<肘折温泉(2)>
肘折の朝は早い。
名物の朝市は、豪雪地帯であるので、冬季を除いて毎日午前五時ごろから始まるのだ。終わりも七時ごろと早い。
もともとは自炊の宿に泊まった湯治客への食材提供のために開いた朝市だったのだが、自炊客の割合が減ってきた現在でも肘折の名物として完全に定着したのである。
わたしもタオルと千円札を忍ばせた小銭入れと煙草セットを持って、下駄をならして朝市見物に向かった。むろん、外湯の無料券も忘れない。
朝市はメインストリートに沿った、旅館の軒下に開かれる。
平日だから、朝市もあんがいとすいていた。
「買ってってけらっしゃーい」
「おまげすっがらよー」
おばちゃんたちはそぞろ歩く客たちに、ばりばりの山形弁で客に声をかける。
自分とこの畑でとれた野菜や大蒜、ゼンマイなどの山菜、果物、自分で作った笹巻きやしそ巻きなどを道端に並べておばさんたちが賑やかに売っている。
サルノコシカケなどの漢方薬、漬け物や塩辛なども並んでいた。
野菜や果物はいかにも新鮮そうだ。
いろいろ悩んだが旅の途中だから、酒のつまみにしそ巻きを購入した。
「わぁー、可愛い!」
土産物屋の店先に集まっている女性客が、口々に声をあげる。
犬かな・・・猫かな。どれどれ、わたしもついつい店先にいってみる。
おぉ、たしかに可愛い猫だ。尻尾もふさふさしていて、毛並みもいい。
そばによっていって、得意の猫語で話しかけるとわたしの足元に寄ってきた。頭をなでてもおとなしい。うちの猫と比べてだいぶ大きいが、まだ子どものようだ。
「おまえ、可愛いね。名前はなんていうんだい」
「メイ、という名前なんです」
返事するわけない猫に代わって、店の主人がすこし離れたところで嬉しそうに眼を細めて言った。
「そうか、メイちゃんか。ひと懐こい可愛い猫ですね」
(うちの海とはえらい違いだな・・・)
思わず自分の飼っている、牢名主のように睨みつけるキツイ性格の猫と比べてしまう。
「おやまあ、高そうな猫だね」
朝市で買った野菜か果物でもはいってそうな重い袋をぶら下げた、長期滞在湯治客ふうのおばさんが割り込んで訊いた。
まあ、赤いリードをつけて拘束されているのだから、そりゃ高いに違いない。
「高そうでなくて、血統書つきの凄く高い猫なんだよ。メイ、という名前も長い名前を略しているのさ」
よくぞ訊いてくれた、というふうな主人の答えからであった。
「ふーん、この店ずいぶんと儲かってるんだね」
おばさん、ずいぶんのっけて売ってるんじゃないの、という視線を店内に飛ばした。
「いやいや、借金、ローンで買ったのさ。正味のところ、首が回らないんだけど、猫好きなもんだからさ・・・」
あわてて弁解する店主がおかしい。
さて、朝の外湯でひと風呂あびようか。
猫のメイちゃん、きっと肘折温泉で名物猫として人気がでることだろう。
→「肘折温泉(1)」の記事はこちら
肘折の朝は早い。
名物の朝市は、豪雪地帯であるので、冬季を除いて毎日午前五時ごろから始まるのだ。終わりも七時ごろと早い。
もともとは自炊の宿に泊まった湯治客への食材提供のために開いた朝市だったのだが、自炊客の割合が減ってきた現在でも肘折の名物として完全に定着したのである。
わたしもタオルと千円札を忍ばせた小銭入れと煙草セットを持って、下駄をならして朝市見物に向かった。むろん、外湯の無料券も忘れない。
朝市はメインストリートに沿った、旅館の軒下に開かれる。
平日だから、朝市もあんがいとすいていた。
「買ってってけらっしゃーい」
「おまげすっがらよー」
おばちゃんたちはそぞろ歩く客たちに、ばりばりの山形弁で客に声をかける。
自分とこの畑でとれた野菜や大蒜、ゼンマイなどの山菜、果物、自分で作った笹巻きやしそ巻きなどを道端に並べておばさんたちが賑やかに売っている。
サルノコシカケなどの漢方薬、漬け物や塩辛なども並んでいた。
野菜や果物はいかにも新鮮そうだ。
いろいろ悩んだが旅の途中だから、酒のつまみにしそ巻きを購入した。
「わぁー、可愛い!」
土産物屋の店先に集まっている女性客が、口々に声をあげる。
犬かな・・・猫かな。どれどれ、わたしもついつい店先にいってみる。
おぉ、たしかに可愛い猫だ。尻尾もふさふさしていて、毛並みもいい。
そばによっていって、得意の猫語で話しかけるとわたしの足元に寄ってきた。頭をなでてもおとなしい。うちの猫と比べてだいぶ大きいが、まだ子どものようだ。
「おまえ、可愛いね。名前はなんていうんだい」
「メイ、という名前なんです」
返事するわけない猫に代わって、店の主人がすこし離れたところで嬉しそうに眼を細めて言った。
「そうか、メイちゃんか。ひと懐こい可愛い猫ですね」
(うちの海とはえらい違いだな・・・)
思わず自分の飼っている、牢名主のように睨みつけるキツイ性格の猫と比べてしまう。
「おやまあ、高そうな猫だね」
朝市で買った野菜か果物でもはいってそうな重い袋をぶら下げた、長期滞在湯治客ふうのおばさんが割り込んで訊いた。
まあ、赤いリードをつけて拘束されているのだから、そりゃ高いに違いない。
「高そうでなくて、血統書つきの凄く高い猫なんだよ。メイ、という名前も長い名前を略しているのさ」
よくぞ訊いてくれた、というふうな主人の答えからであった。
「ふーん、この店ずいぶんと儲かってるんだね」
おばさん、ずいぶんのっけて売ってるんじゃないの、という視線を店内に飛ばした。
「いやいや、借金、ローンで買ったのさ。正味のところ、首が回らないんだけど、猫好きなもんだからさ・・・」
あわてて弁解する店主がおかしい。
さて、朝の外湯でひと風呂あびようか。
猫のメイちゃん、きっと肘折温泉で名物猫として人気がでることだろう。
→「肘折温泉(1)」の記事はこちら
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