人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

円安で内需は刺激されるのか・・・構造的変化が気になる。

2014-04-11 12:42:00 | 時事/金融危機
 

■ 昨日の記事にいただいたコメント ■

昨日の円安と経常収支の悪化の記事に対して「muff」さんと「MT」さんからコメントを頂きました。

興味深い内要なので、掲載させて頂き、素人考えながら考察してみたいと思います。
尚、muffさんが誤解されている様なので訂正しておきますが、私は禁輸関係では無く、陰謀論好きな、しがない建築関係のデザイナーです。ですから、私の書いた事で投資などされるときっと失敗しますので、皆様もご注意を。

<昨日の記事のコメントから引用>」

投稿者:MT


円安のメリット・デメリットを貿易収支に結びつける根
拠はありません。大切なのは、円安になった時に国内総
所得GDIが増える方向に働くか、抑える方向に働くかです


GDIは「GDP+交易利得」として表されますので、円安がGD
Iに働く経路は2つあります。

一つは、円建ての生産要素の価格(たとえば工場や人件
費)を割安にすることで生産を増やす、言い換えれば設
備投資や労働者に対する需要を増やし、GDPを増やすとい
うものです。この需要の内訳は輸出に限られません。家
計の消費などの形で表れることもあります。

もう一つが、ドル建て契約の比率が高い輸入品が輸出品
より値上がりすることを通じて交易利得を悪化させると
いうものです。

さて、では現状および今後当面の間、この2つの効果の
うちどちらが強く働くかというと、圧倒的に前者です。
というのも、為替と交易利得の推移を比べてみればわか
りますが(交易利得のデータはhttp://www.esri.cao.go.
jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2013/qe134_2
/__icsFiles/afieldfile/2014/03/06/gaku-jk1342.csvの
ようにGDPと同時に発表されています)、関係性はかなり
軽微です。これは、交易利得は輸出と輸入のドル建て契
約の比率の差の部分しか働かないためです。一方、為替
とGDPの関係性は強く、これは円安によって国際的に見て
賃金が割安になった労働に対する需要の高まりの効果が
高いからです。もはや失業率が下がりようが無くなる3%
台低めになるまではこれが続きます。

というわけで円安になって経常赤字がどうなっているか
は、我々の生活水準に関係する国内総所得GDIとはあまり
関係がなく、そして円安によってまだしばらくは労働者
への需要が増え、失業率が改善してGDPが増えるためにGD
Iも増えるため、円安は悪性インフレを引き起こしている
とも、これから引き起こしそうだとも言えません。





投稿者:muff

人力 様、

お久し振りです。

悪性インフレや円安に対する御考察、「輸出立国から輸
入国へ・・」についてマクロ経済指標からそれを追った
影響度合いは確かにその通りでしょう。
しかしながら、日本の現状で何が起きてしまったか? 
その為の影響度合いを把握する為にはミクロ経済から見
た経済構造の把握が必要かと考えます。

人力様は、金融業界の方でしょうから、日本の製造業の
厚み(昔の)を良く御存じ無い為に、単純過ぎるモデル
で話されている様に見受けます。

先ず、戦後から昭和の後半まで有った、「日本経済の二
重構造」の特質と得失を考えてみる必要が有ります。

この大企業から下請けの中小企業、更にその下に有る家
内工業から内職仕事までの大ピラミッドの功罪をどの様
に見るかです。
昔は、例えば大企業で1千億円の製品輸出に対して、そ
の半製品加工分や部材仕入分は国内の下請けから内職ま
で多段階で回る事になり、その付加価値の多くが国内に
落ちたものです。

で、それが消費市場に回って、インフレの元となったと


しかしながら、人為的な円高政策と貿易政策に因り、そ
の様な下請け企業との取引は無くなり、かなりの部分が
海外に移転してしまいました。

→ 基本的には、ドル=円のレート変動の影響を受け難
くする生産構造の変更

従いまして、今は円安だろうが円高だろうが製品輸出高
とそれの仕入輸入額の差の分しか国内に付加価値として
落ちず、しかも、落ちた分のかなりの部分は大企業の内
部留保として国内に回らずと。

しかも、国内消費分の製品輸入分は海外への付加価値流
出した分ですから、その分の経済効果マイナス分と。

この、B to B の取引量の減少は小売業全体の売上増
では補いきれないものでしょう。

ですから、製造業の売上減少分や輸出減少分をサービス
業の振興で補うというのは無理な発想なのです。

まぁ、この逆が中国経済発展の呼び水と言えるでしょう
。もちろん、それに続く海外からの投資と無価値だった
国有地を高い不動産価値に変換したバブル経済政策、G
DP世界第2位の中国経済に膨張した主因ですが。

<引用終わり>


■ 円安で国債競争力が回復したか? ■

お二人の言われている事はもっともです。

1) 円安で円建ての賃金はドル換算で20%も低下した
2) 円建で投資される設備投資や人件費も割安になる
3) 輸出企業の業績が改善すれば、国内投資も活性化し雇用も増える

日銀の黒田総裁も同様の見方をしている様で、「従来の輸出主導でなく、強力な内需・非製造業主導で景気が回復していると指摘した。失業率もすでに3.7%まで低下しており、3.5%と試算される自然失業率に近い「ほぼ完全雇用状態」と指摘、「日本は今後米国並みのサービス主導経済になる」との見通しを示した。」との見解を示しています。

円安の効果は交易条件の改善を促し、外需の回復と、輸入品から国内生産の切り替えを生んで内需を拡大しする

■ 輸出量の減少は海外市場の縮小が原因? ■

アベノミクス以降、円は20%減価していますが、輸出量は減少しています。その原因はいくつか考えられます。

1) 輸出企業が利益を確保する為にドル建ての販売価格を下げていない
2) 海外の市場が景気後退で縮小している
3) 日本企業は生産拠点を既に海外に移しており、若干の円安で国内回帰は起こらない

多分、輸出量の原因はこの全てでは無いでしょうか。

特に、国内と海外の製造コストを比較した場合、日本の自動車工場が進出しているタイなどの人件費や投資コストは日本に比べて圧倒的に安く、20%の円安程度ではこの差を埋める事は出来ません。

さらに新興国の設備は比較的新しく、半導体などの分屋では旧型の設備を稼働させている日本の工場は既に最新の半導体を製造出来ない状態に陥っています。これに対して新興国には海外から潤沢な資金と技術が流れ込み、最新の設備を稼働させています。

円安でも輸出の伸びが鈍化している背景を、「海外の不景気」と切り捨ててしますと、日本の製造業の衰退の本当に原因を見落としてしまう可能性があるかも知れません。

■ 既に国内で製造業者が居ない分屋では輸入に頼らざるを得ない ■

円安になれば輸入品から輸出品の切り替えが起きるとの予測を少し外れている様に思えます。

繊維や衣料品などは既に空洞化が進んだ業界なので、円安で多少海外製品が値上がりしても国内製品に切り替える事は出来ません。

「安い海外製品と高級な国内製品」というジャンルが確立しているので、ユニクロやシマムラを国内生産に切り替える事はコスト的に不可能です。そして、ファーストファッションに限らず、百貨店で販売されている高級衣料品の多くも中国製や場合によってはベトナム製となっています。

白物家電においても、国産メーカーは中国で多くの製品を製造しています。国内よりも圧倒的に安く製造できるので、円安で輸入価格が上昇しても利潤率は国内製品を上回るはずです。家電店に行くと高級炊飯器などは「国内工場製」とワザワザ書かれていますが、あれは国内生産が高性能なのでは無く、中国人観光客が「日本製品」を欲しがるからに過ぎません。

この様に、空洞化が既に進行してしまった分屋で、海外から製造拠点を国内に移す事はなかなか難しい事の様に思われます。

■ 為替変動のリスクを考えたら容易に国内回帰は出来ない ■

国内メーカーが多少の円安で工場を国内に移転出来ない理由の一つに「為替変動」があります。

リーマンショック前後でも120円代から一気に80円代まで円高が進み、今度はアベノミクスで一気に100円代まで円安が進行しました。

1) リーマンショック後、円キャリートレードの逆転で一気に円高が進行
2) FRBが量的緩和に踏み切って円高が継続
3) FRBのテーパリング予測と、日銀の異次元緩和で円安が進行
4) 円キャリートレードの復活で円安が定着

だいたいこんなプロセスを辿っています。この間、中国の元はドルにゆるやかにペックしていますので為替は安定的です。

日本の製造業は既にグロバル企業ですから、為替がドルに対して安定している事は魅力です。日本の様に20%以上も短期的に変動する場合は、為替リスクをヘッジする必要が生じます。

現在は円安ですが、いつまた金融危機が再発してドル不安から円高に振り戻るかも分からない状況で、日本の製造業は容易に国内回帰の決断は下せません。

尤も、技術力の低い分屋では、既に国内生産すり理由も見当たりません。

■ 意外な物の輸出が増えている ■

工業製品の輸出が増えない一方で、意外なものの輸出が増えています。

食料品とガソリンです。

中国などの経済成長で品質の良い日本の農産物が人気なのはニュースなどでもご存じかと思います。

一方、ガソリンが輸出品?と聞くと意外な感じを受けます。

平成22年度の石油製品の輸出入

ガソリン ナフサ 軽油 灯油
輸入 1098、 27215、 444、 1053
輸出 2198、 0、 11046、 198
生産 58388、 20116、 42994、 19620


日本には沢山の精油施設があり、原油を輸入して化学原料のナフサやガソリンや軽油などを製造しています。それぞれの製品の需要がバラつきますが、原料からは決まった比率の石油製品が生成されるので、時期によっては輸出したり輸入したりしています。

注目すべきは軽油の輸出量ですが、日本では近年不景気で輸送量が減った関係で軽油が余っています。ヨーロッパはディーゼル乗用車が人気があるので軽油の需要が多いのですが、日本はガソリン車がほとんどなので以前より軽油は輸出されてきました。この軽油の輸出用が近年国内の需要低下で増えています。同様にガソリンも少子高齢化やハイブリット化、省エネ化の影響を受けて余り初めています。



http://info.yadoku.com/archives/7605より

日本においてガソリン消費量は2005年より減少を始めています。
自動車保有数も減少しているので、単純のハイブリットや軽自動車の影響だけでは無いと言えます。

一方で国産の軽油やガソリンは優れた精油技術によって硫黄分が少ないので、海外では人気があります。ただ、輸出価格は安いので、儲かるから輸出するというよりは、余ったから仕方無く輸出しているというのが現状では無いでしょうか。

■ 製造業から生産性の低いサービス業にシフトする先進国の労働者 ■

黒田総裁も言っている様に、日本では現在、製造業からサービス業への雇用の移動が顕著になっています。製造業で余った人達が、コンビニやスーパーやマクドナルドの店員になったりしています。これはアメリカでは相当前から見られる現象です。

サービス業の特徴は生産性が低く賃金が低い事にあります。日本でもユニクロやワtガミなどの雇用条件がブラック企業として注目されていますが、一般的にサービス業は同じ様な業態では差別化が難しく、他店よりも安い事で顧客を囲い込もうとします。結果的に人件費が抑制される傾向が強くなります。

製造業に比べて利潤率も低いので、当然賃金は低く抑えられます。

現在の日本は円安で雇用が国内回帰しているのでは無く、安いサービス業に雇用移動が発生して結果的に失業率が改善しています。これでは国民の所得は逆に減少します。

肉体労働の分屋でも、建設業など日当が2万5千円を越える様な職種が減少して、介護職員の様なサービス産業にシフトが発生しています。

■ 2012年度上期の景気改善は公共事業の効果で一時的 ■

実際に仕事をしていて私自身景気回復を実感しています。

建設業では、福島の復興需要で既に人出不足の所を、昨年前半に公共事業を増発したので人件費が跳ね上がりました。日本は長年「脱公共事業」で財政再建を目指していたので建築関係の労働者はピーク時の7割程度になっていたと思います。そこに自民党が大量の公共事業を発注したので、労働者が足りなくなったのです。

建築業界、特に土木業界はひさびさの公共に浮かれましたが、一方で人件費の上昇は民間工事の採算性を圧迫し、各ゼネコンの担当者は現場で赤字を出さない様に必死に努力しています。

小売業界も株高の影響で上半期は好調でした。ここで久しぶりに利益が出たので各社、しばらく手を入れていなかった店舗の改修を年度末にかけて相当やっています。折しも消費税増税と重なったので、こちらも業者を確保する事が困難な様相を呈していました。

ただ、小売店は「税金を納めるくらいなら店を改修して顧客を呼び込もう」とする業界なので、決算が終われば需要は一気に無くなります。

こうしてアベノミクスの効果は、補正予算による公共事業の増加と、株の値上がりによる波及効果で確実に実感されましたが、統計的には昨年前半で息切れしてしまった様です。

■ 輸入コストの増大と賃金の変化の関係が大事 ■

国内だけ見れば、公共事業の拡大や、金融緩和で強引なインフレが発生すれば物価も上昇しますし、遅れて賃金も上昇し始めます。要は、名目の成長は確実に発生します。

一方、円安の影響による物価上昇は確実に発生していて、そのスピードが賃金上昇を上回れば実質賃金は定価します。

さらには、円安の状況化でも製造業からサービス業という雇用の質が悪化が発生しているので、輸入コストの上昇によるインフレは益々庶民の生活を圧迫します。

■ 為替の均衡点は現状は100円~110円では無いか・・ ■

イザナギ景気越えと言われた先の実感無き好景気の時の為替レートが120円/ドル前後でしたが、その時よりも日本経済の輸入依存度が増しているので、現在の均衡点は100円から110円の間、要は現在の水準なのでは無いでしょうか。

もしこれが正しければ、日銀は為替水準の点においてはこの均衡点が円高に振れない限りは追加緩和には踏み出さないと思われます。黒田総裁が6月までの緩和を見送った事で市場は失望を隠せませんが、日銀は真っ当な判断を下したと言えます。

■ 資源や食糧を輸入に頼る日本において経常赤字の意味するもの ■

「経常赤字が善か悪か」と聞かれたら、この数字自体にはあまり意味が無いのかも知れません。特に、国債の海外保有率の低い日本においては、国債が売り込まれて財政破綻の危機から円が暴落するシナリオは現状では考えられません。

アメリカやイギリスやカナダやオーストらリアは万年経常赤字では無いかと指摘する方も大勢いらっしゃいます。

1) アメリカはドル輸出の裏返しとして万年経常赤字
2) イギリスはアメリカに寄生しているので万年経常赤字
3) カナダやオーストラリアは資源国で食料自給率も高い

日本の経常赤字を考える時、アメリカやイギリスは参考になりません。

カナダやオーストラリアの資源は元々タダですし、農業生産も太陽と大地の恵みでタダです。(厳密には採掘コストや農業生産コストが発生しますが)

これらの国は国土が存在する限り、半永久的に価値を生み出す事が出来ます。ですから経常赤字で外貨が流出し続けても、それがある程度の範囲であれば補充が可能です。

一方、日本は資源と食料の多くを輸入に頼っています。そして輸出品目の多くは工業製品です。工業製品の原料を調達する為には資源やエネルギーを輸入しなければなりません。

明治時代の生糸輸出に始まり、戦後の工業製品という様に、輸出品の付加価値が高くなる程、日本人の生活は豊になって来ました。要は、資源の少ない日本は海外から食料や資源を買って豊な生活を送っていますが、その源は経常黒字が生みだす外貨(ドル)です。

日本が多少経常赤字になったとて、これまでに蓄えたストックがあるからしばらくは大丈夫だというのが常識的な意見でしょう。

1) 世界的な金融危機が発生して日本人の海外の資産価値が毀損する
2) 米国債が暴落して外貨準備が消し飛ぶ
3) 円の下落によって日本人の国内の富が縮小する

私は非常識なので、どうしても上記の様な状況が気になってしまいます。日本の経常赤字が問題になる時があるとすれば、それは危機が発生した時では無いかと思う心配性の人力でした。

尤も、その結果、円が大暴落したらそれこそ交易条件が大幅に改善して製造立国日本の復活となる訳ですが、私達の生活も昭和30年代からやり直しとなるのでしょう。



本日はMTさんとmuffさんに頂いたもっともなご意見に対して、私の頭に何か引っかかっている事を文章にしてみました・・・。素人なので詳しい事は分からないのですが・・・。

結論すると、「円安による交易条件の改善効果を上回る、構造変化による悪影響が日本では起きてしまったのではないのか?」という事になるのかと。

いつもの妄想だと思って下さい。