温泉クンの旅日記

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岳温泉、パンク騒動顛末記(1)

2015-08-12 | 旅エッセイ
  <岳温泉、パンク騒動顛末記(1)>

 車旅での急なエンジントラブルや予期しないパンクは、深刻な緊急事態であり、ふだん冷静なベテランドライバーでもきっと動揺してアタフタとしてしまうに違いない。
 免許をとってすぐのころ、レンタカーだったか人から借りた車だったか思いだせないが一度だけパンクをしたことがあった。自分の車を運転するようになって、いまや累計走行距離が五十万キロ近くになるけど、わたしは幸いなことに一度もパンクの経験がなかった。
 今回発生した、いかにも周章狼狽のパンク騒動だったがその顛末を記しておきたい。

(それにしても、途中の東北道でパンクしなかっただけでも良かったなあ・・・)



 岳温泉では珍しい酸性泉を引いた浴槽のなかで、上半身の柔軟運動と、背中の指圧を入念にしながらつくづく思った。湯の花が散ったいい温泉だが、さすがにいつものように能天気には楽しめない。



 話は一時間ほど前の夕暮れ、岳温泉近くのコンビニに遡る。

「あのォ・・・横浜ナンバーの車のひとですか?」
 酒と水とつまみを買って、レジで会計しているわたしに、若者が声をかけてきた。そういえば車を止めたとき、コンビニの灰皿の前でしゃがんで煙草を吸って屯している若者が三、四人いた。
「はい、そうですが、なにか?」
「右の前輪が、パンクしています・・・というか、今、『シューシュー』音を立てて空気が抜けています」
「えっ!」

 なにィ、そりゃ大変だ。急いで代金を払って車に戻ってみると、たしかに右の前輪から今まさに『シューシュー』音を立てて空気がみるみる抜けていて、ほとんどペチャンコになっている。
 まいったな。釘でも踏んだのだろうか。保険のロードサービスを思いついたが、去年の暮れから携帯の電話機能が故障したままで、この不具合がなんと三度目なのであきれて買い換えることに決めて修理していない。これはダメか。

「この辺にガソリンスタンドってありませんか?」、若者たちに訊いてみると、指をさしてすぐ隣だという。なるほど、灯りが消えて薄暗いのでわからなかったが、たしかにガソリンスタンドが隣の一段低い場所にあった。
 ならば、ここにパンクした車を置いて宿まで歩いていって、明日の朝にガソリンスタンドに修理を頼もう。それが一番いい選択だ。頭のなかの地図によれば、宿までは下りの坂道で歩いて五分くらいである。

 そう決めかかったところに、「スペア、積んでないんですかあ~」と若者のひとりが掛けたなにげないひと言が、わたしには「パンクくらい自分で治せないのかよ、だらしないなあ」に変換されて聞こえ、へそ曲りで強情な性格を直撃した。
 くそっ、はるか昔だがパンクでスペアタイヤに交換した経験もある。わかった、やってやろうじゃないか。体内に大量のアドレナリンが噴出する。



 車のリアドアを開け、重いスペアタイヤを腰が悪いのも忘れ「エイヤァー」とばかり取り出して車に立てかけ、前輪のジャッキアップに取りかかる。
 陽が落ち傘もいらないくらいの小雨だったのが、だんだん降りが強くなってきて、ギャラリーの若者たちもそれぞれ車で家に戻るようだ。



 チャチなジャッキだから、「エッチラオッチラ」と両腕の筋肉の負担も相当で、時間も掛かる。雨のなかだからずぶ濡れである。漸くあとひと息のところで、おい待てよと気がついた。(遅い!)
 スペアタイヤはノーマルで細すぎて、前輪にそのまま装着するのはどうみても危ない。となると、後輪のどちらかを外して前輪に付け、その後輪にスペアを持っていくことになる。チャチなジャッキひとつでは不可能である。タイヤ泥棒みたいに煉瓦を使うか。そんなものが周りにある筈もない。

 なんのことはない、最初に大正解を思いついていたのだ。
 ご破算だ。「もとい」である。せっかく張りつめたジャッキをまた時間をかけて弛めて、スペアも掛け声かけて元通りにした。意気消沈したせいか、腰と両腕、背筋あたりの筋肉痛が急に心配になってしまう。
 コンビニの店員に訳をはなして、朝まで駐車場に置かせてもらう許可を店主からとると、ザックと肩掛けバッグと重いパソコンを持ち、雨のなかトボトボと宿まで歩きだす。


  ― 続く ―


   →「岳温泉(1)」の記事はこちら
   →「岳温泉(2)」の記事はこちら
   →「うふうふのロールケーキ」の記事はこちら



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