■ 内需が拡大すれば景気が回復する ■
日本は貿易立国であると同時にアメリカに次ぐ内需大国です。
新興国の台頭で外需が伸び悩む中、景気回復のエンジンとして内需の拡大に期待が集まっています。
内需とは「国内需要」の略で、国内で消費される財やサービスの総量です。
国内需要は民間最終消費支出(個人消費)、民間住宅投資、民間企業設備投資、民間在庫投資から成る民間需要と政府最終消費支出、公的固定資本形成(公共投資)、公的在庫投資からなる公的需要との合計である。
個人の消費が増えたり、公共事業が拡大されると内需も拡大し、景気が改善します。
■ 何故内需が拡大しないのか? ■
昨今の日本では内需が拡大しない事が不景気の原因と言われています。その原因はいくつか考えられます。
1) バブル崩壊以降、企業や家計の負債圧縮が優先され投資が抑制された
2) ある程度の物質的豊かさが達成され、需要の拡大が難しくなっている
3) 少子高齢化の進行で、消費性向の高い若者が減少している
4) 老人が老後の不安から消費を抑制し、貯蓄を増やす傾向にある
5) 公共事業の縮小で内需が直接的に減少している
6) 所得の再配分の低下により富裕層に資金が停滞する
7) 内外金利差による国内投資よりも海外投資で利益が確保され易い
これらの要因が複合的に影響し合う事で、日本の内需の拡大は抑制されています。
■ 2極化の進行は内需を低下させる ■
上の原因の中で、6)と7)が軽視されている様に感じられます。
現在の日本では所得の二極化が進行しています。勝ち組と負け組に2極化しています。
2極化の原因は様々です。
1) 競争力の低い企業や業種は人件費を抑制し低賃金化が進行する
2) 国際競争力を維持する為に輸出企業は人件費を抑制する
3) 競争力のある企業は、それを維持する為に高い賃金で優秀な人材を確保する
4) 税の累進性が低下し、一方で消費税によって低所得者の税負担が増大している
5) キャピタルゲインへの税の優遇処置
6) 公共事業の縮小で所得の再配分が低下している
5) 比較的資産を多く持っている老人も年金を受給している
6)
これらの要因の結果、日本では「金持ちはさらに金持ちに、貧乏人はさらに貧乏に」なる傾向が顕著になっています。
個人の消費には限界がありますから、お金持ちに元に集まったお金の多くは、預金や投資で運用されます。この時、内外金利にある程度の差があると、資金は金利の高い国外で運用される傾向が高まります。
消費性向は貧乏人の方が圧倒的に高いのですが、お金は一部の人達に集中していますので、国内の資金は国内の景気を活性化させる事無く、投資によって国外に流出して行きます。これがグローバル金融時代に成長率の低下した国が陥る罠です。
この傾向は日本だけで無く、アメリカを始めとした先進国が共通に抱える問題です。
■ 高齢化が所得の再配分を阻害する ■
本来国家は税によって富める者からお金を集め、福祉や公共事業によって貧しい元に富を再配分する役割を担っています。
ところが現在の日本は高齢化による福祉支出が急速に拡大する一方で、公共事業費は抑制されています。財政赤字が巨大化する中では当然の選択となります。
一方、消費性向に低い老人は年金も消費に回さずにコツコツと貯金したり、投資で運用して将来に備えています。これらのお金の多くは、国債に滞留したり、金利差に引かれて海外に流れ出て行きます。
公共投資の乗数効果は1を切る程度に低いのですが、高齢者福祉と比較すれば高いハズです。これは、建設作業員と介護職員の所得差にも表れています。建設作業員の日当に半分低下で介護職員は働いています。
■ 所得格差を拡大する消費税増税 ■
日本の消費税はあらゆる取引に課税され、あらゆる品物に課税されます。
主食や教科書にも等しく課税されます。
消費税の負担は、消費性向の高い人程高くなるので、若年層や低所得者において税負担が増大します。これを逆累進性などと呼んでいます。
現在の日本は、若者が貧乏で、老人は比較的豊ですから、消費税率の上昇は、福祉支出を通して貧乏な若者から富裕な老人への所得移転を助長します。
■ 子供には迷惑を掛けたくないから貯金に励む老人 ■
老人達が消費を控えて貯蓄を好む理由は、老後の生活の不安があります。
多くの老人が「子供には迷惑を掛けたく無い」と生活を切り詰め、貯蓄に勤しみます。これは本当に有り難い親心です。
しかし、ここで「合成の誤謬」が発生します。
老人が消費を抑制する事で経済が停滞し、若者の所得が低下してしまうのです。
■ 全ての原因は「長生き」にある ■
日本の経済に様々な影響を与える少子高齢化ですが、実は過度の高齢化を引き起こしているのは医療の発達です。
日本人の平均寿命は82.59歳に達しています。
65歳で定年を迎えたとしても、それから20年近く、年金と貯蓄で暮らさなくてはなりません。ある程の生活レベルを確保する為には貯蓄は2000万円程度必要と言われていますが、病気や痴呆になるかも知れないという不安は、消費を抑制して出来るだけ貯金を使わない様にしようという動機を刺激します。
現在の日本の高齢化を支えているのは皆保険制度を基軸にした高度で平等な医療制度です。一昔前ならば癌は「不治の病」でしたが、現在では早期発見によって大事に至らない場合も多くなっています。その他の病気でも、直ぐに死に直結する事は少なくなりました。
一方で、老人は病気にかかり易いので医療費は増大し続けます。
個人的には、親にはいつまでも長生きして欲しいと願っています。一方で、老人の長きが福祉と医療財政を肥大化させ国家を衰退させて行きます。ここにも合成の誤謬が潜んでいます。
■ 地方の農家のオジサンと立ち話したら・・・ ■
先週、自転車で房総に行った折、房総半島のど真ん中で農家のオジサンと1時間も立ち話をしてしまいました。
最初は自然の話で盛り上がっていたのですが、その内にオジサンが、「年金を貰う様になってから老人が畑に出て来ない」とか「近くの大病院は、生活保護の患者を集めているんだよ。だって、国が医療費を負担してくれるから取り逸れが無いからね」などと語り始めました。
「畑に出て来ないから皆な病気になっちゃう。昔は自分の所で採れた野菜や、そこら辺で獲れる川魚なんて食べてたのに、今じゃ年中、肉や刺身食べてるからおかしくなっちゃうんだよ」とも。
病気になるのは寿命が延びたからとも思えますが、オジサンの意見には地方の農家の生の声の説得力がありました。
■ 日本型社会主義の終焉 ■
日本は戦後、世界に類を見ない平等な国家を実現しました。しかし、現在、その平等を維持する為のコストは増大して、国家の成長を阻害しています。これは正に社会主義国家の末期症状に似ています。
社会主義は社会の運営コストが高く付きますが、経済の成長力が高い時には、平等によって消費が刺激される為に経済活動が活発化します。
しかし、成長力の落ちた社会で平等を求めると、システムの維持コストが経済の成長を犠牲にします。こうして、かつて多くの社会主義国家が崩壊しました。
日本¥は世界で一番成功した社会主義国家でしたが、日本型社会主義も限界に達しています。
アベノミクスの第三の矢は、日本型社会主義の脱却によって成長力の回復を目指す政策ですが、それは当然、弱者を切り捨てる政策とも言えます。
「どちらも」という選択を日本は続けて来ましたが、それも限界に近付いています。既に、財政は日銀のファイナンス無くしては成り立ちません。
■ 二極化を助長する「公平」 ■
雑に考察して来ましたが、日本は二極化の原因が、実は戦後に確立した「公平」の維持にあるのではないかと思えて来ました。しかし、所得の再配分を多少調整しても結局は歪は生まれて来ます。
結局、成熟国家は新興国の様な成長力を持たないので、単純な成長以外の価値観や社会システムを構築しなければ、国民は「不幸になった」と感じる様になります。
政治の問題と言うよりは、倫理感や哲学の問題と思えるのですが、新たな豊かさを国民に提示できる学者や政治家の登場が待たれます。