<南部ひっつみ>
南部の雰囲気が漂う民芸調の居酒屋である。
店内もあちこちに置かれた民具も、いぶりがっこ(これは秋田だが)のように、燻された感じだ。
座敷とテーブル席、それにカウンター席とあった。空いているので四人掛けの席に座り、とりあえず焼酎の水割りを注文した。
新鮮な魚料理も提供しているようで、ボードにその日の魚の名前が手書きで書かれている。奮発してキンキでも食べたかったがないのであきらめて、ほうぼうも都会では滅多にお目にかからないからこちらを頼むことにした。
寄せ豆腐で芋焼酎の水割りをちびちびやりながら、今日の旅を振り返る。
浄土ヶ浜も龍泉洞も行ってよかったが、そこから盛岡までが、ハァひと苦労だったぞい。
降りだした雨がだんだん激しくなるなか、真っ暗な初めて走る下道を、たっぷり二時間かかってまさしく走破したのである。店もなければ街灯もない道が二時間も続くとは、さすがは四国を同じ大きさの岩手県だ。まったく今日一日、参りました。
盛岡は三大麺だけではない。豆腐もなかなか旨いのだ。へとへとの身体にアルコールが廻って、少し元気がでてきた。
他の客の注文を聞いていると、どぶろくとドンコの揚げだしが多いようだ。みると、ドンコは意外と大きな魚で、健啖家でまるでないわたしではどうにも食いきれそうにない。
ほうぼうの刺身がきたので、この店特製のどぶろくに切り替えた。どうせホテルは歩いて五分とかからないので酩酊してかまうことはない。
野趣あふれる特製どぶろくはとても呑みやすい。
戦国時代の武将たちが折りに付け交わす盃に満たされているのが、たいていこのどぶろくだ。クロサワ映画の戦国時代物には必需品ともいえる。
カウンターに座った地元の常連らしい年配のカップルが、隣に座る男性の一人客と意気投合したようだ。
「へぇ~、全国を旅しているんですか」
聞き捨てならない会話がカウンターのほうから聞こえてきて、思わず耳をすます。
「北は青森から南は下関・・・って、北海道とか九州はまだなの?」
さすが女性はこのへんのところ手厳しい。聞き流すようなヤワなことはしないのである。
旅の男性は、切れぎれに聞こえる会話からすると山梨在住のひとらしい。わたしと同じく、近くのビジネスホテルに投宿しているようだ。
「えーっと、とりあえず本州から攻めているんです」
「あら、そうなの。じゃあ、全国ってまだ言えないわね。そんで四国にはもういったの?」
「ええと、もうすぐ本州の都道府県が終わりますので、それからと・・・あ、すいません、ご馳走さまです」
盃に燗酒を満たしてもらいながら、山梨は頭を掻いている。
しばらくして、酒を奢ったカップルが山梨を残して先に帰っていったが、こちらは次の予定があるのだろう。
カップルの邪魔は金輪際しない主義のわたしは、カウンターに座らなくてやっぱりよかったのだ。
腹が猛烈に減っているので、締めまで待てずに南部ひっつみを注文した。
ひっつみは、小麦粉を用いた汁物の郷土料理で、いわゆるすいとん(水団)の一種だ。小麦粉を練って固めたものをひっつまんで汁に投げ入れて作られるため、それがそのまま料理の名称になったのだ。
運ばれてきたひっつみ汁は、ずいぶんと具沢山であった。
基本の出汁に、野菜や肉厚の椎茸、魚介などの具材からくる出汁が絶妙に調和してなんとも美味である。
もっちりと厚みのあるひっつみも、その出汁がしみていて美味しい。
この出汁で、餅いりの稲庭うどんをつくって食べたい。痛烈に思ってしまったものだ。
そう思いながらも、どぶろくをしつこく追加するのであった。なにしろ、ひっつみ汁がまだ少し残っているのだからしょうがないのである。
→「龍泉洞」の記事はこちら
南部の雰囲気が漂う民芸調の居酒屋である。
店内もあちこちに置かれた民具も、いぶりがっこ(これは秋田だが)のように、燻された感じだ。
座敷とテーブル席、それにカウンター席とあった。空いているので四人掛けの席に座り、とりあえず焼酎の水割りを注文した。
新鮮な魚料理も提供しているようで、ボードにその日の魚の名前が手書きで書かれている。奮発してキンキでも食べたかったがないのであきらめて、ほうぼうも都会では滅多にお目にかからないからこちらを頼むことにした。
寄せ豆腐で芋焼酎の水割りをちびちびやりながら、今日の旅を振り返る。
浄土ヶ浜も龍泉洞も行ってよかったが、そこから盛岡までが、ハァひと苦労だったぞい。
降りだした雨がだんだん激しくなるなか、真っ暗な初めて走る下道を、たっぷり二時間かかってまさしく走破したのである。店もなければ街灯もない道が二時間も続くとは、さすがは四国を同じ大きさの岩手県だ。まったく今日一日、参りました。
盛岡は三大麺だけではない。豆腐もなかなか旨いのだ。へとへとの身体にアルコールが廻って、少し元気がでてきた。
他の客の注文を聞いていると、どぶろくとドンコの揚げだしが多いようだ。みると、ドンコは意外と大きな魚で、健啖家でまるでないわたしではどうにも食いきれそうにない。
ほうぼうの刺身がきたので、この店特製のどぶろくに切り替えた。どうせホテルは歩いて五分とかからないので酩酊してかまうことはない。
野趣あふれる特製どぶろくはとても呑みやすい。
戦国時代の武将たちが折りに付け交わす盃に満たされているのが、たいていこのどぶろくだ。クロサワ映画の戦国時代物には必需品ともいえる。
カウンターに座った地元の常連らしい年配のカップルが、隣に座る男性の一人客と意気投合したようだ。
「へぇ~、全国を旅しているんですか」
聞き捨てならない会話がカウンターのほうから聞こえてきて、思わず耳をすます。
「北は青森から南は下関・・・って、北海道とか九州はまだなの?」
さすが女性はこのへんのところ手厳しい。聞き流すようなヤワなことはしないのである。
旅の男性は、切れぎれに聞こえる会話からすると山梨在住のひとらしい。わたしと同じく、近くのビジネスホテルに投宿しているようだ。
「えーっと、とりあえず本州から攻めているんです」
「あら、そうなの。じゃあ、全国ってまだ言えないわね。そんで四国にはもういったの?」
「ええと、もうすぐ本州の都道府県が終わりますので、それからと・・・あ、すいません、ご馳走さまです」
盃に燗酒を満たしてもらいながら、山梨は頭を掻いている。
しばらくして、酒を奢ったカップルが山梨を残して先に帰っていったが、こちらは次の予定があるのだろう。
カップルの邪魔は金輪際しない主義のわたしは、カウンターに座らなくてやっぱりよかったのだ。
腹が猛烈に減っているので、締めまで待てずに南部ひっつみを注文した。
ひっつみは、小麦粉を用いた汁物の郷土料理で、いわゆるすいとん(水団)の一種だ。小麦粉を練って固めたものをひっつまんで汁に投げ入れて作られるため、それがそのまま料理の名称になったのだ。
運ばれてきたひっつみ汁は、ずいぶんと具沢山であった。
基本の出汁に、野菜や肉厚の椎茸、魚介などの具材からくる出汁が絶妙に調和してなんとも美味である。
もっちりと厚みのあるひっつみも、その出汁がしみていて美味しい。
この出汁で、餅いりの稲庭うどんをつくって食べたい。痛烈に思ってしまったものだ。
そう思いながらも、どぶろくをしつこく追加するのであった。なにしろ、ひっつみ汁がまだ少し残っているのだからしょうがないのである。
→「龍泉洞」の記事はこちら
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます