温泉クンの旅日記

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秩父神社(2)

2021-05-23 | ぶらり・フォト・エッセイ
  <秩父神社(2)>

 秩父夜祭にはこんな伝説がある。
 秩父神社に祭られている女の神様「妙見菩薩」は年に一度の夜祭の日に、男神である武甲山の「龍神」と逢い引きをする。

 

 龍神には正妻(諏訪神社の「八坂刀売命」)がいるのだが、この日だけは許しを得て逢い引きをすると言い伝えられている。祭りの初日に行われる「馬場町諏訪渡り」は、逢瀬の許可を得るための祭礼で、御神幸の際には正妻の八坂刀売命(やさかとめのみこと)を怒らせないよう、屋台囃子の演奏をわざわざとめて諏訪神社の前を通るというから、なんとも芸が細かいというか面白い。

「さてと、なんか喰うとするか」
 というか一杯飲みたい。色気より食い気、食い気よりわたしは飲み気なのである。
 参道の番場通り商店街は、あいにくと閉まっている店ばかりで閑散としていた。

 

 

 メニューの黒板の上のほうに“地元で愛されて50年以上”とか“老舗蕎麦屋の3号店”とか小さく書いてあった。秩父市役所近く「H」という目当ての店が決めていたのだが、臨時休業。冷ややっこにしゃくし菜で冷酒、それにもりそばか冷やしたぬきも雲散霧消となった。
 それがこの黒板で急遽復活したのである。

 

「しゃくし菜そばの冷たいやつ!」
 カウンター席に坐るなり宣言するように元気に注文した。
「あのォ、すみません、そのメニューは温かいのしかないんですけど」
 しまった、さっきみつけた昭和2年創業(あとで調べた)の末枯れたわたし好みの店「パリ―食堂」にすればよかったか。

 

 

 とりあえず、しゃくし菜で一杯やりたかったんだよね、と呟いてしまう。
 聞こえたのだろうか「しゃくし菜だけ別にお出ししましょうか」と提案してくれる。
(ディール!)
 交渉成立だ。もちろん、武甲正宗も追加する。

 

 しゃくし菜は予想に反して、まるで“高菜炒め”に似たものだったが、酒のアテにはなるのでこの際赦しちゃう。
 煙草が吸えないので酒のお代りはあっさりあきらめ、蕎麦を頼む。

 

 

 肝心の蕎麦は、見た瞬間に味が想像できるものだったが、蕎麦つゆと蕎麦数本を味わういつものルーティンは全面省略、冷たさだけでいっきに食べきった。

 その昔、温泉と町はずれにある小さな牧場のソフトクリームの濃厚な味を目当てで秩父に足しげく通ったものだったが、メシ時に訪れたことが不思議となかった。
 秩父の蕎麦は当たりが少ない。だから旨い店はやたら混む。なかでも「こいけ」という営業時間のえらく短い名店があり、いついっても売り切れ御免で間に合わず、何度目かでやっと「田舎そば」と「盛りそば」を食べることができたのだった。たしか閉店したそうだが、秩父でもあそこの蕎麦はたしかに絶品であった。

 

 

 西武秩父駅の指定券販売機で、一番早い出発の急行の指定切符をとると、待ち時間を利用して、隣接する入浴施設“祭りの湯”の玄関近くのきれいな喫煙所を利用して一服する。

「あ、いけねぇ、武甲正宗のワンカップ買うの忘れた!」

 

 

 急行に乗り込み、ハタと気づく。「もうひとついけねぇ、途中の飯能駅で進行逆転して先頭が最後尾になるんだった」。
 どちらも後の祭りであった。



   →「秩父神社(1)」の記事はこちら


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