。
「セットで付いてくる白い牛乳がダメなんですけど」
「でしたら珈琲牛乳かフルーツ牛乳に変えられますよ」
問題解決。フルーツ牛乳のミニセット(1,100円)を注文する。
カツはソースと煮込みが選べるという。どちらがお勧めか訊くと「会津ですからソースのほうが」というのでソースカツ丼を頼む。
(カツ丼選手と、ラーメン選手の、入場です!)
待つことしばし、盆に載ったセットメニューが卓に運ばれてきた。
ラーメンとカツ丼に、テーマ曲「移民の歌」が会場に流れ長髪を振りみだしながらチェーンをブン回して乱入するブルーザ・ブロディと、テーマ曲「サンライズ」でブルロープを振り回しながら暴走してくるウエゥタンハットのスタン・ハンセンの、最強タッグチーム(小型版だけどね)みたいな迫力を、隠れプロレスファンのわたしは感じてしまう。(分かりづらいわ)
(さて、どっちから料理してやろうか)
と、腕を撫す。
喜多方でラーメンは何度も食べているが、会津(若松)ではなぜか<カレー焼そば>しか食べたことがない。
まずは、初代が隣に住んでいた中国人から教わった「支那そば」がルーツの<元祖会津ラーメン>から・・・スープ、よしよし。
啜り込む麺は、喜多方を思わせるもっちりした中太である。
ここでいったんラーメンをリングの外へ投げ飛ばし、カツ丼を「おまえの番だ」とロープ上段から引きずりこむ。
国産豚の肩ロース肉のカツに秘伝のソース。
カツはさくさくで歯もすんなり入り、食べやすい。キャベツの下のメシ(会津産コシヒカリ)もソースカツに絶妙に合っている。
フルーツ牛乳だが、会津のではなくなぜか他県の小岩井牧場のものであった。牛乳屋時代からの付き合いなのかもしれない。
そろそろ行列ができ始めてきているようだ。食べきって勘定を払い外へ出て、道を挟んで店の前に新設された売店前に設置された灰皿で一服する。
ジツはカツ丼を筆頭に丼ものは苦手のほうである。好きな天丼でさえも丼つゆ少なめにしてもらわないと完食は無理なのだが、むしろレギュラーサイズでもよかったかとおもうほどソースカツ丼は旨かった。
20年近く全国の「ご当地ラーメン」を食べた経験からいうと、<元祖会津ラーメン>は喜多方ラーメンと腹ちがいの兄弟ぐらいの味かなとわたしには思えたのだった。
― 続く ―
→「会津若松のカレー焼そば」の記事はこちら
鉄道開通時に初代が駅前で牛乳の販売をはじめ、やがて食堂に姿を変えると「牛乳屋食堂」と呼ばれるようになった。
創業九十余年、現在は四代目に受け継がれている。
その店の前に行列はなかった。
ふふふ。目論見どおりだったな、とついほくそ笑む。建物が前回来たときと違い、改装したようである。
長かった旅行の自粛が全面的に解かれても、「へい! ようがす、それなら早速出かけやす」などと、ヒトは、お上の描いた絵図のように注文通りにはいかぬもの。と、とりあえず自分はさて置いて、思うのだ。
会津ラーメンを食べようと、最初にこの店を訪れ、行列をみてあきらめたのはそう15年前か、いやもしかしたら20年近い前だったろう。それから十回以上、行列みてはあきらめたのだ。なにしろ、まだ一度も食べたことない食堂より、何度も賞味している絶品の蕎麦を間違いなく食べさせてくれる大内宿も近い。
ただし、本気であきらめたわけではない。
わたしは約束を守る男である、とくに自分とのは。いったん“こう”と心に決めたら・・・もっとも“こう”と決めたことを誰にもいわないので知るよしもないが・・・わたしの「あきらめないスパン」はたいてい誰もが腰を抜かすほど長い。くだらねー“こう”だな、といわれるのは百も承知、千も合点だが。
入って右側が厨房、左に四人掛けが二卓、十人掛けの卓が続き、奥が小上がりの広めの座敷があり、そこにも四人掛けが五、六卓あるようだった。
先客が一人いる、十人掛けの手前の席に案内された。
卓に置かれたメニューを点検する。
初心貫徹の会津ラーメンは絶対に頼むとして、先客がパクついている餃子も旨そうだ。人気メニューの双璧をなすソースカツ丼も捨てがたいが食いきれるかなぁ・・・。
どうする、どうする。あ、どちらも食べられるセットメニューがあったぞ、よし「牛乳屋ミニセット」に決めよう。
「セットで付いてくる白い牛乳がダメなんですけど」
「でしたら珈琲牛乳かフルーツ牛乳に変えられますよ」
問題解決。フルーツ牛乳のミニセット(1,100円)を注文する。
カツはソースと煮込みが選べるという。どちらがお勧めか訊くと「会津ですからソースのほうが」というのでソースカツ丼を頼む。
(カツ丼選手と、ラーメン選手の、入場です!)
待つことしばし、盆に載ったセットメニューが卓に運ばれてきた。
ラーメンとカツ丼に、テーマ曲「移民の歌」が会場に流れ長髪を振りみだしながらチェーンをブン回して乱入するブルーザ・ブロディと、テーマ曲「サンライズ」でブルロープを振り回しながら暴走してくるウエゥタンハットのスタン・ハンセンの、最強タッグチーム(小型版だけどね)みたいな迫力を、隠れプロレスファンのわたしは感じてしまう。(分かりづらいわ)
(さて、どっちから料理してやろうか)
と、腕を撫す。
喜多方でラーメンは何度も食べているが、会津(若松)ではなぜか<カレー焼そば>しか食べたことがない。
まずは、初代が隣に住んでいた中国人から教わった「支那そば」がルーツの<元祖会津ラーメン>から・・・スープ、よしよし。
啜り込む麺は、喜多方を思わせるもっちりした中太である。
ここでいったんラーメンをリングの外へ投げ飛ばし、カツ丼を「おまえの番だ」とロープ上段から引きずりこむ。
国産豚の肩ロース肉のカツに秘伝のソース。
カツはさくさくで歯もすんなり入り、食べやすい。キャベツの下のメシ(会津産コシヒカリ)もソースカツに絶妙に合っている。
フルーツ牛乳だが、会津のではなくなぜか他県の小岩井牧場のものであった。牛乳屋時代からの付き合いなのかもしれない。
そろそろ行列ができ始めてきているようだ。食べきって勘定を払い外へ出て、道を挟んで店の前に新設された売店前に設置された灰皿で一服する。
ジツはカツ丼を筆頭に丼ものは苦手のほうである。好きな天丼でさえも丼つゆ少なめにしてもらわないと完食は無理なのだが、むしろレギュラーサイズでもよかったかとおもうほどソースカツ丼は旨かった。
20年近く全国の「ご当地ラーメン」を食べた経験からいうと、<元祖会津ラーメン>は喜多方ラーメンと腹ちがいの兄弟ぐらいの味かなとわたしには思えたのだった。
― 続く ―
→「会津若松のカレー焼そば」の記事はこちら
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