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思うように蒐集が続かない当方の大日本魚類画集の作品蒐集ですが、機会があって購入金額が状況にあえば入手しており、まだ蒐集は続いています。
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大日本魚類画集 NO120 イワナ図 大野麥風画
紙本淡彩額装 版画 1942年12月第12回
画サイズ:縦280*横403(版木部分:272*390) 発刊当時のタトウ付
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全72種のうちある程度蒐集してくると、作品によってはなかなか作品が市場に出てこない作品が多く、作品蒐集が手詰まり状態になっています。
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状態の良い作品は稀ですが、とくにこのシリーズは状態がいい作品数が少ないようです。
この魚類画集は、「本邦初の魚類生態画」という謳い文句の通り、魚たちの泳ぐ姿やその生活環境までも丁寧に描写している作品です。大野麥風は、泳ぐ魚の姿を見るために、戦前はまだ珍しかった水族館に足を運び、さらにより正確な魚の色彩と生活環境を知るために潜水艦に乗り込み、実際に海の中を泳いでいる姿を観察したそうです。そのような熱意と努力のもとにうまれた本作は、まさしく「本邦初の魚類生態画」の名にふさわしいものとなっています。
色彩のグラデーションも細かく丁寧につけられています。本物の魚に近い色鮮やかさや緻密さを実現するために、何度も摺りを重ね、麥風本人も彫師や摺師に対する注文を摺り見本に細かく書いたそうです。
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贋作や後摺の作品はまずないのですが、状態が良くないとこのシリーズ作品の真骨頂が喪失するので、蒐集がむずかしいですね。とくに戦時下での発刊された作品は数が少ないようです。
所蔵している美術館などの展覧会では、全6輯72点の全数が展示されるは珍しく、通常は1~3輯までの紹介が多いようです。2013年に東京駅ステーションギャラリーにおいて全作品を公開したのが記憶に新しいですね。
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*この作品が発刊された前年の真珠湾攻撃に始まる戦争の影響下でも、その後今シリーズは発刊され続けました。戦争中は発刊元が京都に移転されていますが、戦災の影響も状態の良い作品が少ない理由のひとつでしょう。
**タトウや栞は都度機会があるごとに入手していますが、たまにだぶってタトウなどがふたつになることもありますね。
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***発刊期間:昭和12年(1937)~昭和19年(1944)にかけて全6輯(しゅう)72点が制作・出版された魚の版画集で、前半の3輯36点が500部限定、後半の3輯36点が300部限定で発行されています。よって数の少ない後半の後半の3輯36点(第4號~第6號)の作品が数が少なく蒐集困難です。
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****原画を担当したのは、「魚の画家」といわれた大野麥風で、彫師・摺師も当時一級の腕を持った人物が携わり、最高200度の摺を謳い文句しています。実際は200度摺りは数点程度で他は130回程度です。ただしそれでも版画史上で最高の摺とされています。よって後摺や復刻版はないようです。
現在蒐集されてきたものは日の当たらない屋根裏に保管しています。むろん空調の効いた状態です。
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このシリーズでは谷崎潤一郎と徳富蘆花による題字のタトウが添付されています。
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さらにこのシリーズでは、魚の版画やタトウ以外にも「近代魚類分類学の父」と言われた東京帝国大学教授・田中茂穂と著名な釣り研究家・上田尚による魚の解説が付属しています。他の版画のシリーズものに比してこの点が充実しているのも蒐集対象としている理由のひとつです。
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1937年に兵庫にあった西宮書院から発刊されましたが、戦時中に被災し京都に移転し、京都移転後は京都版画院に改称されています。
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京都版画院にて発刊された作品もあるようですが、その経緯についてはもう少し知らべてみようと思っています。
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額は今は売られていない世界堂のシリーズもの・・。版画は基本的に額装にしないで保管するのが常道のようですが、当方では飾って愉しむのが基本ですので、その都度額装を誂えています。ただし飾るには細心の注意と短い期間にしています。