一度蒐集した作品はときおり見返す必要がありますね。先日も福田豊四郎の色紙の作品を眺めていたら、下記の作品(投稿済)の作品と図集の作品との共通点を見つけました。
手毬 福田豊四郎筆
紙本着色 色紙タトウ入
3号 画サイズ:縦270*横240
紙本着色 色紙タトウ入
3号 画サイズ:縦270*横240
この作品は落款と印章から戦前から昭和20年代の作と推定されます。図集の作品が下記の作品です。
この作品は「田園抄 村童12か月」(福田豊四郎画集・出版社 南天子画廊 刊行年 昭42年刊)の3月に掲載されています。
描かれたのはおそらく昭和40年頃でしょうか? 落款の書体は昭和20年を境にして大きくは変わらないので本作品は昭和20年頃の可能性もあります。
*図集の説明文は下記のとおりです。
当方の所蔵作品と構図を含めてそっくりですね。題名は「まりつき」の変更することにしました。
さて本日は伊東深水の作品の紹介です。
伊東深水の女性を描いた本格的な作品はそうたやすくは入手できませんが、スケッチ程度ならなんとか入手できます。本ブログで幾つかのスケッチの作品を紹介していますが、本日もそのような作品の投稿です。
婦人像 ジャカルタにて 伊東深水筆
紙本水彩額装 伊東知則鑑定シール 昭和39年6月24?日 タトウ+黄袋
M10号 全体サイズ:横535*縦725 画サイズ:横333*縦530
ちょっと黄ばみの出ている作品ですが、まだ洗浄するまでもないでしょう。
額装の作品も痛みは出てきます。空調などの整った環境で保管しておく必要があります。
鑑定書にある伊東知則氏は伊東深水が亡くなるまで生活を共にしていたという深水の孫であり、伊東深水の次男であった伊東万燿の子息にあたります。
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伊東深水とジャカルタ:第二次世界大戦の開戦前に、大本営報道部は陸・海軍に著名な画家、作家、詩人、そして新聞記者を宣伝班員(終戦後は報道班員と呼ばれた)として徴用しています。宣伝班員とは大本営報道部が考案した新たな従軍報道方式で、戦意高揚を担わされた者たちでした。その中の1人が伊東深水(1898-1972)です。伊東深水は1943年4月から海軍に宣伝班員として従軍。従軍画家としてシンガポールやインドネシア各地へ派遣されました。彼はシンガポールやインドネシアで地元の風景や生活を多くスケッチしています。セレベス島(現スラウェシ島)タワンボネ市場に集うブギス族の女たち、マカレ・トラジャ戦捷(せんしょう)の踊りやトラジャの朝市、「南部セレベス・ナンガラ付近の雨季」など彼のスケッチは400枚以上と言われています。現在、千葉県市川市に270点所蔵、信州の酒蔵美術館に約50点、合計320点が所蔵されているようです。戦時中は大本営報道部による報道管制が敷かれ、現地の市民生活を記録した資料など皆無に等しい状況でしたが、これらのスケッチは戦渦のインドネシアを知るためには大変貴重な資料となっています。
1943年10月、伊東深水の帰国後には日本橋「三越」で「南方風俗スケッチ展」が開催されました。2011年10月13日、平塚市美術館館長・草薙奈津子さんは「伊東深水展」を主催した際、開館20周年記念展の冊子「伊東深水-時代の目撃者-」で以下のように自身の思いを綴っています。「作品は、とても戦争を鼓舞するためのものとは思えないものです。深水が初めて南洋に魅せられ、その土地の人々、あるいはその地の風光に共感し、心弾ませながら描いていると言った方が良い。動きがあって、空間把握の巧みな写生がそんなことを思わせる。」
大本営のプロパガンダと残酷な戦場の狭間で伊東深水を含めた宣伝班員は、筆やペンで戦争の現状を伝えています。彼のスケッチは、美しいインドネシアの原風景とその地域で生きる人々の尊厳と独自の文化や生活を丁寧に描いている印象です。彼のスケッチにはジャカルタを描いた作品、「タンヂョンプリオク海軍工作部ジャカルタ分工場にて」があります。発展した現在のタンジュンプリオク港には当時の面影はもちろんありませんが、当時の厳しい報道規制を乗り越えて、彼の作品が残っていることは貴重といえます。
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戦後のジャカルタに伊東深水は下記のような経緯で訪れているようです。
インドネシアの初代大統領スカルノが日本を訪問した際、絵が好きだったスカルノが、首相官邸にあった深水の美人画を観てたいそう気に入りました。側にいた池田首相がそのことを深水に話したら、深水はその絵をスカルノに進呈することと、インドネシアのことが懐かしいと話し、それを池田から伝え聞いたスカルノは喜んで、深水をインドネシアへ招待したのです。
インドネシアに招待された深水はまた多くのスケッチを残しました。
またジャカルタで深水の展覧会を開催し、その収益金をインドネシアの恵まれない子供たちのために寄付したということです。
真贋はさておいて、インターネット上にはこれらの写真の作品がみられます。
どのような経緯でこのようなスケッチが市場に出回っているのかは分かりませんね。
大家の作品ですが、スケッチなどを蒐集するのもひとつの蒐集方法ですね。
ちなみになんでも鑑定団には下記の作品が出品されていました。
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参考作品
なんでも鑑定団出品作 2024年4月30日放送
伊東深水の墨彩画
評価金額:150万円
評:伊東は昭和33年、60歳の時にヨーロッパ、アメリカを旅行している。そこでのスケッチを元に帰国後描かれたもの。
手慣れたタッチで、洋画家ばりの構図を墨で描いているところが深水ならではの上手さ。手前の岩陰から構図を取って向こうの住居群を見上げるような形になっているが、明暗の対比が素晴らしい。色の入れ方も緑、赤、ピンクというのが上手い具合にバランスが取れていて強弱を与えている。
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