Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

2015年の夏の想い出

2020-07-28 | マスメディア批評
連夜深夜まで音を出している。文句が出る前に音量を絞るが、ARDネット一律中継放送は午前様になる。キー局のSWRのMP3の256kbsで全曲録音に決めたので仕方がない。前夜祭では制作局のBRとの差は音量だけだったが、第一日「ヴァルキューレ」では高域の伸びが、舞台が三階以上の構造になっている梯子を上下左右する演出ではホールトーンとして効いていた。

今回の編集箇所で生放送時とは異なるところは何となく幾つかあった。しかしそれ以上に今迄三回録音、録画が残っているバイロイト公演、日本公演、ミュンヘン公演での一幕のそのテムポ運びの方が興味深い。指揮者のキリル・ペトレンコは演出に留意すると言及していて、総譜に速度のチェックポイントを付けて、その間での伸び縮みを計算に入れていると認識している。本当にそれが正しいかどうかは、どこでテムポ調整をして、合わせてくるかなどを調べてみればいい。兎に角、テムポの調整は自由自在の指揮者だからこそ上手に合わせてきている筈なのだ。基本はテムポ指定の刻みだと思うが、其処が本当に名人芸だと思う。

「ラインの黄金」は傷が直されていたのだろう。とても完成度が高くなっていたと思うが、「ヴァルキューレ」は第一幕では益々忘れている演出や背景の動きなどが気になって来た。家の中で中階段部屋のようなところから出たり入ったりするだけだったと思うが、動く距離は小さくなかったと思う。だから演奏会版からすると何をしているのだろうという瞬間が多い。なぜミュンヘンではそのように感じなかったか。恐らくクリーゲンブルクの演出では細かな動きの方に焦点があったからだろう。

そもそも死の近かったテノール歌手ボータがジークムントを歌っていて、既に2014年も動きが鈍く体調も悪そうだったが、特に二幕で惜別のヴァルハラの歌では、どのような気持ちで歌っていたのかと思わせる歌唱だ。元々歌の表情の薄い歌手だと思うが、その抑制的なのが余計に身につまされる思いだ。

そして二幕のフリッカ、ヴォ―タンの語りなどがとても素晴らしい。ミュンヘンではそこまでやるかというほど締め付けていたが、それはバイロイトの奈落に対してで、予想以上にゆっくり尚且つ確りと表現させていて、同時にその音響が美しい。

それは弦だけでなくて、管の強奏などがとても通常の奈落では出来ない音響で、やはりこの音響とその表現は楽匠の理想としたそこにしかない。それにしてもBRのエッセイではないが、未だ嘗て殆どなせなかったこの音響はやはりその発展を待ちたいと思わせる。本当に素晴らしい。

そこで不意に思い浮かんだのは、なぜ今この録音が編集されて完成度が高められて放送されることになったかである。一つ分かっているのはこの企画が2020年バイロイト音楽祭中止決定以後で、3月末のことで、その一月後にカタリーナ・ヴァークナーの病気が発覚した。2020年は「ニーベルンゲンの指輪」のアーカイヴの放送が決まった時点で、幾つかの方法があった筈だ。その一つにこの2015年の中継録音が入れるのは自然な判断だが、そこから修正編集してとなると決裁のみならず、音楽祭と少なくとも指揮者への連絡は欠かせない。

何時頃から動いたかが気になるところで、この企画自体がそのHPでのエッセイ同様にバイエルンでキリル・ペトレンコのバイロイト音楽祭復帰への動きが起こっているという事でしかない。その前提として、カタリーナ・ヴァークナが元祖音楽監督との契約延長に至らず、更にカタリーナ―が手を引くという事である。そのお膳立ては可能性として準備されている。バイエルン州が辞めた音楽監督を再び州へと戻したいという待望論が生じてくるかどうかだけではないか。

まだこれから問題の多かった「ジークフリート」の再編集版などを聴いてからとなるが、そう言う意思が集約されていく可能性のある放送である。

2015年の「雑食砂岩から」リースリングを開けた。厳しい夏の太陽が詰まっているワインで、北の種のリースリング種にはそれほど利点はないが、やはり健康さもあって決して悪くはない。酸も表には出ないがミネラルに対抗している。酸が苦手な向きには旨みのあるワインとして喜ばれるだろう。グラスにも瓶にもしっかりと酒石が溜まっていた。その内容量と2016年の冬の寒さで早く発酵が終らなかったのだろう。



参照:
理不尽そのものの主張 2020-07-27 | マスメディア批評
あの事件が起こった夏 2020-07-26 | マスメディア批評
コメント
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