■ すっかり騙されてました ■
「日本の年金制度は崩壊する」
40代や30代の方達は、半ば諦めの境地でこの事実信じていたのではないでしょうか。
政権交代の原因の一つに、年金問題が挙げられると思います。
ところが、今週の「東洋経済」を読むとビックリ!!
何と、日本の年金制度は崩壊しない様なのです。
■ カリスマ予備校講師が解説 ■
ネットで「年金問題」を検索すると、
最近、カリスマ予備校講師の「細野真宏」氏のページにヒットする事があります。
細野氏は、「年金問題は引っ掛け問題のようなもので、数学的思考で考えれば崩壊しない事が分かる」と言っています。
私も以前から目にしていましたが、
「年金は絶対に崩壊する」と思い込んでいる目で読むと、
「マタマタ、嘘ばっかり・・・」と思えてしまいます。
今週号の東洋経済は、何故年金が崩壊しないのかを非常に分かり易く解説しています。
細野氏も登場していますが、むしろ編集部の丁寧な紙面に好感が持てます。
この丁寧な特集で、改めて年金制度を検討してみると、
巷に流布する「年金崩壊論」の誤謬が浮き彫りになります。
詳しくは、本屋さんで東洋経済を購入すれば分かりますが、
項目だけ紹介したいと思います。
■ 何故年金は崩壊しないのか ■
1)経済前提で大きく変動しない年金設計がされている
東洋経済より
私達は感覚的に経済の低成長が将来の年金受給額を大きく引き下げると考てしまいがちです。
しかし、実際の年金は経済成長率にそれ程敏感に反応しないようです。
中位予測でも実質経済成長率は0.8%、被用者数の変化率はマイナス0.7%で設定されています。
被用者数の変化率は、今後20年の労働人口と受給者の推移はある程度予測可能ですので、大きな変動は無いかと思います。
但し、名目賃金上昇率を2.5%、運用利回り4.1%は、
バブル崩壊からリーマンショックというダブルパンチの経済危機の最中にある
日本人にとっては、疑わしい数字にも思えます。
尤も、経済が低位予測で推移したとしても、50.1%が47.1%ですから、
22万円が20.7万円になる程度なら「崩壊」とは呼べないでしょう。
2)出生率は回復している
東洋経済より
次に少子化の影響ですが、2005年の出生率は1.26でした。
この時新聞やニュースは年金崩壊と騒ぎたてましたが、
2007年の出生率は1.34に回復しています。
人口に変動を来たさない出生率は2.1とです。
1.34でも充分低い数字ですが、出生率に向上傾向が見られるのは良い事です。
世界の出生率の推移を見てみると、先進国では出生率が一度低下した後回復する傾向が見られます。
各国の少子化対策が効果を表した結果なのでしょう。
民主党が掲げる「子供手当て」など、有効な少子化対策が為されれば、
出生率は回復する事も期待出来ます。
3) 未払いの実態
私などは自営業で国民年金なので、「年金未払者4割」と言われると腹が立つと同時に、
少なくとも国民年金制度は崩壊して厚生年金がそれを補填しているんだなと解釈してしまいます。
しかし、基礎年金全体で見れば、国民年金以外の加入者の割合が多く、
国民年金未払者の割合は、基礎年金全体では6%に過ぎないそうです。
これならば、年金制度が維持可能な気がしてきます。
さらに、良く良く考えれば、「未払い者は受給資格がありません」。
現状は、負債の様に見えている未払い者ですが、
受給資格を失ったり、受給金額が少なくなる過程で、
年金のバランスシートから切り話されて行きます。
尤も、年金受給資格を持たない人達が将来どう生活するのかは大きな問題ですが、
年金単体の制度を崩壊させる要因にはならない事は確かなようです。
4) バランスシートの考え方が間違っていた
5年程前、慶応大学の金子勝教授が出版した「粉飾国家日本」はベストセラーになりました。
年金崩壊や財政赤字の拡大を強調して、小泉内閣を批判して話題の本でした。
現在、金子勝の間違いが明らかになってきています。
例えば、日本国債ですが、確かに巨額な残高は日本にはマイナス要因です。
しかし、日本国債の殆どは日本人が買っており、
例えば日銀の保有分は、チャラにしようと思えば出来なくも無い事が明らかになっています。
(チャラに出来るが、チャラにして良いかは別問題ですが、
少なくとも、国家デフォルトの危険性は回避出来ます。)
同様に、「粉飾国家 日本」で問題としていたのは、
年金制度のバランスシートが既に崩壊しているという事。
これは、将来の年金受給額を「負債」として計算すれば、年金制度は当然債務超過となります。
しかし、日本の年金制度は割賦式で、現在の負担者が払う年金が、そのまま受給者に支払われます。
という事は、年金を支払う人が居る限りは、将来的な年金受給が負債となる事はありません。
5) 割賦式と積み立て式の誤謬
東洋経済より
何故、将来の年金受給額を負債として見てしまう誤謬が生じたかと言えば、
年金が割賦式であるという認識が甘いからです。
上の図で、緑色が年金負担者、
青色が年金受給者です。
将来的に発生する青色の受給者の受給額を、
現在の積立金で賄うのであれば、年金は既に債務超過です。
しかし、積立金は将来的に不足する年金の財源を補填するバッファーで、
基本的には現在支払われている年金と、税金が年金の財源です。
一時、年金の世代間不公平感から、年金制度を積み立て式にする案が盛んに論議されました。
私も年金積み立て式の支持者でした。
しかし、積み立て式というプランには、
かつて我々が払って来た年金は既に給付されて消えているという概念が欠落しています。
私達が将来充分な年金を確保する為には、
既に支払われた年金を、もう一度積み立てる必要が生じます。
これは、現在受給している方も同様で、
結局年金をこれまで支払われた分の年金相当額を誰かが負担しなければ成り立ちません。
こんな「年金の二重取り」は在り得ませんから、
年金の積み立て式への移行は、事実上不可能です。
さらに、積み立て式年金には、インフレリスクと運用損のリスクが付きまといます。
■ 制度は維持出来るが、国民の負担増と制度維持の努力が必要 ■
結局、小泉改革で実現した年金改革は、
制度的には小泉氏の言うように「今後100年は持続可能」な年金制度でした。
しかし、この年金制度を維持する為の前提条件はあります。
● 適切な出生率を維持する
● 1%程度の経済成長を持続する
● 年金加入者が激減しないように個人も企業も努力する
この3点が守られなければ、年金制度は崩壊します。
しかし、このような事態が生じれば年金以前に日本の経済と社会が崩壊します。
■ モラルの上に社会は成り立つ ■
内田樹氏の「下流志向」という本がベストセラーになっています。
素晴らしい本なので、後日じっくりと取り上げたいと思っていますが、
内田氏はこの本の中で、「自己責任論」への批判を行っています。
戦後社会や戦後教育が標榜し、小泉改革以降、日本人の行動規範となってしまった
「自己努力と自己責任」の概念は、日本社会が本来持っていた相互扶助を破壊した。
「自己努力と自己責任」は経済理論であって、
「無時間的な等価交換」に上に成り立っている。
本来人間は時間に変化する生き物で、成長もすれば老化もする。
「自己責任」論では、老人や病人や社会的弱者の存在が否定される。
現代人は誰でも年を取り、誰でも老化し、誰でも失業するかも知れない事を忘れている。
学力低下もニートも、学習や労働を等価交換として捉えた事に起因している。
学習の価値は時間的に遅れて発現し、
労働の対価は、労働量とは常に等価で無い事を忘れてた事が全ての原因である。
要は、「年金崩壊論」は「自己努力と自己責任」論と表裏一体です。
「自分が掛けた年金を自分が貰うのは当然だ」という意識の現れです。
そこには、戦後の焼け野原から日本を復興し、
高度成長期に企業戦士として日本の発展とインフラ整備に貢献した
私達の父親達の世代への尊敬の念が欠落しています。
「経済原理」は、時間意識が無く、今の等価交換しか表現できないからです。
年金制度も、健康保険制度も人類の長い失敗の歴史の中で生み出された、
非常に良く出来たセーフティーネットです。
多少の制度疲労を起したからといって、
それを捨て去るには代替のシステムが未だ未熟です。
■ 世界銀行の影 ■
実は、先進各国が採用していた割賦式の年金制度が崩壊すると言い出したのは世界銀行です。
先進各国はこの提言を受け、年金制度を積み立て式に変更する検討をしました。
しかし、「年金の二重取り」の問題から、先進国では割賦式が存続しました。
世界銀行は途上国への融資の際に、年金制度を積み立て式にさせています。
何故でしょう・・・?
年金資金が積み立て式となれば、巨大な運用マネーが生まれます。
年金の積み立て金が、世界の金融市場や商品市場で運用されれば、
ウォール街の亡者達は、そのお金の群がります。
リーマンショックで明らかな様に、
バブルの崩壊一発で、これらの運用マネーは吹き飛びます。
私達の老後の資金が、こんな不安定な運用をされても良いのでしょうか?
あるいは、ドルの崩壊で世界がスーパーインフレに突入したとします。
積み立て式の年金は、途端に1/10程度の価値になってしまうかもしれません。
そんな不安定な年金システムを推奨する世界銀行とはいったい何なのでしょう?
■ 大新聞の責任 ■
私は「消えた年金」問題とか「不払い3兄弟」などのキャンペーンは
バカらしくて見ていられませんでした。
しかし、「年金の制度崩壊」の報道はある程度信じていました。
実は、年金制度が崩壊しない事は、随分前から判明していたようです。
ところが、日経を始めメディアの多くは、この事を報じませんでした。
むしろ、今年になってからも受給予測が現役時の50%を下回ると書き立てています。
しかし、彼らは現在の年金システムに勝る、持続可能な代替プランを提示出来ません。
■ 民主党に利用された年金問題 ■
結局、年金問題は政権交代のネタとして民主党に良いように利用されていただけでした。
長妻氏も、政権側になった途端に年金改革にトーンダウンしています。
結局、現状の年金制度はそこそこ上手に設計されているという事です。
しかし、それを持続可能にする為には、
少子化問題を解決し、若者の勤労意欲を向上させ、
子供の学力を向上させて将来的に経済成長出来る日本を実現させるしかありません。
何の事は無い、国家の基本の忠実であれば、年金も崩壊しないのです。
さて、ブログなんて書いていないで仕事、仕事!!