■ リフレ派同士が争い始めた ■
藤井聡内閣参与(京大教授)が、浜田氏や原田氏や岩田氏をVoice』2014年5月号で批判した事で経済通の人達が盛り上がっています。
浜田氏らや高橋洋一氏らの主張は、「財政政策はマンデル・フレミング効果によって金融緩和の効果に逆行する」というもので、デフレ脱却は「金融緩和のみが有効」と主張します。
これに対して藤井氏は「デフレ下で異次元緩和によって金利が低く抑制されている今の日本ではマンデル・フレミングモデルは適用され無い」と主張します。
素人の私などにはチンプンカンプンですが、要はリフレ派の中にも緊縮財政派と積極財政派が存在し、その両者が争っているのです。
■ マンデル・フレミングモデルとは ■
にわかに話題を集めているマンデル・フレミングモデルとはどんな理論なのでしょうか?
前提条件は国際的な資本移動が自由な事。
要は、現在の様に変動相場性でグローバル金融が発達した状況下で成立します。
1) 政府が景気を回復させようとして財政拡大を実行する
2) 将来的景気回復予測が期待インフレ率を押し上げる
3) インフレ予測による金利が上昇し始める
4) 国内金利の上昇が海外からの投資を呼び込む
5) (日本においては)為替市場で円が買われ、円高が発生する
6) 円高により輸出が減少し、国内景気が後退する
7) 財政拡大効果が、輸出の縮小によって相殺される
要は、財政拡大の効果は一時的であり、中期的には為替変動の影響で相殺されてしまうという理論です。これは、通常の景気変動の範囲内では間違いでは無いと思います。
■ デフレ下で金融緩和が実行されている場合はMFモデルは適用されない ■
藤井氏の主張は次の様なものだと思われます。
1) デフレ下においては財政拡大でインフレは容易に発生し得ない
2) 異次元緩和の様な極端な金融緩和の元では金利は充分に抑制されている
3) よって、財政を拡大しても金利上昇は限定的である
4) 金利上昇が緩やかであれば、円高も限定的である輸出の減少も限定的である
5) 財政拡大による景気刺激はMFモデルによる阻害を受けにくいので効果的である
藤井氏の説には私も同感です。現にアベノミクスによる異次元緩和と大型補正予算が効いていた昨年前半は、景気に薄日が差していました。
■ 問題は財政拡大の効果が直ぐに持続的で無い事 ■
実はMFモデルなどを持ち出すから話がややこしくなるのですが、結局は財政拡大に効果があるかどうかという問題で両者は争っています。
浜田氏は、「最低限のインフラ整備は必要であるが、それ以上の財政拡大に景気回復効果は無い」と主張します。その根拠にMFモデルを持ち出しています。
実は私は財政拡大には短期的な効果はあるが、中長期的にはその効果は中立だと思います。要は財政拡大の間だけは名目GDPが拡大しますが、それによって景気回復の弾みが付かなければ、長期的には財政赤字だけが拡大するというのが現在の経済学の主流です。
ですから、MFモデルがデフレ・金融緩和時に成立しなくても、中長期的には効果が無くなる財政拡大は財政赤字を拡大するだけとも言えます。
一方、藤井氏の発言は「アベノミクス」を背景にしていますから、短期的でも財政拡大に景気回復効果があるのであれば、それは政治的には正しい発言とも言えます。そもそもアベノミクスにおける財政拡大は継続的なものでは無く、日本経済がデフレを脱却する切っ掛けを作る事を目的としているので、財政支出の長期的効果は最初から期待はしていないでしょう。(ここら辺を大きく勘違いしている方達が沢山居ます)
■ MFモデルは内外金利差の影響を大きく受ける ■
グローバル金融のエンジンは金利差ですから、MFモデルの効率を支配するのも、その時々の内外の金利差です。(日本の場合は日米の金利差)
例えば、リーマンショック前は世界で金融緩和を実施していたのは日本だけでした。日米の金利差が大きかったので、日本の資金は円キャリートレードによって主にアメリカに流出し、金融緩和の効果を阻害していました。
この様に日米の金利差が大きい状況では、多少の公共事業の増発をしても、資金は金融システムを通して直ぐに国外に流出してしまうので、インフレ期待を充分に高める事は出来ません。
それでは現在の状況はどうでしょうか?
アメリカがテーパリングに踏み切った事で、アメリカの金利は一時的に上昇していました。一方日本は周回遅れで大規模な金融緩和を実施しているので、日米金利差は拡大傾向にあり、円キャリートレードも復活しています。この様な状況で財政を拡大して公共事業を増発しても、期待インフレ率を押し上げる事は難しい様に感じます。
異次元緩和を実行中は、金利は抑圧され、さらに円安傾向になるので日米の実行金利の差はさらに拡大します。これはMFモデルの効果を抑制します。
こういった意味から、藤井氏の発言は正しい様に思われます。
■ 金利を抑制しながら、インフレに出来るのか? ■
ここで気になるのが、「金利を抑制しながらインフレに出来るのか」という問題です。
従来型の財政拡大とインフレと金利変動
1) 公共事業によって需要が増大する
2) 需要の改善により景気が回復し始める
3) 需要が供給を上回る様になり、インフレが発生する
3) 需要の拡大により設備投資などの資金需要が増え、金利が上昇する
この様に通常の景気循環においては、財政拡大による需給バランスの改善がインフレと金利を上昇させます。これは健全なプロセスと言えます。但し、この場合の財政拡大は景気回復の時期を早める効果はありますが、通常の景気循環においては財政拡大をしなくとも、時間が建てば需給バランスは自然に調整されて景気が回復する事に注意が必要です。
金融抑圧下でのインフレと金利変動
バブル崩壊以降の日本では、バランスシートの改善が進むまでの10年間は経済の成長力は「借金返済」で消費されデフレが進行しました。その後の10年間は、製造業を巡るグローバルな価格競争や、少子高齢化による生産性の低下によって経済の成長力が不足しています。要は、放置していても日本はデフレを脱却できない状況です。そこで、金融緩和と財政拡大を同時に行ったのがアベノミクスです。
1) 極端な金融緩和で大量のマネーが市場に供給される
2) 供給されたマネーは円安を促す
3) 円安によって輸出企業の業績が改善する
4) 供給されたマネーは資産市場を過熱する
5) 円安による輸入価格の上昇が発生する
6) 資産価格の上昇により多少の景気回復が見られる
7) 輸入価格の上昇を主要因にして物価の上昇が始まる
8) グローバル化と産業構造の変換により平均所得の上昇は抑制的
9) 実質賃金が低下するので需要はむしろ先細りする
10) インフレ率は高まるが、資金需要は低位で安定している
12) 金融緩和を実行している間は金利は低位で安定している
13) 日銀の国債大量買入れにより、国債金利も低位安定して金利を抑圧する
14) 13年度の補正予算程度の公共事業の増発では景気の流れは変わらない
15) 結果的に輸入物価とエネルギーコストの上昇分だけインフレが進行する
16) 需給バランスに大きな変化は無いので資金需要も低く金利は上昇しない
結局、金融緩和が需要を増やすプロセスが確立出来ないので、景気は回復せず金利も上昇しませんが、物価だけが上昇します。
■ リフレ政策の真の目的 ■
岩田日銀副総裁ら緊縮財政派のリフレ派は「金融緩和だけで需要は回復する」と主張し続けています。その理由の一つとしてMFモデルを持ち出しています。
しかし、藤井氏は2006年以前の日本だけが金融緩和を実行している時期に、金融緩和の効果が表れていない事を前出の記事で指摘していま。要は、内外金利差が拡大して円キャリートレードが活発化すると、金融緩和は効果を失ってしまうのです。
それでも一部のリフレ論者達が金融緩和の効果を主張すると同時にあ、財政拡大に否定的な理由は、実はその目的が景気回復とは全然別の所にあるのではないかと私は白川時代から勘繰っています。
1) 日銀の財政ファイナンスを永続させ、日本の財政破綻を先延ばしする
2) ある程度の日米金利差を生み出し、アメリカのテーパリングを援護する
1)は財務省にとって重要な事です。
2)は国際金融資本家と世界の中央銀行にとって重要な事です。
この両者にとって大事な事は、日本の景気が回復して金利上昇が始まると困るという一点です。
日本のブクブクに膨れ上がった財政赤字は国債金利の上昇に対して脆弱です。長期金利が2%を超える様な事態になれば、多分パニックが発生します。ですから、財務相は消費税増税などを強行して、不景気を永続化しようとします。
これは、景気回復による税収の増加よりも、金利上昇のデメリットの方が現在の日本の財政には深刻な影響を与える事が予測されるからです。景気を犠牲にしても、財政を維持すいる事を優先しているのが、財務省が異次元緩和を黙認する理由でしょう。
一方、日銀は明らかにFRBやECBとリンクして動いていますから、FRBのテーパリングの間、日本が世界の市場に資金を提供する役割を担う事を最大の目的にしているハズです。これは円キャリートレードとして観測されますが、その為には日米の金利差は2%以上を維持しておきたい。
アメリカは現在10年債の金利が3%を切っていますが、アメリカも巨大な財政赤字を抱えているので金利上昇には神経質になっています。多分、3%程度が許容範囲の限界なのでしょう。そうした中で日米金利差を2%程度確保する為には、日本の景気回復は阻止する必要があります。
・・・そう言った諸々の「大人の事情」がある為に、日本では消費税が増税され、財政拡大に消極的なリフレ論者達が盛んに発言を繰り返しているのでは無いでしょうか?
まさか、「日銀や財務省が不景気の永続化を望んでいる」などと国民は夢にも思いませんから、リフレ論者の内紛が単なる経済論争に見えてしまうのでしょう。
そもそもMFモデルを始めとした経済の法則など、その時々の経済状況に大きく影響を受けるので、科学の法則ほど絶対的なもので無い事は、議論をしている経済学者達が一番良く知っています。
ただ、彼らは自分達の目的達成の為に、経済学の「理論の様なもの」を利用しているに過ぎないのだと私は感じています。・・・・そもそもが「こんにゃく問答」なのです。そして、国民は見事に煙に巻かれてしまいます。
本日は、日銀と財務省が景気回復を望んでいないという、あり得ない妄想に浸ってみました。まあ、アニメオタクなんて、「世界は誰かの手の平の上で踊らされているだけ」という幻想から抜けられずに大人になりますから、こんなブログで幻想を膨らめて楽しんでいるだけですが・・・。