■ 米国債金利が上昇している ■
上のグラフは米10年債金利ですが、7月1日に1.45%で底を打った後上昇に転じ、直近では2.231%になっています。
6月23日のイギリスのEU離脱の国民投票でリスクオフが加速し世界的に国債金利が低下していましたが、その影響が短期的には大した事が無いと判断した市場は、若干のリスクオンに傾き、国債金利が上昇に転じたと思われます。
ブラジルやアルゼンチン、中国などの新興国の混乱も、今年半ばからは安定的に推移しているので、リスクオフの傾向が高まったのでしょう。
米10年債の金利上昇は9月頃から顕著ですが、米経済が急激に回復した訳でも無いのに、市場は将来的な金利上昇を予測している様に思われます。これはFRBの利上げを先取りしたものでもあるのでしょう。要は「低金利の国債を持っていると損をする」と市場が判断している。
■ トランプ大統領と言う材料 ■
トランプ氏の大統領選勝利でリスクオフになるかと思いきや、市場はリスクオンとなっています。市場の思惑は「空気」に支配されやすいので、当座の危険性が無ければ「楽観」に支配され易い。
一方で、市場は金利にシビアに反応するので、米国債金利の上昇は大きな潮目の変化をもたらすはずです。
多くのアナリストが「トランプの経済政策は景気にとってプラスになる」と解釈していますが、私は市場の行動は「気づいたら俺達はこんな低金利の国債を持っていたんだ」という感じでは無いかと・・・要は景気回復に期待するというよりも、金利上昇を警戒しだした。
■ 景気回復無きFRBの利上げ ■
FRBは昨年12月に0.25%の利上げを行って以来、利上げ出来ていません。彼らは「雇用」とか「米国の経済」を理由の利上げをコントロールしている様に見せかけていますが、実際は金融市場の動向を重視しているハズです。
「金融市場がどれだけ利上げに耐えられか」を利上げの判断材料にしている。「国債を始めとすする債券市場があまりに低金利の状態で利上げを行うと危険」と判断しているはずです。その意味において米国債金利の上昇は利上げの後押しとなります。
■ 金利上昇スパイラル ■
低金利の債券が売られ金利上昇 → FRBの利上げ → 低金利の債券が売られ金利上昇 → FRBの利上げ・・・・
こうして金利上昇のスパイラルが発生すると金利は意外に速い速度で上昇する可能性が在ります。これは結構危険で、実態経済はたいして回復していないのに金利だけが上昇し始める。
金利上昇に株式市場は敏感ですから、どこかの時点で株価も下落に転じ、又、金利上昇の脆弱な新興国市場やジャンク債市場から混乱が再び始まるでしょう。
■ 日銀もECBもこれ以上の資金供給は不可能 ■
今までは、FRBのテーパリンクや利上げに呼応する形で、日銀やECBが資金供給を拡大して金利上昇を抑制して来たと私は考えています。しかし、日銀もECBも手詰まり感が強く、これ以上の資金供給は限定的です。
FRBの想定する利上げペースを市場金利が上回る場合、FRBは後手に回る可能性が高くなります。これはちょっと怖い。
■ あまり「トランプ景気」を煽ると危険 ■
どうも景気回復期待とは異なる金利上昇が始まった様に感じられますが・・・本来ならある程度金利が戻れば沈静化します。
しかし、「トランプ景気」の期待感があまりにも煽られると、金利上昇のペースが上がり、FRBが金利をコントロールできなくなる事態にもなりかねません。
そもそもトランプの政策ってアベノミクスと似ていて、短期的な効果しか無い「期待先行」なのですが、それに気づく前に金利の方が先に限界に達してしまいそうです。
当面は米10年債金利が3%を超えるかたカギかと・・・。