■ 財政出動や金持ち優遇する市場 ■
「トランプが大統領になったら市場が暴落する」とおびえた「トランプリスク」。ところが市場が混乱したのは一日だけで、その語は上昇に転じ、ドル高にもなっています。たった一日で市場はトランプ氏への評価を変えたのでしょうか?
1) トランプの財政拡大政策は米経済の拡大につながる
2) 法人税の減税や、所得税の減税は景気拡大につながる
3) 国内産業の保護政策は景気回復につながる
実はトランプの掲げた経済政策の多くは、レーガノミクスに非常に似ており、市場はそれを好感して、景気回復を予測しています。
さらに、大統領選に勝利した後にトランプは、共和党保守派を取り込んで現実路線に大きく舵を切っていますから、市場はそれも評価しています。
■ FRBの「高圧経済」 ■
市場がトランプの登場に好意的なのは、トランプの政策がFRBのイエレン氏が言い始めた「高圧経済」に呼応している点も考慮しているかも知れません。
1) アメリカ経済は大規模な金融緩和の継続にもかかわらず実態経済の回復ペースが遅い
2) FRBが「適正な金利」を実現するには実態経済の成長率を高める必要がある
3) 金融政策(ゼロ金利・量的緩和)だけでは実態経済の成長を促せない
4) 財政を拡大して、さらに景気を刺激する必要がある
量的緩和などのリフレ政策の限界は世界的にも明確になってきており、今年に入ってからアメリカの景気も足踏み状態です。
そこでFRBは「高圧経済」という訳のわからない造語を使い、財政出動を促しています。マネタリーベースは十分に拡大しているので、「財政の一押し=高圧」によって、マネーサプライのサイクルを回そうというのです。
アメリカ経済の足踏みの原因は、個人消費の伸び悩みに原因が在りますから、財政拡大によってお金をばら撒き、所得をアップさせて消費を拡大しようという、ケインズ経済学的発想です。これはFRBがリフレ政策の限界を自ら認めた様にも解釈できます。
■ 金利が上がらないのなら財政拡大は可能 ■
現実的には、米国債の金利は極めて低く、財政拡大をし易い状況とも言えます。なんだか、アメリカもアベノミクスの様な状況に追いやられている気もします。
但し、アメリカの国債発行総額は上限が法律で決められており、議会がシーリングのアップを認めなければ財政拡大は難しい。しかし、今回は上院、下院両方で共和党が多数を占めており、オバマ政権の時の様にシーリングを政治問題化する可能性は低い。
むしろ、共和党はトランプ・ブームに乗っかって「イケイケ・ムード」を演出するために大幅なシーリングアップを認める可能性は高い。
■ 「金利は予想以上のペースで上昇する」と予言したグリン・スパン ■
少し気になるのが8月の時点で「金利は人々の予想を上回るペースで上昇するだろう」と予想していたグリーン・スパン元FRB議長の発言。これ、今となっては「予言」と言うか「予告」の様にも感じられます。
実際に大統領選挙の前から米長期金利は上昇に転じており、大統領選挙の後も継続しtげ上昇しています。大統領選挙前は「トランプ・リスク」が意識されたと思われていましたが、現在は米経済の回復を見越したポジティブな金利上昇に転じている様にも感じられます。
■ 「低血圧障害」で臓器不全の世界経済が「高圧」に耐えられるか? ■
いずれにしても、トランプの大統領当選によって市場は「景気回復=金利上昇」を予測し始めました。市場の変わり身の早さには驚くばかりですが、悪い事ではありません。「景気は気から」とも言います。
尤も、心配なのは「低金利でバランスしていた市場が金利上昇に耐えれるか」という点に尽きます。
通常の景気循環の上昇局面では、マネタリーベースも金利も「普通」の範囲に収まっています。要は金利上昇のリスクをある程度織り込んでいます。
一方、リーマンショック以降の市場はジャンク債の金利や国債金利を例に取るまでも無く、リスクを軽視して来ました。リーマンショック以降の米国債の金利上昇局面では10年債金利が3%に達しようとすると、何故か日銀などが資金供給を増やす傾向が見られました。
私はリーマンショック後の「低血圧で臓器不全」を起こした経済が耐えうる金利は長期金利の3%が限界なのかな・・・と漠然と考えています。
■ これからバブルが始まるのでは無く、資産市場は十分に「低金利バブル」 ■
市場関係者はトランプの登場でアメリカは最後のバブルが拡大すると期待しています。
一方、金利上昇の影響は直ぐに資産市場に現れるでしょうから、資産市場の価格が回復してしばらくすると、人々は異変に気付き始めるはずです。多分、市場の値動きは非常に荒くなるはずです。これはイケイケの人達と、今こそ逃げ時と考える人たちが混在する市場で起きやすい。
そんなバタバタがしばらく続いた後に、金利上昇は確実に資産市場の流動性を削っていくでしょう。
ジャンク債市場、クレジット市場、カーローン市場、住宅市場、国債市場・・・多くの市場が低金利による「静かなバブル」で支えられていましたから、金利上昇の影響は確実に実態経済の回復効果を上回るはずです。
■ トランプ就任までの期待で買って、トランプの就任で売ると皆が考えている ■
市場参加者の多くが、現在の金融緩和バブルは既に限界点である事に薄々気づいていますが、音楽が鳴り続ける間は椅子取りゲームから抜けられずにいます。
そして、ゲームから抜けたい多くの投資家達が、「トランプの大統領就任まで」を買い場と決めていると思います。そして、「大統領就任でひとまず手じまいして利確しよう」と・・・。
トランプは強烈なキャラクターですから、皆が同じ様な投資戦略を取る傾向が強まると思います。するとどうなるか・・・皆が「売り」と判断した瞬間に、市場は思いもよらない下落に見舞われます。
これがバーナンキショックや上海ショックの様な一過的な下落に収まれば良いのですが、オーバーシュートしてブラックマンデーの様な状況になると、ドイツやイタリアの巨大銀行当たりから崩壊が始まる可能性が高くなります。
まあ、個人投資家も最後の儲け時と腕まくりしていそうですから、面白い相場が見られそうです。
もっとも、投資なんて無関係な私は、「頼むからリーマンショックの二の舞で、俺の仕事を減らさないでくれ」と半ば諦めムードで神に祈るだけ。