■ 現代の『神曲』 ■
「神曲」といっても、別にダンテの話題ではありません。
今時の子供達は「素晴らしい」事を表現するときに、
「神」という言葉を使います。
例えば、超絶技巧のギタリストのプレーに対して、
「これって、『神』じゃねぇー」的な使い方をします。
最近では『神』もだんだんと庶民的になってきて、
友達同士の会話でも頻繁に使われる様です。
テストでたまたま良い点を取ったら有頂天になって「オレって神じゃねぇ?」。
さすがは八百万の神々の国だけあって、『神』はどこにでもいらっしゃる様です。
特に『厨二病』を自称するような子供達が、
気に入ったアニソンを言い表すのに使うのが『神曲』という言葉。
まあ、アニオタに掛かれば、ハルヒのエンディングだって
『神曲』になってしまいますが・・。
■ 石川智晶という歌手 ■
私はいい歳こいて、アニオタですが、
アニソンや声優に萌えたりはしません。
声優が顔出しして活動している所を見ると、ゲンナリします。
一方でアニソンに関しては、無駄にクオリティーの高い曲が多いのも事実で、
「僕は友達が少ない」のOPなども、ベースラインを耳が追ってしまします。
「けいおん」のOPなども、無駄に複雑な曲だと、関心してしまいます。
しかし、それは技術的な問題であって、曲の良し悪しとは無関係です。
ところが、最近のアニメのOPで気になる歌手が居ます。
最初は「ぼくらの」のOPの「アンインストール」という曲を聴いた時でした。
(「ぼくらの」自体は、いつか取り上げようと思っています)
サザンやミスチル以来、日本の歌謡曲は
「歌詞」を正確に伝える事を、半ば放棄していますが、
石川智晶の歌う「アンインストール」は歌詞がストレートに伝わってきます。
「ぼくらの」という作品は、「犠牲」を正面から描いた救いの無いストーリーですが、
その作品の内容に正面から挑む様な「歌詞」を、
奇をてらう事なく、真っ直ぐに投げ込んできます。
音符一音に言葉の一音ずつを丁寧に載せてゆきます。
メロディーの起伏が少なく、リズムも単調なので、
ともすると、平板に聞こえがちなこの曲を、
心に突き刺さるような名曲に代えているのは
石川智晶のずば抜けた歌唱力と、独特の声質です。
それぞれの言葉の語尾の処理がとても丁寧で、
さらに多様なバリエーションで処理されます。
これは現在の投げ捨てる様に歌われ歌謡曲とは一線を画します。
声質も細かくビブラートが掛かったような中域と、
透明な高域の使い分けが見事です。
■ 「神様ドールズ」の「不完全燃焼」は昭和歌謡の究極進化形態 ■
その石川智晶の最新の歌が聴けるのが、「神様ドールズ」。
(このアニメも大変興味深いので、機会があれば取り上げたいと思います)
ネットに「神様ドールズ」のOPが見つからなかったので、
誰かが作った、「化物語」のパロディー版を紹介します。
(これはこれで「神」的な出来栄えですが・・・)
OPの「不完全燃焼」は「アンイントール」とは一転して、
アップテンポなラテンリズム。
短い時間に、ギッチリと歌詞が詰まっていますが、
その言葉の一つ一つが、鋭利な刃物に様にエッジを持っています。
不完全燃焼なんだよ
このセッションは最初から
僕に主導権なんてなくて
変幻自在に見えるだろ?
操縦不可能なんだよ
予想外に際立つ力を
「可能性」と呼ぶのだけは
やめてくれ やめてくれ
選ばれている言葉の一つ一つが
およそ「歌詞」に使われない言葉ばかりです。
良く良く聞くと「ン」の発音が異常に多い事に気が付きます。
「ン」の発音は、日本語では独特の発音です。
基本的には「語尾」に来る事が多いので、
「しりとり」をすると分かるのですが、
「ん」で終わる単語は日本語には沢山あります。
そんな「ン」の発音が、が歌詞の中にたくさん登場するので、
歌詞の音節が解体されて、一語一語が際立ています。
そしてさらに上手いなと思うのは、
「ン」の間合いを揃える事で、
歌詞の解体を徹底している事。
一方、メロディーやリズムを構成するラテン調は「昭和歌謡」の定番で、
一聴すると古臭い歌の様に聞こえます。
こういう曲調で、「上手い」歌い方をする歌手は
昭和の時代は沢山居ました。
渡辺真知子や、久保田早紀、八神純子あたりが浮びます。
しかし、「昭和歌謡」と一線を画すのは、
やはり言葉の選び方では無いでしょうか。
「昭和歌謡」の歌詞は、風景を写実的に切り取って心理描写したり、
心のとりとめの無い揺らぎを、言葉で掬い取っていました。
しかし「不完全燃焼」の歌詞は、
あたかもワープロでランダムに抽出したかの様な、
あるいはgoogleのキーワード検索に引っかかって来た様な、
一種の表面上の脈絡の無さと、深層で繋がる様な違和感を持っています。
作詞作曲は本人となっていますが、
はたして、これが本当のクレジットだとすると、
素晴らしい言語センスの持ち主だと思います。
いずれにしても、昭和歌謡で育った私達が、
昭和歌謡の究極進化形態とも言える石川智晶の歌に引かれるのは、
当然の事なのかも知れません。
本日は「厨二病」丸出しで、アニソンについて語ってみました。
<追記>
ちょっと気になったので「僕は友達が少ない」のOP
「残念系隣人部」の作曲を調べてみたら、
作曲はTom-H@ck(トム・ハック)って人らしい。
あれあれ、「けいおん」も彼の作曲ですね。
「聖痕のクェーサー」も彼の手よる作品ですね。
最近のアニソンで気になる、ベースをブイブイ言わせてる
カッコイイ曲って、Tom-H@ckって人だったのですね。
これはこれで、凄い才能かもしれない・・・。
オマケはあまりに面白いこのyoutube画像