■ ウクライナ情勢は地政学的な危機なのか? ■
ウクライナ情勢は「ロシア VS 欧米」という構図で語られがちです。しかし、はたしてウクライナ情勢は地政学的危機の産物なのでしょうか?
上の表を見て下さい。現在世界の天然ガスの算出国の1位はアメリカ、2位はロシアとなっています。そして3位にイランが入っています。
そして、輸出国を見るとカタールがロシアに次ぐ2位の位置に付けています。この表を見てピンと来る人は、陰謀論がお好きな人なのかも知れません。
■ エジプト リビア エジプト ■
長年に渡りヨーロッパはロシアからの天然ガスの輸入に依存して来ました。しかし、ウクライナの情勢が不安定化すると、ウクライナを経由するロシアからのパイプラインの供給が断たれる可能性が出て来ます。
そこで、近年ヨーロッパは天然ガス供給地の多角化を模索しています。中央アジアや北アフリカ、イラン、カタール、北米などがその候補に上がります。
北アフリカ諸国で天然ガスの産出が多いのは、アルジェリア、リビア、エジプトです。あれ、あれ・・・エジプトとリビアはアラブの春で独裁政権が倒された国々ですね。そして、アルジェリアは反政府勢力が天然ガス施設を攻撃しました。
北アフリカ諸国は地理的にヨーロッパに近く、旧宗主国であるヨーロッパと繋がりも深い国々です。この地域で独裁政権が打倒された時、それを後押ししたのはNATOです。アメリカはあまり乗り気では無かった様に見えました。
一方、これらの地域の独裁政権が倒れた青、国内情勢は不安定化しており、特にイスラム原理主義者勢力と世俗勢力の対立が激化しています。エジプトでは原理主義勢力のムスリム同胞団が一時期権力を握りましたが、その後政変により国内は混乱しています。一方、リビアでは各部族が対立を深める一方で、アルカイーダが勢力を伸ばしています。
このように、北アフリカ諸国は独裁政権が倒れた後、政治が安定しないので、ヨーロッパへの安定した天然ガスの供給地とは成り難い情勢にあります。
■ シリアは中東の天然ガスパイプラインの集合点 ■
http://www.newsnoura.com/middle-east/syria/syria_pipeline/より
中東の独裁国家が次々と打倒された流で語られ易いシリア情勢ですが、天然ガスパイプラインという点に着目すると、面白い事が見えて来ます。
実はシリアはエジプトからの天然ガスパイプラインと、イランからの天然ガスパイプラインをヨーロッパに伸ばす時の通過点に当たっているのです。そのシリアのアサド政権は親ロシア政権です。
ヨーロッパはロシアからの天然ガス依存を脱却しようと模索していますが、中央アジアもロシアの息の掛かった地域ですし、中東からのパイプラインもシリアを経由すればロシアの影響を受ける事になります。これは、ヨーロッパ諸国にとっては好ましくありません。
現在、シリアの反政府軍を援助しているのは、サウジアラビア、カタール、トルコ、欧州、アメリカなどですが、カタールは天然ガスをヨーロッパに輸出している関係上、シリアを経由してイランやエジプトの天然ガスがヨーロッパに供給される事を好ましく思っていません。カタールはイスラム原理主義者らまでも支援して、徹底的にアサド政権を攻撃しています。
一方、トルコもパイプライン利権と無縁ではありません。パイプラインがシリアを経由しない場合はトルコを経由するのがヨーロッパへの最短ルートとなるので、シリアの反政府軍を支援してシリアの国内情勢を混乱させる事の動機がトルコには存在します。
ヨーロッパ諸国は、アサド政権を打倒して、親西側政権が樹立出来れば、ロシアの天然ガス支配脱却の布石が打てます。
■ サウジアラビアと対立するカタール ■
ここで少し複雑な情勢が発生しています。シリアの反体制勢力を支援するサウジアラビアとカタールが仲違いを始めたのです。
サウジアラビアの王族は宗教的には少数派のワハーブ派ですので、国内のイスラム教原理主義者達を警戒しています。従来は東部のシーア派住民を警戒していましたが、最近はムスリム同胞団の影響力の流入に神経質です。イスラム系住人の互助的世界の樹立を目指すムスリム同胞団の思想は、打倒王族に繋がるからでしょう。
そのムスリム同胞団をカタールはシリアで支援しています。これはサウジアラビアが過敏に反応して、カタールから大使を3月に引き上げています。アサド政権打倒で結束しているかに見えるアラブ勢力ですが、実は一枚岩とはいかない様です。
ここで気になるがカタールが世界第2位の天然ガス輸出国である事。カタールは天然ガスの収益によって急激に中東での政治的地位を向上させています。これはアラブの盟主を自称するサウジアラビアにとっては面白くありません。
一方、サウジの王家は中東の独裁政権の打倒に暗躍して来ましたが、その行く先に自国の王家の打倒の幻影を見て怯えています・・。カタールがアラブの盟主の座を奪うのではないかと疑心暗鬼に陥っているのかも知れません。
■ 天然ガス輸出国を目指すアメリカ ■
シェール革命以来アメリカは世界第一位の天然ガス産出国になりました。しかし、国内の供給が過剰になった為、天然ガスのアメリカ国内の価格が下落し、シェールガスは採算に乗らないビジネスになりつつあります。開発バブルで資金が流入している現在は自転車操業で崩壊を免れていますが、資金流入が途絶えれば、「シェールガスバブル」は一気に崩壊します。
そこで、アメリカは天然ガスの液化施設を建設して、天然ガスを輸出しようとしています。日本や韓国とは、天然ガスの輸出契約を結んでいます。
本来、天然ガスの価格はその国の輸入する原油価格にリンクしていますが、アメリカの契約はそれよろも安い金額を提示しています。これは、天然ガスの輸出国にとっては市場を脅かす事になります。
カタールなどはアメリカの動きに神経質になっています。ここら辺が、サウジとカタールの関係悪化に影響しているのかも知れません。
■ 天然ガス価格で利害が一致する米ロ ■
アメリカがシェールガス革命で天然ガスの輸出国になろうとしている事は、国際情勢に大きな影響を与えます。天然ガスの価格上昇がアメリカの国益に繋がるのです。
ここでロシアとアメリカの利害が一致します。
ウクライナ情勢は天然ガスの需給の観点から眺めると、単なる地政学的な対立とは全く別の姿を現わして来ます。
そして、日本の原発の再稼働問題はアメリカのシェールガス輸出と密接に絡むので、私は当面日本の原発の再稼働は不可能だと思います。反原発派が原発推進派として糾弾するアメリカこそが、原発再稼働を阻止しているという皮肉な構造を妄想してしまします。
本日はウクライナ情勢を巡る妄想を膨らめてみまいした。