■ 金正日 死去 ■
今年は「人騒がせな指導者」が大勢政権の座を奪われたり、
亡くなったりしました。
ビン・ラディン氏
カダフィー大佐
アサド大統領(息子)もそろそろ・・・
そして年末になって金正日氏が亡くなりました。
これが偶然であるのか、
歴史の転換点としての必然であるのかは、
あと何年か、或いは何十年か経てば分かるのでしょう。
金正日氏の死去は、新しいアジアの枠組みの
一つのエポックとして後世では語られるのかも知れません。
色々な記事やブログで金正日氏への評価や、
今後の北朝鮮国内の体制変化などが論じられています。
金正恩氏への3代世襲が行われるのか、
それとも、共同指導体制から、金王朝とは別の道を歩むのか
世間の目はしばらく北朝鮮に釘づけです。
■ アメリカの傀儡国家・北朝鮮 ■
陰謀論的には、北朝鮮の核武装を許したのはアメリカです。
表面上はIAEAの核査察など、北朝鮮の核武装を防ぐ振りをして、
米朝二国間協議によって国際的枠組みを無効化させながら
北朝鮮を核兵器開発に押しやる行動をアメリカは取り続けています。
北朝鮮が「お騒がせ国家」である事が、
東アジアでのアメリカの利権を生み出すからです。
日韓は、北朝鮮が「核武装」をした事により、
アメリカへの軍事的依存度を大きく増し、
さらにはミサイル防衛構想など、実際には役に立たない兵器に
巨額な出費をしてきました。
言うなれば、北朝鮮と金正日は、アメリカの傀儡国家として
アジア地域で緊張を煽る役割を担っているのです。
これは、リビアやシリアが与えられた役割に似ています。
■ 北朝鮮のニュースが年末のTVを占領する裏では・・・ ■
日本人は北朝鮮のニュースが好きです。
派手なパフォーマンスをする金正日氏は
日本のメディアやワイドショーに、
様々なネタを提供してきました。
本来は「何故北朝鮮が必要」なのかを論ずべきメディアは、
その責任を一切放棄して、金正日氏のパフォーマンスを追い続けました。
今回の金正日氏の死去で、
日本のTVはしばらく「北朝鮮一色」となるでしょう。
しかし、日本と世界の本当に危機は「金融危機」です。
元々、メディアは「金融危機」の実態を国民に目から隠して来ました。
しかし、ユーロ危機の高まりと共に、
金融危機はメディアとしても無視出来ない状況になっています。
これを報じなければ、メディアは無責任とそしりを受けるでしょう。
世界にとって今最も恐れているのは、
日本人が「金融危機」の実態に気づいて、
世界中から投資資金が引き上げられる事です。
要は、日本の老人達が、投資信託を解約したり
預金を引き出して、タンス預金にする事を恐れているのです。
世界にリアルマネーを供給していた日本の資金が逆転すれば、
世界恐慌の引き金を引く事になるます。
金融市場が崩壊寸前でバランスしている現在、
世界はその状況から日本人の目を逸らさせたいはずです。
金正日の死去は偶然かも知れませんが、
日本のメディアが「北朝鮮一色」になる事は、
金融資本家達にとっては、願ったりかなったりの状況です。
■ 「王道の狗」を読んでクールダウン ■
メディアは北朝鮮の新体制の事で持ち切りなので、
私は違った視点から、朝鮮半島と日本の関係を探ってみたいと思います。
今回用いるテキストは、安彦良和氏の「王道の狗」です。
又、漫画です。又、康彦良和です。
漫画はエンタテーメントで史実ではありません。
先日、「虹色のトロッキー」を取り上げた時もご指摘頂いております。
しかし、司馬遼太郎の「坂の上の雲」にした所で、史実ではありません。
私が漫画を取り上げるのは、
漫画が歴史小説よりも読みやすいからです。
そして安彦良和の一連の作品は、
日本の歴史に、全く別の側面から
光を当てる事に成功しているからです。
「王道の狗」は明治初頭、北海道で強制労働させられる
二人の政治犯の逃亡から、その幕を開けます。
加納周助と風間一太郎は鎖でつながれながらも脱走します。
加納は政治犯として逃亡中に人を殺しています。
風間は「新潟天誅党」の活動を罪に問われて囚われの身です。
度胸が据わった加納と、小心者の風間は、
アイヌに助けられ、「クワン」と「キムイ」というアイヌとして
土地の有力者の家に住み込む事になります。
加納こと「クワン」はとあるきっかけで
合気道の始祖、武田惣角の弟子になります。
武道大会で優勝した加納は、
朝鮮半島の革命家、金玉均のボディーガードとなります。
金は近代化を阻み、清の傀儡となっている李王朝に反旗を翻し、
日本に匿われている身の上でした。
金は加納に「貫真人(つらぬき・まひと)」という名を与えます。
一方、風間は、金鉱を探すヤマシの「財部数馬(たからべ・かずま)」を殺害し
彼の名を語って、北海道を離れます。
野心家の風間は、古川財閥の創始者に取り入り
陸奥宗光の秘書として、悪事を担います。
■ 明治初期の朝鮮半島と日本 ■
明治初期の朝鮮半島情勢は、複雑です。
中国の清王朝の傀儡である李王朝は、
朝鮮半島に近代化に無関心です。
日本は世界情勢に目覚め、朝鮮半島の軍事的重要性を自覚していました。
当時、ロシアは不凍港を求めて南下政策を取っていました。
ロシアが朝鮮半島を抑える事は、
日本にとっては脅威でした。
そこで日本では朝鮮半島を植民地化して、
ロシアに備えよという気運が高まっています。
一方、清国は朝鮮半島は清国の支配下だと考えていました。
そこで、朝鮮半島で日本と清国の利害対立が深まります。
李王朝に中でも清国と通じる者と、
日本に通じる者が対立します。
加納がボディーガードを務める事になった
金玉均は日本の後ろ盾で李王朝転覆を企てたとされています。
一方、この時期、日本は着実に経済面で朝鮮半島に進出します。
経済発展に伴うインフレは農民の生活を苦しめ
農民達が全国で蜂起する「東学党の乱」が発生します。
これは「甲午農民戦争」に発展し、
李王朝は日清両国に出兵を依頼し、
伊藤博文内閣は朝鮮に出兵を決意します。
朝鮮半島で日本軍と清軍が対峙する事態となります。
李王朝は農民の反乱が収まったのを機に
日清両国に撤兵を要求しますが、
両国とも対峙したまま撤兵を拒み、
1894年(明治27年)7月23日、
漢城に駐留する清軍を日本軍が急襲します。
ここに日清戦争の火ぶたが切られ、
この戦争に勝利した日本が、朝鮮半島を植民地支配します。
(日清戦争の経緯はこんなに単純ではありません。
Wikispedeiaの「日清戦争」は必読です)
この様な形で独立を奪われた朝鮮半島では反日感情も強く
ハルビンで朝鮮独立運動家の安重根によって
伊藤博文が暗殺されます。
1909年10月の事です。
■ 日本国内から見た「日清戦争」を描く安彦良和 ■
安彦良和はこの時代の朝鮮と大陸の状況を、
加納と風間という、この時代を生きた
二人の青年の目を通して描いてゆきます。
二人が参加した当時の自由民権運動は過激化しており、
その活動は現代のテロリストと大差ありあません。
活動資金を得るのに強盗を働き、
民衆を扇動しては武力蜂起させ、
秩父事件など多くの犠牲を生み出しました。
現代でこそ「日本の民主化運動」として祭り上げられていますが、
暴力に訴えて社会を変革させようとする姿勢は、
幕末の脱藩浪士達や、赤軍派の姿と重なるものがあります。
自由民権運動は平和な運動と勘違いされていますが、
朝鮮を軍事支配して日本の国力増強を図るべしと
強く主張していたのは、やはり彼らだったのです。
板垣退助の「自由党」はこの様な過激分子だったのですが、
戦争に向かう世相に後押しされて、やがて英雄視されてゆきます。
漫画はエンタテーメントですから、
史実とは全く異なるのでしょうが、
教科書では、「帝国主義支配」の一環として描かれる
日本の朝鮮半島出兵が、
国民にどの様に支持され、
内閣が国民の圧力に屈して行く様が良く描かれています。
■ 北朝鮮を一方的に非難する前に学ぶべき事 ■
私達は学校で近代史を全くと言っていいほど学びません。
一方、韓国や北朝鮮、中国の人々は、
屈辱の歴史としてアジアの近代史を学びます。
歴史を知らない私達と、
歴史を熟知(多少歪んでいますが)する彼らの間に
共通の認識は存在しません。
ですから、日本人にとって北朝鮮は「迷惑な隣人」なのです。
しかし、明治の日本人は、きっと現在よりも国際的感覚を持っていました。
ロシアにどう対抗するかという長期的ビジョンで
アジア戦略を練っていました。
たとえそれが現在の悲劇の源だとしても、
当時の東アジア情勢の当然の帰結が
日清戦争であり、日露戦争でした
そしてその延長線上に、日中戦争や太平洋戦争が存在します。
全て当時の国民が望んだ戦争であり、
朝日新聞を初め、多くのメディアが戦争を煽ったのです。
私達は、軍部の独走が戦争を招き、
私達自身も戦争の犠牲者の様に教わって来ました。
しかし、それこそが歴史の捏造であり、
「国民が望んだ戦争」とい認識無しに、
「従軍慰安婦問題」も「北朝鮮問題」も語るばきでは無いのです。
確かに「事実と異なる事件を捏造」する事は許されません。
しかし、ネットに蔓延する、「ネトウヨ」的な感情は、
無知を自慢しているようで、恥ずかしくもあります。
TVでの「北朝鮮報道」を見るよりも、
近代アジア史の入り口として、漫画を読んでみるのも
有意義かもしれません。
・・・って、単に私がガンダム世代だから
安彦良和が大好きというだけの話しでした。