<続・立地な宿>
久しぶりに会津喜多方にある日中温泉の日帰り入浴をしていくことにした。
たしか昔に書いたことがあるはず・・・と書く前に探したら、九年前に「立地な宿」という題で記事にしていた。読んでみると結構面白いので、手前味噌で少々気が引けるが記事の文章を引用してみたい。
『福島県を縦に、記憶に間違いなければ山脈に沿って大きく三つにバックリ分けて、向かって右の太平洋側
地域を浜通り、真ん中を中通り、残りの新潟側地域を会津と呼ぶ。地元の天気予報などはこの単位で
予報される。
その新潟側の会津で、喜多方から熱塩方面を通り山形県の米沢に抜ける街道沿いの、ちょうど県境あたりに、
山に囲まれた一軒の温泉宿がある。
会津日中温泉「ゆもとや」という秘湯の宿だ。日中温泉は「にっちゅうおんせん」と普通に読む。
会津の北の端といっても、会津若松からでも小一時間ぐらいのもので、わりと遠くは感じない。
建物は蔵屋敷ふうの造りで、和室ばかりの二階建てである。
江戸末期に金鉱を探していて掘り当てたという秘湯は、立ち寄り入浴も二時半まで七百円で気軽にできる。
その日は、幸いなことにわたしのほかに客がいなかった。秘湯の独り占めである。
タイル張りの内湯は源泉を四十二度ぐらいに加熱しているものだ。濾しているのだろう、ほぼ透明である。
この内湯で身体を充分温めてから、外の露天風呂へいくほうが高血圧のわたしには無難である。
露天風呂はふたつあって、手前の狭い長方形檜風呂は源泉を加熱している。奥の広めの丸い檜桶の露天は
加熱していない源泉そのままだ。迷わず奥の源泉そのままのほうに向かって、すのこに踏み出した。
すのこのうえには、歩きやすいように人工芝が貼られている。その先に土俵のような檜の露天風呂、
そして裸にタオル一本のわたし・・・まるで、体格の貧弱な力士の土俵入りである。
丸い桶風呂には茶褐色の湯が満たされていて、湯口から間欠的に、ガボッガボッという音をあげて
源泉が注ぎ込まれている。
一度にかなりな量が落ちるので湯面が波だっている。源泉温度は四十度、透明だが空気に触れるとすぐに濁る。
泉質は含土類弱食塩泉。
露天なのですこしぬるいが、ゆっくり浸かっているとじんわり温まってくる。
一定のリズムで落ちる源泉の音だけに満たされた露天風呂のなかで、ゆっくり疲れが
ほどけていくのがわかる。そうして周りの景観に眼を巡らして、ぎょっとする。それは、
自然とは不釣合いな・・・人工の巨大ダムだ。
押切川を堰きとめてつくった日中ダムは、ロックフィルダムといって、手近にある岩石でつくられたそうで、
だから工事費も安く済むのだそうだ。高さ101メートル、堤長423メートルの多目的ダムである。
ダム湖は「日中ひざわ湖」と名づけられている。
宿の裏手から、すぐに高さ百メートルの石垣がそびえている。足場がよさそうで、元気な子どもなら
楽によじ登れそうにもみえる。使われている石垣は城壁と比べればありふれた小さめのものだ。
ダムの真下とは、すごい立地の温泉旅館だと思う。
戦争映画やアクション映画で、ダム決壊シーンなどなんどもみたのを次々となぜか思い出す。
この宿に台風とか雨のシーズンに長逗留するのはさけたいものだ。
豪雨が続いたある日、石垣の小石一個がカラカラ落ちてくるが雨音にかき消されてしまう。
つながれた犬が狂ったように吠え出す。――しばらくして、石垣の上部から中くらいの石くれが
ポンと一個勢いよく外れて宿の屋根に直撃したが誰もその音に気づかず、泊り客は宴会に興じていた
・・・なんて想像すると怖いものがある。しかし、安い工事費・・・ねえ。ぶるぶる。
人声がしてハッと我に帰ると、内湯から数人露天のほうに出てきた。
ぬるめの湯は苦手である。どこであがるのかが難しい。ぼんやりいつまでも浸かっていると頭のなかの
想像力だけが暴走するようだ。人気のある秘湯の宿に、いかにも申し訳なく失礼な想像であった。
(でも、豪雨の日にはきたくないなあ)
効能ある湯で勢いよく顔をパンパン叩き洗って気合をいれると、土俵風呂から続くすのこの花道をなぜか、
勝ったときの高見盛そっくりに胸を張って熱めの内湯に向かうのであった。』
九年前に書いた記事のなかで日帰り料金が七百円と書いたが、現在は少し上がって八百円である。
温めの生一本の源泉が効いてきたのか身体がぽかぽかと温まってくる。たしか、その湧きだしたばかりの源泉をご飯や料理に使っていたな。
会津の山間のため春も遅かったのか、宿の前の桜がまだまだ綺麗に咲いていた。
→「喜多方ラーメン」の記事はこちら
→「立地な宿」の記事はこちら
久しぶりに会津喜多方にある日中温泉の日帰り入浴をしていくことにした。
たしか昔に書いたことがあるはず・・・と書く前に探したら、九年前に「立地な宿」という題で記事にしていた。読んでみると結構面白いので、手前味噌で少々気が引けるが記事の文章を引用してみたい。
『福島県を縦に、記憶に間違いなければ山脈に沿って大きく三つにバックリ分けて、向かって右の太平洋側
地域を浜通り、真ん中を中通り、残りの新潟側地域を会津と呼ぶ。地元の天気予報などはこの単位で
予報される。
その新潟側の会津で、喜多方から熱塩方面を通り山形県の米沢に抜ける街道沿いの、ちょうど県境あたりに、
山に囲まれた一軒の温泉宿がある。
会津日中温泉「ゆもとや」という秘湯の宿だ。日中温泉は「にっちゅうおんせん」と普通に読む。
会津の北の端といっても、会津若松からでも小一時間ぐらいのもので、わりと遠くは感じない。
建物は蔵屋敷ふうの造りで、和室ばかりの二階建てである。
江戸末期に金鉱を探していて掘り当てたという秘湯は、立ち寄り入浴も二時半まで七百円で気軽にできる。
その日は、幸いなことにわたしのほかに客がいなかった。秘湯の独り占めである。
タイル張りの内湯は源泉を四十二度ぐらいに加熱しているものだ。濾しているのだろう、ほぼ透明である。
この内湯で身体を充分温めてから、外の露天風呂へいくほうが高血圧のわたしには無難である。
露天風呂はふたつあって、手前の狭い長方形檜風呂は源泉を加熱している。奥の広めの丸い檜桶の露天は
加熱していない源泉そのままだ。迷わず奥の源泉そのままのほうに向かって、すのこに踏み出した。
すのこのうえには、歩きやすいように人工芝が貼られている。その先に土俵のような檜の露天風呂、
そして裸にタオル一本のわたし・・・まるで、体格の貧弱な力士の土俵入りである。
丸い桶風呂には茶褐色の湯が満たされていて、湯口から間欠的に、ガボッガボッという音をあげて
源泉が注ぎ込まれている。
一度にかなりな量が落ちるので湯面が波だっている。源泉温度は四十度、透明だが空気に触れるとすぐに濁る。
泉質は含土類弱食塩泉。
露天なのですこしぬるいが、ゆっくり浸かっているとじんわり温まってくる。
一定のリズムで落ちる源泉の音だけに満たされた露天風呂のなかで、ゆっくり疲れが
ほどけていくのがわかる。そうして周りの景観に眼を巡らして、ぎょっとする。それは、
自然とは不釣合いな・・・人工の巨大ダムだ。
押切川を堰きとめてつくった日中ダムは、ロックフィルダムといって、手近にある岩石でつくられたそうで、
だから工事費も安く済むのだそうだ。高さ101メートル、堤長423メートルの多目的ダムである。
ダム湖は「日中ひざわ湖」と名づけられている。
宿の裏手から、すぐに高さ百メートルの石垣がそびえている。足場がよさそうで、元気な子どもなら
楽によじ登れそうにもみえる。使われている石垣は城壁と比べればありふれた小さめのものだ。
ダムの真下とは、すごい立地の温泉旅館だと思う。
戦争映画やアクション映画で、ダム決壊シーンなどなんどもみたのを次々となぜか思い出す。
この宿に台風とか雨のシーズンに長逗留するのはさけたいものだ。
豪雨が続いたある日、石垣の小石一個がカラカラ落ちてくるが雨音にかき消されてしまう。
つながれた犬が狂ったように吠え出す。――しばらくして、石垣の上部から中くらいの石くれが
ポンと一個勢いよく外れて宿の屋根に直撃したが誰もその音に気づかず、泊り客は宴会に興じていた
・・・なんて想像すると怖いものがある。しかし、安い工事費・・・ねえ。ぶるぶる。
人声がしてハッと我に帰ると、内湯から数人露天のほうに出てきた。
ぬるめの湯は苦手である。どこであがるのかが難しい。ぼんやりいつまでも浸かっていると頭のなかの
想像力だけが暴走するようだ。人気のある秘湯の宿に、いかにも申し訳なく失礼な想像であった。
(でも、豪雨の日にはきたくないなあ)
効能ある湯で勢いよく顔をパンパン叩き洗って気合をいれると、土俵風呂から続くすのこの花道をなぜか、
勝ったときの高見盛そっくりに胸を張って熱めの内湯に向かうのであった。』
九年前に書いた記事のなかで日帰り料金が七百円と書いたが、現在は少し上がって八百円である。
温めの生一本の源泉が効いてきたのか身体がぽかぽかと温まってくる。たしか、その湧きだしたばかりの源泉をご飯や料理に使っていたな。
会津の山間のため春も遅かったのか、宿の前の桜がまだまだ綺麗に咲いていた。
→「喜多方ラーメン」の記事はこちら
→「立地な宿」の記事はこちら
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