夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

蜜柑 中村岳陵筆 その7

2022-06-17 00:01:00 | 掛け軸
子供の頃から郷里の実家には山口蓬春と中村岳陵の作品があり、寝室にしていた座敷の床にはよく作品が掛けられていました。そのせいか、今でもこの二人の画家の作品で手頃なお値段の作品とみるとついつい入手してしまいます。


本日紹介するのは中村岳陵が描いた蜜柑の作品です。

蜜柑 中村岳陵筆
絹本着色軸装 軸先象牙 共箱
軸装サイズ:縦1300*横710 画サイズ:縦510*横370


中村岳陵の画歴は下記のとおりです。

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中村岳陵:明治23年3月10日生れ、昭和44年11月20日没(1890年~1969年)。大正~昭和時代の日本画家。静岡生れ。野沢堤雨、川辺御楯に師事。東京美術学校卒。本名は恒吉。

日本美術協会展に入選を重ね、紅児会会員となる。
明治44年巽画会、東京勧業博覧会でそれぞれ受賞。
大正元年文展初入選。
3年今村紫紅、速水御舟らの赤曜会結成に参加し、院展に出品。
4年日本美術院同人。
昭和2年日本美術学校日本画科主任教授。
5年福田平八郎、山口蓬春らと六潮会を創立。
10年多摩帝国美術学校教授、帝展参与。
16年新文展審査員。戦後は日展で活躍した。
昭和36年朝日文化賞、毎日芸術大賞。
37年文化勲章。日展顧問、帝国芸術院会員、文化功労者。伝統的な大和絵や琳派の描法に、明るく華やかな後期印象派の感覚が統合された、モダンで清新な画風で知られる。作品に「輪廻物語」「気球揚る」(切手の図案となっています)など。

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日本画のもつ品のよさ、優美さを余すことなく表現する伝統的な大和絵こそが、岳陵の画家としての出発点とされます。またそのジャンルの枠に捉われることなく、多岐に渡る作品を生み出したことが中村岳陵の凄さと言えるのでしょう。その多岐に渡る作品のなかでも、自然、古典、写生の3つのキーワードが、彼の作品の根本にあると評されています。


中村岳陵は、本作品にも表れているように日本画のもつ品のよさ、優美さを余すことなく表現することに山口蓬春と共に日本画で確立した数少ないの画家なのでしょう。


葉や枝や実の周りに独特の離れがあり、よく描かれいる蜜柑でもすぐに中村岳陵の作品だと解りますね。これが絵に品格を与えており、中村岳陵の作品の鑑賞のポイントでしょう。


蜜柑の描き方もよく見ると独特であり、みずみずしさが伝わってきます。なんといってもこの画家の品格の高さが持ち味です。


さらに戦前には都会的風俗に因んだものやモダニズム的傾向の濃厚な作品が目立っています。「婉膩水韻」という下記の作品は、レースの下着を脱ぎ捨てた全裸の女性が水中を泳ぐというその画題が物議をかもし、連作である「都会女性職譜」に当初含まれていた「女給」には風紀上の問題があるとされ、岳陵自らが展覧会開会後一日で撤去することととなり話題をよびました。

中村岳陵 《婉膩水韻》
1931(昭和6)
紙本着色、六曲一隻屏風
153.0×368.1cm


清流にひとり泳ぐ黒髪の若い女性。まっすぐ腕を伸ばし水を切る姿は、溌剌とした美しさにあふれています。リズミカルな水の韻きを表す波紋の描写、流れる花や岸辺の衣の色彩的なアクセントも、明るさと健やかさを感じさせる作品です。近代的で清潔な裸婦像が新鮮なこの作品は中村岳陵初期の優品と言えるでしょう。

その才能は戦後においてもモダニズムを追究したときにも如実に表れており、下記の代表作「気球揚る」(1950年制作)の優雅さは、中村にしか出せないものでしょう。


日本美術院展覧会で活躍しましたが、戦後、横山大観との確執から、日展に移ったことでも知られています。

1962年に文化勲章を受賞し、1969年に神奈川県逗子市の自宅で息を引き取り、79歳の生涯を閉じました。

2008年には、「中村岳陵展」が横須賀美術館で開かれるなど、今なお彼の作品は多くのファンに愛されています。

本作品は共箱に納められており、表具も上表具となっています。

 

作品中の印章は当方の所蔵作品である「燕」(下記写真右)や「茄子」(下記写真中央)と同じ印章です。

 

箱裏に押印されている印章は「嘉魚」の共シールと同一の印章のようです。

印章は観なくても当方では中村岳陵の特徴から画本体で判断ができますが、どうも世の方々は鑑定書だとか印章や落款の確認だとか、実につまらないことにこだわります。

 

いずれにしても文化勲章受章している著名な画家ですので、真贋には十分注意しなくてはならない画家の一人でしょうが、今では掛け軸はだいぶ廉価で求めやすくなっていますので、以前のように贋作で大損という作品は少なくなっています。本作品は当方では3万円ほどで入手できました。


いい作品が廉価で入手できるようになっており、掛け軸は本来の気軽に楽しむべき骨董蒐集のひとつになっています。








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