■ 『恋するフォーチュンクッキー』って名曲ですよね ■
K-popや洋楽と日本の楽曲を比べた場合、日本の楽曲の特徴と言えるのは「コード進行の複雑さ」。
特にアイドル歌謡は、複雑な進行を感じさせる事なく、親しみ易く可愛らしさを見事に表現しています。
私はAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』なんて、もう神曲だと思うのです。
イントロとAメロは少し古めのポップスを思わせる単調な進行、そこからBメロは「王道進行」と呼ばれるJ-Popsで多様されるコード、そしてサビはバロック時代からの王道のカノン進行。もう、「売れるポップソング」のテクニックを総動員した様な曲なのですが、それをアザトク感じさせず、ノスタルジックなのに現代的に仕上げている辺りは、アレンジャーの才能としか言いようが無い。
■ 単純なコード進行の洋楽 ■
それに対して洋楽って単調なコードの曲が多いってご存知でしたか?特にロックやヒップホップなんてジャンルは、元が黒人音楽ですから基本は「シンコペーション(繰り返し)」。ただ、これが悪いのかと言えば、「グルーブ」を生み出す為には、複雑なコード進行よりは単純で明快な方が良い。
ロックでもプログレッシブロックやAORなどは複雑なコード進行が当たり前。スティーリー・ダンの曲なんて、もうウナギみたいで掴み所が無い・・。
■ J-Popが重視する「物語性」 ■
日本のポップスは元々は洋楽をコピーしたものですが、日本独自のガラパゴス進化を遂げてJ-Popsという独特なジャンルを生み出しています。
その最たるものが「物語性」では無いかと思います。Aメロ、Bメロ、サビ、大サビ、間奏、・・・などという構成をする曲が多くありますが、曲全体を通して感情の流れや物語を綴る傾向がありる。日本のリスナは「詩の感受性」が強い傾向にあり、アーティストも歌詞を重視して曲を作る傾向が強い。J-Popsは音楽であると同時に「文学」なのかも知れません。
欧米でこの手の曲を作るアーティストとして先ず思い浮かぶのがビリー・ジョエルです。『ピアノマン』が最も分かりやすいと思うのですが、物語の展開に合わせて曲調も変化します。ただ、アメリカではこの手のアーティストは衰退し、今では「ノリ一辺倒」の曲がチャートを席巻しています。
だから、日本人は洋楽を聞かなくなってしまった。つまらないから・・。
■ ガラパゴス進化の最終形態としてのアニソン ■
AKB48の面白い処は、アイドルであると同時に「アイドルのパロディ」でもある所。もう、アイドル育成ゲームをリアルでやって、ファンをその物語の中に取り込むというメタフィクションな展開は、ポストモダンとしてもかなり尖がっています。
一方、「perfume」=「リアル・ボーカロイド」。「ももいろクローバーZ」=「リアル・アニキャラ」と言った所で、ことアイドルに関しては日本は世界最先端を爆走していますが、ガラパゴス進化の結果とも言え、欧米の市場で受け入れられる事は今までありませんでした。(パフィーがアメリカでブレイクしましたが、クール・ジャパンという背景では無く、よい子のアイドル的な取り上げられ方だったと思います。)
ところが最近BABYMETAL(ベビーメタル)が欧米が大ブレークしています。
ハードコアなメタルとアイドル歌謡のミスマッチが新鮮なのです、欧米の若者にしてみれば、「リアルなアニメキャラ」そのもので、彼女達が「日本語で歌う」事にこそ「萌え」要素があるとも言えます。徹底して「記号化」した事が成功の秘訣では無いかと。
ちょっと面白いのがバックが相当ハードな演奏そしている点ですが、実は日本のハードコアシーンは世界と長年互角に渡り合って来ました。歌詞が関係無いジャンルなので、音のパッションが強ければ何処の国のミュージシャンだろうがOKなのです。
日本人は真面目なので、ノイズミュージックにも真面目に取り組みます。演奏テクニックがメチャメチャ高いのです。そして、とことんクレージーさも追及します。これも一つのガラパゴス進化なのでしょう。
ベビーメタルは「アニメ」と「アイドル」と「ハードコア・ミュージック」という3つのガラパゴスが混ざり合う事で、最強のガラパゴスジャンルを作り出したとも言えます。(ももクロが元祖ですが)
そしてBABYMETALで本当に凄いのはバックバンドだった・・・ゲフン、ゲフン・・・
■ アニソンはどこまで進化するのか? ■
音楽のガラパゴス進化の最先端を行くアニソンですが、こんな曲まで登場しています。
先日、ちょっと紹介した『灼熱の卓球娘』のOPを作曲した田中秀和という作曲家の楽曲ですが、もう複雑さここに極まれりといった感じで、ヒャダイン(前山田健一)と双璧を成すのでは?
『這いよれ!ニャル子さん』という極めてアクの強い作品のOPなので、これが許されるとも言えますが、実はアニソンらしいアニソンも大量に手掛けていて、そのいずれもさり気なくて凄いコード進行で、音楽通をうならせているとか・・・。(私にはどこが凄いのかイマイチ理解できないのですが専門家からすると凄いらしい)
アニソンのルーツを辿って行くと小林亜星に行き着く訳ですが、彼が今の時代に現役バリバリだったら、いったいどんな曲を作る事やら、もう妄想が・・・。この人、作曲のみならず作詞もしちゃいますから「マハリーク、マハーリタ・・・」なんて彼の曲。
■ 欧米のガラパゴス進化 ■
こういった音楽のガラパゴス進化が日本だけで発生するのかと言えば、そうとも言えません。アンダーグランド・シーンはガラパゴス進化の実験場です。
さらに、ヨーロッパには日本と同様に「文化が腐るまで熟成される」土壌がある様です。下で紹介するのはベルギーの「X legged sally」というロックバンドですが、この複雑な演奏を生演奏でやるのには驚愕します。
ベルギーには「チェンバー・ロック」というジャンルがあります。室内楽の楽器をロックバンドが取り入れるプログレッシブ・ロックの変態進化形です。「X legged sally」はクラリネットを使っています。
「超ヘンタイだけど、スゲーカッコイイ」・・・と思うのは私だけでしょうか?
■ ガラパゴス進化が「箱庭化」する日本 ■
日本と欧米のガラパゴス進化の傾向には明らかに違いが存在します。
欧米のガラパゴス進化は実は「破壊的」です。だいたいアンダーグランドシーンで進化は進行し、様々な試行錯誤の結果、既存のジャンルを破壊する生命力を身に着けていきます。
一方、日本におけるガラパゴス進化は「箱庭的」です。日本という島国の文化の行き止まりに収納するには、日本的な語法で整理されてチンマリと棚に収まる必要があるのでしょう。古来、大陸から伝来した文化は、こうして日本的な進化を遂げ、次に流入する文化と共存を続けています。
韓国が文化の通り道として、外来の文化に在来文化が淘汰されて来た事とは対照的とも言えます。
そうした日本的な文化の最先端がアニメやアニソンである事を考えると、これらのオタク文化の変遷は、「伝統芸能」が辿って来た道なのかも知れません。
<追記>
「X legged sally]のYoutube動画を見ていたら「Flat Earth Society」なるバンドの動画に行き当たりました。「x legged sally」のギタリスト Pierre Vervloesem が立ち上げた15人編成のバンドですが、アメリカの現代のビックバンドジャズよりも余程刺激的。イヤー、カッコイイ。ちなみにチューバは金髪美女ですよ。ドレス着て足開いてチューバを吹く姿・・・痺れます。(3:11辺りから見て下さい・・・あ!!スパッツ履いてた)