Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

楽では無く響のカラヤン

2020-07-18 | 
なぜか話題になっている故フォンカラヤン。放送でもバイロイトの「トリスタン」とザルツブルクの「ばらの騎士」を近々観聴き出来る。後者は人気指揮者故カルロス・クライバーがその練習から学んだもののようだ。

個人的には1977年の公演にしか接していない。明らかに全盛期を超えていた。だから録音のそれをなぞるぐらいの指揮しか出来ていなかった。実際に1982年には彼の有名なクラリネット奏者のザビーネ・マイヤー事件が起きて、ベルリナーフィルハーモニカーの終身指揮者が危うくなり、また大手術の影響もあって、完全に終焉へと向かっていった。

1984年のシュピーゲル誌の記事を読んで、また2007年の生誕百年のドイチュラントフンクの元第一ヴァイオリン筆頭のシュテルン氏へのインタヴューを読むと当時の背後事情が窺えた。

先ず1984年の記事にも登場していたベルリン生まれのユダヤ系ヘルムート・シュテルンが洗いざらいカラヤンの人間性にも語っている。アメリカからイスラエルへと逃げていて故郷へと戻って来たユダヤ人であるが、カラヤンの二回に亘ナチ入党などに関しては野心の為の判断と認識していて、それどころか戦争犯罪をしたわけではないと理解している。

これは結構重要な見解で、楽団の中ではカラヤンと良く喋った方で、またシュヴァルべなどの直ぐ後ろで指揮者と身近にいたとしているので、カラヤンのその人間性について客観的な証言にもなっているだろう。勿論戦後のベルリンで戦争犯罪に近いと思われた者は非ナチ化裁判の結果に寄らず然るべき立場には推挙されなかったという事でもあろう。

音楽的にとても興味深いのは、カラヤンは音楽を作ったのではなくサウンドを作って行ったとする見識で、カラヤンへの氏の最初の印象は、故郷に戻れて更にフィルハーモニカーとして音楽が出来ての喜び同様に、カラヤンにおいても特にその偉大な練習でとても幸福だったという。無駄な練習を一度もさせたことも無く、天晴れだったという。

その音楽解釈や音化に優れているのではなく先にも後にもサウンドで、なによりもフランス音楽でヴァークナーもシュトラウスも悪くはなく、ロマン派のチャイコフスキーなどは素晴らしかったと、そしてそれは彼にはサウンドしかなかったと繰り返す。それはなんにでもヴァニラソースをかけたようなものだと表現する

そのヴァニラってどんな味と尋ねられて、マーラーを指揮しないことをマーラールネッサンスの60年代初めにカラヤンに質したという。すると何時もどこかに酷いところがあってと、トラムペットの軍楽などのパッセージへの理解を示さなかったことで、それを理解出来なく、しようともしなかったと、古いヴィーンのそれだと解析する。マーラーが子供の時の軍楽隊などのあらゆるものを音楽的に伝えたかったものに統合したものであると解説。

1930年代に「トリスタン」を指揮して既に「カラヤン奇跡」とされ、天才とされたが、それは全くの誤りで自己演出だったとする。その必要性を含めてカラヤンにはカリスマ性があったというのがシュテルン氏の評価である。

マイヤー事件に関しては、彼女がクラリネットのソロとして通常に1982年秋にテスト期間に採用されて、その期間が終わるときに決まり通り、クラリネット陣の推薦を以って全団員の三分の二の支持を得て決定される必要があったと、そこでそれに至らなかったことからカラヤンが干渉したとする。そこで、終身契約が危うくなったが、カラヤンと楽団は決裂することなく、カラヤンが折れたことで最後までその任に当たった。

1984年のシュピーゲル誌の内容は、この話しとは異なり、我々が当時から知っていたように、82年の仮採用から両者が険悪になってというもので大分事情が異なる。上の話しからは仮採用にはカラヤンは関わっていなかったとなる。そして84年に辞める支配人がその間のスポークスマンになっていたという事だろう。

そしてメディア契約を盾にカラヤンが楽団を脅したというので、背後にはメディアの思惑が係っていたことは明らかだろう。シュテルン氏はそれとは関係なく、ソニーの盛田との関係にも触れて、二年ごとの日本公演度に新たな技術的なものが試されてカラヤンも喜んでいたが、そもそもカラヤンは録音には関心が無かったとまで発言している。これは特別興味深く大変矛盾する話しでもある。しかし同様のことは同じシュピーゲル誌にカラヤン自身がインタヴューに答えて話していて、何回も同じものを技術が変わるから録音するだけで、金の為ではないと弁明している。



参照:
四苦八苦している内実 2020-07-17 | 雑感
音楽祭百周年記念番組 2020-07-13 | 文化一般



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