Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

感興豊かな躍動性

2020-01-18 | 
一週間四本勝負の演奏会通い、前半を無事抜け切れた。その運動不足を頂上往復で若干解消できた。明日のユジャ・ワンのデュオリサイタルに備えるだけだ。金曜日のアムランのピアノは室内楽で弾いたショパンでは分からない当代随一のピアノ名人ぶりに驚愕した。出かける車の中でイヤーフォンを装着したら、準備していた筈のファインベルクのソナタの録音がプロコフィエフにすり替わっていたのを発見した。仕方ないので楽譜だけ目を通して挑もうかと思ったが、まだ開演までに二時間半ほどあった。だから急いで部屋に戻ってDLをし直して、スクリャビンと共に整えた。

価値があったと思う。当夜は地元の放送管弦楽団の演奏と生中継があったようで駐車場の込み方が予想されていたが、流石に通ったところだけに早く駐車できた。そして18時45分ごろから音を鳴らしながら楽譜を捲った。ノイズキャンセリングイヤフォーンは偉大だ。今世紀になってから購入した電化製品ではタブレットと並んで文明の利器を感じさせる。

そのお蔭で素晴らしいものを体験できたが、それは後回しにして後半のシューベルトが予想通りに面白かった。前半を終えて帰るシナ人のピアニストらしい人の一列目の席に移って堪能した。ペダルの使い方も抑制が効いていて、更にブレンデルが苦労しての演奏箇所を悉くその打鍵だけで音楽にしていた。名人であるからアンコールに弾いたヴァ―ンクライバーンコンクールへの自作課題曲のような超絶おたまじゃくしの行列で強烈な音響を響かせる一方、ピアノをハムマーが打ち込む箱の付いた鉄枠ワイヤーに音楽を奏でさせるのが名人なのである。あの大ハ長調の交響曲のゴロゴロ同様一楽章トリルに、またアンダンテでの再起、それらが全て有機的になんら苦労も無く聴こえる。同じことをブレンデルはテムポやアゴーギクを駆使して、それでも大会場では足りないので身振りまでを含めて聴衆を納得させた。それがいともあまりにも簡単そうに打鍵されるのは脅威でしかない。同様に所謂機能和声的なバスラインが、それはメータの師匠のスヴァロフスキー流の拍毎のアナリーゼともなるのだが、なんら誤魔化されずに打鍵される。同じような傾向は全盛期のポリーニの演奏には存在したが、ここまでの名人ではなかった。すると逆にその和声のそこの意味がまた別な趣を呈してくる。実は前日のシカゴ交響楽団演奏会で印象された点でもあった。

ムーティ指揮には感激してしまった。ここの所最早老人性の硬直感が強かったマエストロの指揮である。一体突然どうしてしまったのだろう?前夜のヴィーンでのヤンソンス追悼音楽会指揮で、同じ心臓の病を持つ者としての覚醒があったのか?当夜プログラムの最初から次はバイロイトデビューではないかと思わせるぐらいの「オランダ人」序曲、歌の活きたヒンデミットと後半への期待は高まっていた。しかし、まさかデビュー当時の躍動的な指揮を目の辺りにするとは思ってもいなかった。1975年初訪日の時は三十四歳、連日のベーム博士指揮の名演奏中継の影に隠れて、先輩格のアバドやまたその後同じように帯同したドホナーニに比較して馬鹿にされていた感が強かった。しかし当時既に話題になってベストセラーであったアイーダ指揮の全集盤に語られていたようにその衝撃的なデビューのイメージに違わない指揮をしていた。よくもあのヴィーナーフィルハーモニカーを相手にモーツァルトやブラームスの短調の交響曲であそこまで出来たものだと思う。デビュー予定のジョルダン指揮と比較して欲しいと思う。

「新世界から」は大名演だった。序奏に続いて冒頭からまるでアメリカ横断鉄道に乗って旅行しているような気持になった。流石鉄道マニアの作曲家の筆運びである。小気味よいリズム感と歌におけるカンタ-ビレの美しいコントラストや霊歌に鳥の囀り、ランドスケープの音楽であり、しかしそれだけでは終わらない。殆どマーラーのそれを先取りした地球の運動と大気の響き、コントラバスに残る唸り。三楽章も村の踊りにはならずそこから先を行くもので、到底東欧圏のそれからは聴けなかったものである。終楽章の主題は殆ど運命の力序曲であった。しかし、そこにおかしな歌は持ち込まれない。しかしこれだけこの曲をここまでさらされると、それもムーティの才覚によってとても魅力的に活き活きと、この夏にスーク作曲「アスラエル交響曲」を考える場合のとても貴重な資料ともなり、改めて詳細について触れなければいけないだろう。(続く



参照:
聖土曜日のレクイエム 2019-04-20 | 音
とても魅力的な管弦楽 2017-01-30 | 音
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