■ ISILって何? ■
イラク第二の都市モスルを制圧した事でにわかに注目を集めている「イラク・レバントのイスラム国(ISILまたはISISと表記)」。いったい彼らは何者なのでしょうか?
」
1) イスラム・スンニ派の過激武装集団
2) シリア内戦で世界中から集まった外国人戦士で構成される
3) シリア内戦で民間人を殺害するなど残虐な行動が目立つ
4) アルカイーダですらISILを敵視しシリア国内で対立している
5) シリア・イラク・ヨルダン・イスラエルに跨るイスラム国家建設を目標としている
ISILは世界中のイスラム教徒の過激な若者達が中心に構成され、シリア内戦で実践経験を積み、自分達のイスラム国家建設を夢想する集団のようです。
■ シーア派とスンニ派の対立 ■
イスラム教の2大勢力はスンニ派とシーア派です。シーア派は全イスラム教徒の10~20%と言われ、イランを中心にシリア、イラク、サウジアラビア、ヨルダン、レバノン、イエメン、トルコ、アルバニア、アフガニスタンなどの国に住んでいます。(上の地図の濃い緑色の地域)
シーア派とスンニ派は対立関係にありますが、イランやイラク以外の国では少数派です。ただ、湾岸の油田地帯に多く住んでおり、石油を巡る世界情勢において無視出来ない存在です。
http://blog.goo.ne.jp/qwerty765/e/1d9057e2041480ae43107987fd51321f より
スンニ派に対して少数派のシーア派ですが中東では大きな影響力を持っています。
・ イランはシーア派の中心国家
・ イラクはシーア派が6割で現政権もシーア派
・ シリアはスンニ派が多数派だが、アサド政権はシーア派の分派であるアラウィー派
・ レバノンのヒズボラはシーア派
・ サウジアラビアが影響力を持つバーレーンはシーア派の反乱が起きている
・ サウジアラビアの東部州の42%がシーア派
・ イエメンの40%がシーア派
中東の多くに国々ではシーア派とスンニ派がパッチワークの様に住み分けていますが、宗派対立によって国内情勢は不安定です。
国内にシーア派を抱えるサウジアラビアやトルコなどはシーア派の動向に敏感に反応します。シリアの内戦はシーア派であるアサド政権を崩壊させる為に、サウジアラビアやトルコやカタールが反体制派のスンニ派のテロリストを送り込み支援しています。
特にサウジアラビアは東部の油田地帯に多くのシーア派住民が居住している為に、ここで分離独立運動が起きると国家の存亡に関わりるので、イランを始めとするシーア派を敵視しています。
■ アメリカや欧州諸国もシーア派を敵視 ■
アメリカがイランを敵視するのは、シーア派の革命運動をイランが周辺諸国に輸出しているからです。イランはシリアのアサド政権を支援し、さらにシリアを通じてレバノンのヒズボラを支援しています。
シリアの内戦で欧米諸国がスンニ派過激勢力を支援した理由も、シーア派のアサド政権を打倒する為です。
中東においてイランとイスラエルは犬猿の仲です。イスラエルはレバノンのヒズボラをけし掛けてイランを脅かしていますし、イスラエルはイランの核武装を警戒してイラン国内の核施設を空爆して破壊しています。この様に従来はイスラエルを支援する目的で、アメリカを始めとする欧米諸国はイランを敵視して来ました。
■ 反シーア派内部の対立 ■
サウジアラビアは東部の油田地帯の独立を恐れてイランを敵視しています。ところが、最近、シーア派敵視を巡ってカタールとの対立が明確化して来ました。
シリアの内戦でカタールはアルカイーダやムスリム同胞団をも支援しています。これらイスラム原理主義者達がサウジアラビア国民を焚き付けると、サウジ王家が革命によって打倒される恐れがあります。サウジアラビアはカタールを強く非難し、大使を本国に召還するなど両国の対立は急激に悪化しています。
■ シーア派国家を支援するロ中 ■
旧西側諸国がシーア派を敵視する一方で、イランを始めとするロシアと中国はシーア派国家を支援する事で中東利権の足掛かりを築いています。敵の敵は味方という構図です。
特にシリアのアサド政権とロシアの関係は緊密で、ロシアはシリアに軍港を構えています。欧米によるアサド政権打倒は、ロシアの中東利権の切り崩しが目的であるとも言えます。
■ アメリカがイラクのISIL掃討に消極的な訳 ■
イラクのフセイン政権はイラクでは少数派のスンニ派でした。イラン・イラク戦争はシーア派によるイスラム革命をイラクに輸出しようとしたイランに対するスンニ派のフセイン政権の防衛戦争でしたが、アメリカはこの時フセインを強力にバックアップしました。
ところがフセインが自国の利益を優先してアメリカと対立すると、イラク戦争を起してフセイン政権を崩壊させます。
しかし、シーア派が最大勢力のイラクで民主的な選挙を実行すれば、イラクにシーア派の政権が樹立する事は自明の理です。
アメリカは財政的な理由によってイラクにおける軍事行動を終了せざるを得ません。一方、アメリカが居なくなれば、イラクのシーア派政権はイランとの関係を強化する事は想像に難くありません。
そこで、アメリカはISILという置き土産を残したのでは無いでしょか?
アメリカはかつてアフガニスタンでアルカイーダを養成した様に、ISILを裏から支援しているのでは無いか?
■ 中東の宗派対立こそが、欧米の中東利権を生み出す ■
イギリスを始めとするヨーロッパ諸国はかつて中東を植民地として支配していました。しかし、植民地経営は独立運動の高まりでコストの高いものとなります。
第二次世界大戦後、多くの植民地が独立しますが、旧宗主国は独立政府を影から支援する形で利権を温存してきました。
中東においても、傀儡政権を作り、石油利権を守ろうとします。その際、傀儡政権はイスラム教の少数派を選んでいます。少数派の政権基盤は不安定なので、旧宗主国やアメリカとの関係を緊密化する事で政権を維持しようとするからです。イランのパーレビ国王やサウジの王家は、こういった欧米の傀儡王家でした。
一方、エジプトの軍人ナセルは社会主義的汎イスラム主義を唱えてクーデターを起こし、欧米の傀儡政権を打倒します。汎イスラム主義は周辺諸国の若者達を刺激し、フセインやカダフィー、そしてアサドがこれに続きます。
「悪の枢軸」とアメリカに名指しされた彼らは、実は欧米から自国を守った英雄達でした。しかし、多くの部族が入り乱れ、宗教的な対立も激しい中東の国家では、民主的に国家を運営する事は不可能でした。イスラム的社会主義を夢見た若き青年将校達の夢は儚くも敗れ、彼らは独裁によってしか政権を安定させる事が出来なくなります。
独裁下したフセインをアメリカは支援します。これはイスラム原理主義勢力がパーレビ王家を打倒したイランに対抗する目的もありますが、汎イスラム主義の指導者達を懐柔する事も目的だったのでしょう。
この様に、中東諸国における部族間の対立と宗派間対立は、常に欧米諸国に利益をもたらして来ました。
TVのニュースや新聞などは、アメリカがISILを敵視していると報道されますが、中東の歴史を振り返れば、シーア派と敵対するISILこそアメリカの置き土産だという事に気づくのではないでしょうか?
本日は久しぶりに中朝情勢の妄想に浸ってみました。