■ 金が暴落しているが・・・ ■
金がNYで1600ドルを割り込んで暴落しています。
金は不思議な金属です。
柔らかくで、武器には使えず、
錆びないので、永遠に輝きを失わない。
そんな金を、"The lowest metal"と歌う歌手が居ます。
今回の金の下落で大損をこいたジョン・ポールソン氏は、
今夜はこの曲をBGMに、しみじみと苦い酒をあおっている事でしょう。
■ 「現代の吟遊詩人」 ピーター・ブレグヴァド ■
私は死んだ時に、棺にCDを一枚入れてもらえるならば、
先に紹介した「GOLD]を収録した、
ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)の「 KING STRUT 」を選びます。
え、誰、この人と思う方が殆どでしょう。
「大阪の女」さんくらいが、ふふふ・・・と言ったとか、言わないとか・・・。
ピーター・ブレイグヴァドは「現代の吟遊詩人」と呼ばれています。
その歌詞は、柔らかで、陰影に富み、ユーモアに溢れ、時にシニカルで、そして優しい。
■ ヴァージンンレコードの目指したもの ■
NY生まれの彼は、ドイツに住んでいる時
アンソニー・ムーアとダグマー・クラウゼと3人で
バンドを組みます。
これが「スラップ・ハッピー」です。
(菊池成吼のスパンク・ハッピーと間違えないでね)
ピター・ブレイグヴァドの不思議な歌詞と、
複雑なメロディーと雑多な音楽性、
そして、ダグマー・クラウゼの個性的歌声が魅力のこのバンドは、
伝説的なジャーマンバンド、ファウストをバックに迎え、
「アクナルバサック・ヌーム」を発表します。1974年の事です。
このアルバムに注目したのが、
当時、駆け出しのレーベル、「ヴァージン」を主宰する
リチャード・ブランソンでした。
彼はもう少しポップなアレンジで「アクナルバサック・ヌーム」を
再録音させヴァージンレコードから発売します。
これが「カサブランカ・ムーン」です。
「カサブランカ・ムーン」と、そのアナグラム(綴を入れ替えた言葉遊び)の
「アクナルバサック・ヌーム」は、まさに双子のアルバムです。
それぞれが、とても魅力的ですが、私は硬質なドイツ版が好きです。
■ 「真のプログレ」、カンタベリー・ロック ■
イギリスに渡った「スラップハッピー」は、
カンタベリ・ロックの前衛グループである
「ヘンリー・カウ」と行動を共にし、
バンドもいつしかヘンリーカウに吸収されてしまいます。
「カンタベリー・ミュージック」とは日本では聞きなじみの無い名称ですが、
ロンドンの少し南にある、学生の街の「カンタベリー」で花開いた
前衛ロック運動の総称です。
「ソフトマシーン」「ヘンリーカウ」「ゴング」などのバンドを中心に、
政治運動と前衛ロックが一体化した、ムーヴメントでした。
その中でも「ヘンリーカウ」は「ロック」「フリージャズ」「現代音楽」
を融合した、最硬派バンドとして、歴史にその名を刻んでいます。
「カンタベリー・ミュージック」をして
「真のプログレッシブ(前衛)ロック」とする意見に私は賛同します。
「YES」や「ピンクフロイド」も高い音楽性を持ったバンドで、
登場した当時は、十分に「前衛的」でしたが、
いつしか「表のプログレッシブロック」は商業主義に溺れた
ロックの一ジャンルに墜落し、かつての実験精神を失ってゆきます。
一方、「カンタベリー・ミュージック」の音楽家の一人、デビットアレンは
NYに渡り「NYゴング」を結成します。
そのメンバーの一人がビル・ラズウェルでした。
異論はあるかとは思いますが、
ラズウェルが「ゴング」の精神を継承して
始めたプロジェクト、「マテリアル」が存在しなければ、
現在の音楽シーンは別の姿をしていたかも知れません。
「マテリアル」の「ONE DOWN」によって
初めてヒップホップが白人音楽と融合し、
ラズェルはハービー・ハンコックの「ロック・イット」バンドで、
ヒップホップを世界に知らしめました。
一方他のカンタベリーの音楽家達の多くもNYに渡ります。
「ヘンリー・カウ」のリーダーのフレッド・フリスは
その実験的ギタープレーでNYアンダーグランドシーンの重鎮となって行きます。
現代ジャスシーン、いや20世紀を代表する音楽家、
鬼才ジョン・ゾーンが結成した「ネイキッド・シティー」では、
高速圧縮グランジ・ジャズ・ロックを、グイグイ引っ張るベースプレーも聞かせています。
さて、ヘンリーカウの曲を紹介しておきます。
ダグマー・クラウゼの変幻自在のボーカルが光ます。
こんな映像が見れるのだから、youtubeは素晴らしい!!
[[youtube:Vfpq11-sRVQ]]
おっと、皆さん、「こんなのロックじゃない!!」と怒ってらっしゃいますね。
これが、ヨーロッパの懐の深さです。
ヘンリー・カウの一連の「靴下」をジャケットにあしらったアルバムは
ロックの歴史的には、名盤の誉れも高い、名盤中の名盤です。
でも分かり難い・・・だって「本当の前衛」ですから。
先日、家内の兄とその友人二人のロック狂いと連れだって
クラプトンのコンサートに行った帰り
(今回のクラプトンは良かった、ドラムスが何とスティーブ・ガット)
4人で居酒屋で飲んだ時、その内の一人が、
「とうとう、ヘンリー・カウを売っちゃった」っていってました。
私が「それは無いだろう・・・勿体ない」と言うと、
「とりあえず名盤だから持ってたけろ、だって、全然分からないから聞かないし・・」
確かに、普通のロックファンは、フリージャズと現代音楽が混じった
ヘンリー・カウは、どう解釈したらいいか難しいバンドです。
■ ダグマー・クラウゼを盗られたピーター・ブレグヴァド ■
ヘンリー・カウはフレッド・フリスの俺様バンドだったので、
メンバーの意見も色々と食い違いました。
フリスはバンドの左翼政治色を強め、
ダグマー・クラウゼの声を、アジテーションの道具としました。
結局ピーター・ブレグヴァドはヘンリーカウを脱退します。
歌姫、ダグマー・クラウゼをヘンリー・カウに盗られた形となりました。
失意のピーターはNYタイムスにイラストを載せるなどして生活します。
彼のアルバムジャケットのイラストは彼の描いたもので、
どれも不思議な毒のある世界を作り出していて、彼に歌に通じるものがあります。
ヘンリー・カウからは、ベーシストのジョン・グリーヴスも脱退してきます。
ピーターとジョンは馬が合いました。
彼らは、NYでジャズ界の女帝カーラブレイと一緒に
「キューローン」という前衛アルバムを録音します。
これも、その筋からは「名盤」と言われるアルバムです。
■ 古巣のバージンに戻り、XTCのアンディー・パトリッジがプロデュース ■
その後、古巣のバージンにも戻ったブレグヴァドは、
XTCのアンディー・パトリッジのプロデュースで、
「The Naked Shake-speare」を発表します。
暗く湿ったポップの迷宮の様なアルバムは、
とても素晴らしい出来栄えでしたが、ヒットする事はありませんでした。
次にバージンから発表されたのは、「KNIGHTS LIKE THIS」。
こちらはニューウェーブ色を強めたアルバムです。
この2枚とも私的には名盤ですが、
ちょとイギリス的な暗さというか、重苦しさを感じるアルバムでもあります。
■ 「裏ゴールデンパロミノス」 THE LOGDE ■
そうそう、この時期ブレグヴァドは、
元フィーリーズのドラマー、アントンフィアーのロックプロジェクト
「ゴールデン・パロミノス」に参加しています。
同時期のメンバーはREMのマイケル・スタイプが居ます。
「ゴールデン・パロミノス」の2枚目と3枚目でブレイグヴァドは
素晴らしい曲を提供しています。
そして「ゴールデン・パロミノス」の裏バンドが「THE LODGE」です。
「ゴールデン・パロミノス」がセッションバンドで纏まりを欠くのに対し、
「THE LODGE]は、しっかりとしたカラーを持ったバンドです。
ブレイグヴァドの陰りを帯びたメロディーと、
アントン・フィアーの切れのあるドラミングが強いコントラストを放つアルバムです。
中にはこんな曲もあって、この曲は盟友、ジョン・グリーヴスだったような・・・。
実は私がピーター・ブレグヴァドやアントン・フィアを知ったのは、
六本木のWAVEでジャケ買いした、このCDからでした。
アンダーグランドのロックはルー・リード程度しか聞いていなかった私は、
初め、この暗くて、訳のわからないCDをどう評価して良いか
全く分かりませんでした。
ところが、聞けば聞くほど、不思議とツボに嵌ります。
後は、奈落に落ちるが如く、
ゴールデン・パロミノスから、マテリアルへ、
そしてピータ・ブレグヴァドからカンタベリーへと嵌って行きました。
元々、NYのアンダーグランドのジャズからロックに回帰した、
ひねくれたロックファンだったので、
健康な汗が飛び散る様なロックは苦手でした。
だから、ビートルズがフォースのダークサイドに落ちた様な、
彼らの音楽に、引かれたのかも知れません。
■ 「歌」に回帰するブレグヴァド ■
ヴァージンとの契約が切れたブレグヴァドは、
インディーレーベルから、何枚かのアルバムをリリースします。
その何れも、最小のユニットでシンプルなロックに回帰しています。
元々、ビートルズがヒーローだったというブレイグヴァドは、
シンプルだけども、ちょっと風変わりなメロディーに、
磨き抜かれた歌詞を載せて行きます。
歌詞はどれもシンプルですが、奥深く、
世の中の奥底を覗く様なスリルに溢れています。
冒頭の「GOLD」はこの時期の曲です。
この時期の、私の一番好きな歌、「DOUGHTER」です。
浜辺で遊ぶ娘をスナップしたようなシンプルな曲です。
[[youtube:9J-lpsQwDEA]]
■ 「スラップハッピー」の復活とリチャード・ブランソン ■
10年ほど前、ヴァージン・レコードを売却して、
航空会社の社長に収まっていたリチャード・ブランソンが、
V2レーベルというレコード会社を立ち上げました。
その最初のリリースが再結成された「スラップハッピー」でした。
来日も果たしたので、吉祥寺のライブハウスに跳んで行きました。
3人とも、落ち着いた歳の取り方で、
新曲を披露しましたが、残念ながら当時の曲にあった様な
マジックには出会えませんでした。
しかし、「表のプログレッシブロック」が化石と化した今現在も、
カンタベリーの音楽家達は、時にシンプルな歌に回帰し、
時に、過激にフリーミュージックの火花を散らしながら、
現在もなお、前衛で在り続けているのです。
「真のプログレはどっちだ!?」なんて論争もありましたが、
21世紀に入って、その結論は出たのではないでしょうか。
本日は、独り言の様に、好きなミュージシャンについて書いてみました。