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変態ギタリスト特集(1)アート・リンゼイ・・・ギターってこんな楽器だっっけ?

2011-12-30 02:18:00 | 音楽
 

■ 音楽をかく乱するアートリンゼイ ■





ギターという楽器は調律された弦を弾いてメロディーを奏でたり、
コードを押さえながら、リズムを取る楽器だというのが世の常識です。

私が若かった頃、ギター少年の憧れはクラプトンやジミー・ヘンドリクス、
或いはヘビメタが隆盛を極めんとする頃だったので、ヴァン・ヘイレンだったりしました。

私は学生時代、大人の振りをしてジャズを聴いていたりしましたが、
実はフォービートジャズというのが面白く無い。

そんなある日、「ストレンジャーザンパラダイス」を映画館で見て
その主演の人を喰ったようなチンピラを演じているのが
ジョン・ルーリーというジャズプレーヤーだと知りました。
CDショップで、彼のCDを探すと「ラウンジリザース」というアルバムがありました。
「ラウンジリザース」はジョンのバンドで、
そのジャケットは飄々とした不思議な雰囲気をしています。

CDの一曲目から、なんだか怪しい雰囲気です。
オフビートの上を、脱力したアルトサックスが漂っています。
そして、キュッ、キュア、キュゥンッ などと変な音がしています。
ギターの音ではあるのですが、コードでも無く、
ただ適当に掻き鳴らしているだけの様な音が断続的に続きます。

???と思っていると、いきなりムチャクチャなギターが飛び出してきて、
もうイスから転げ落ちそうになりました。
お父さんのエレキギターを、3歳の子供が遊びで鳴らした様な目茶苦茶さです。
これが私が「変態ギタリスト」アート・リンゼイと出会った瞬間でした。

上のyoutubeの2分5秒であなたもイスから落ちるでしょう。

ギタリスト(?)の名前は、「アート・リンゼイ」。
彼は何と、調律されていないエレキギターを
本当に適当に掻き鳴らす、ギタープレーで注目され、
当時のNYアンダーグラウンドシーンの寵児でした。

アート・リンゼイの演奏は、既存音楽の予定調和を破壊する装置として、
ジョン・ゾーンを初めとするNYの先鋭的なミュージシャンに注目され、
さらにトーキング・ヘッズのデビット・バーンなども彼のファンでした。

NYアンダーグランドシーンは「フリーミュージック」のメッカでしたので
所謂、「ノイズミュージック」にはうってつけのギタープレイヤーだったのです。



■ ラテン・ファンクというジャンルを作り出した「アンビシャス・ラバース」 ■



一方、アート・リンゼイはキーボーディストのピータ・シェラーと
双頭ユニットである「アンビシャス・ラバース」でCDを発売していました。
相方のピーター・シェラーはクラシックの素養もあり、
ピーターの作りだす、ヘビーでタイトなラテン・ファンク・ビートの上で
アート・リンゼイのギターが時折炸裂するというスタイルで、
当時のNYや世界の新し物好きが飛び付きました。

上の映像はTV番組にアンビシャス・ラバースが出演した時の映像です。
アートは確かに普通のギタープレーはしていませんが、
何だか、彼なりの独自のセオリーに従って演奏しています。

その後何度か来日公演で彼の演奏を目にしていますが、
だんだんと派手なノイズは演奏しなくなり、
ギターの弦をコチョコチョと擦ったり、
ネックの辺りをコンコンと叩きながら、
細かなリズムを作るスタイルに変化します。

それでも、時折炸裂するノイズを観客は待ちわびます。
これはこれで、「放置プレー」状態で快感を増幅していました。

16歳までブラジルで過ごしたアートにとって、
ギターは打楽器に近い存在なのかも知れません。

ところで上のyutubeの映像にある「コピー・ミー」という曲は
アンビシャス・ラバースのCDに収録される前に、
ブラジルの現代ポップスの至宝、カエターノ・ベローゾがステージで歌っています。
カエターノがNYに来た時に、空港に迎えに行ったのが若き日のアート・リンゼイでした

アートも大学で「詩」を専攻していた事から二人は意気投合した様で、
カエターノ・ベローゾは自身のアルバムをアートにプロデュースさせています。

尤も、ちゃんとした音楽的素養の無いアートが何をプロデュースするのか不明ですが、
同様にアートをプロデューサーに迎えたトーキングヘッズのデビット・バーンは
「アートがそこに居るという空気感が良いんだ」といった発言をしています。

アートはブラジル音楽界とも繋がりが深く、
アンビシャスラバースのバックミュージシャンは、
ブラジルの天才パーカッショニストのナナ・ビスコンセロスや、
職人的ギタープレーヤーの、ロメロ・ルバンボなどです。

アンビシャスラバースはキリスト教の「七つの大罪」に従って
「envy(嫉妬)」「greed(強欲)」「ust(色欲)」と3枚のアルバムを出しますが
だんだんと音楽のプロポーションが端正になる一方で、
初期のアルバムにある様な、衝動を失ってゆきます。

7つの大罪シリーズの完結を見る事無く、
アンビシャス・ラバースは解散します。

■ 音楽の表層を切り裂きながら進むアートのギター ■

[[youtube:jkHo-IN7OEM]]

この時代のアートの演奏が光るアルバムを一枚上げるとしれば
バカテク・ギタリストのビル・フリーゼルの「Before We are born」でしょう。
あまり良いyoutube映像が無かったのですが、
独特なトーンから、いきなりジミヘン・スタイルの突入するビル・フリゼル自身の
ギタープレーも鳥肌ものです。
アンビシャス・ラバースの方割れピーターの生みだす
ヘビーなシンセベースのビートもカッコよすぎます。

そして、曲調が一変した4分目くらいからアートが静かに暴れます。
本当はこのアルバムの「The Lone Ranger」のアートの演奏が凄いのですが
youtubeにアップされていなかったので・・・。

ジャズ評論家の「清水俊彦」はこのアルバムのアートの演奏を
「ネオインダストリアルの表層を切り裂いて進むアートのギター」と表現しています。
清水俊彦の音楽評論は、シビレルなー。

ビル・フリーゼルバンドの来日公演でこのアルバムの曲を演奏した際には
アートのノイズパートは無くなるのかと思ったら
何と、バカテク・チェリストのハンク・ロバーツがチェロのアルコ(弓)で再現していました。
(ハンク・ロバーツも鼻血が噴き出しそうな程、素晴らしいチェリストなので
 後日紹介したいと思います。) 

■ 凍り付く様なボサノバ ■



アンビシャス・ラバース解散後のアートは、
様々なセッションや、プロデュースで大忙しでしたが、
ソロアルバムも順調に発売して行きます。

この時代のピーター・シュラーに変わる片腕が坂本龍一です。
アンビシャス時代の派手なラテンファンクとは一転して、
ボサノバを現代風に演奏するスタイルに変化してゆきます。

ブラジリアンポップスの持つ「暑さ」を徹底的に排除して
ひたすら「温度感の低い」音楽を目指している様に思われます。

坂本隆一のピアノが本当に素晴らしく、
さらにベースのメルビン・ギブスの沈み込む様なトーンに身を委ねると、
深海に沈みこんでゆくような酩酊感に襲われます。



これはアンビシャス・ラバース解散直前のアートとピーター。
アートのギターの奏法が変化している事が分かります。
最早ギターの形をした別の楽器として扱われています。



これは上の映像の続きです。
坂本龍一が加わっていますが、
「教授」のこんなアバンギャルドな演奏は珍しいのでは。
こんな演奏でも美しいのは、坂本龍一ならでは。

以前FM放送の番組中、坂本龍一はこう語ったそうです。
「アート・リンゼイは譜面も読めないし、コードも知らない。」
でも、アート・リンゼイは優れたミュージシャンである事は映像からも確認出来ます。

そう言えばこの二人、「相対性理論」のリミックスアルバムで、
素晴らしいトラックを提供していました。
(私的には眉美は、スパンク・ハッピー(菊池成吼)でしたが。)


■ アートの原点「DNA] ■

[[youtube:-Q2-N1BmGNs]]

最近のアートのアルバムは、ちょっとエモーションに欠けます。
その一方でアートはNYのアンダーグランドシーンで
ノイジーな演奏も継続している様です。

最後にアートリンゼイの最初のバンド「DNA」を紹介します。

ロキシー・ミュージックに在籍したブライアン・イーノは
バンドを抜けた後、「新しい音楽」を発掘するプロデューサーとして名を馳せます。
ブライアン・イーノがNYアンダーグランドシーンの若手ミュージシャンを
カップリングして世に送り出したのが、伝説的なアルバム「NO NewYork」でした。

その参加アーティストの一組がアートのバンド「DNA」でした。
「DNA」でアートは12弦ギターに11弦だけ張って、
ノン・チューニングで掻き鳴らしています。
ドラムのイクエ・モリ(日本人)は、バンド結成までドラムの経験がありませんでした。

このアルバムで世界はアート・リンゼイの存在を知ったのです。

今の落ち着いてしまったアートを聞くにつけ、
この時代の演奏が懐かしく思われます。