■ 南シナ海は公海か、中国の領海か? ■
中国が南シナ海の岩礁を埋め立てて軍事基地を建造しているとして、米軍がこれを牽制しています。アメリカ海軍は近く、南シナ海で米軍艦艇を航行させるとしていますが、米軍
征服制服組のトップ、ジョン・リチャードソン作戦部長は「南シナ海の国際水域を米海軍の艦艇が航行することは挑発行為にはあたらず、誰に対してもサプライズとならない」と語っています。
これに対して中国は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で埋め立て造成した人工島から12海里内を領海と主張しています。
■ 南シナ界の領有を巡る争い ■
現在、問題になっている南沙諸島(スプラトリー諸島)は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾、中国が領有を主張していますが、人が居住できる島では無く、海上に頭を出した岩礁や、あるいは満潮時には水没する岩礁です。
この地域には豊富な改定資源が存在するとされており、かねてから各国が領有を主張して譲りません。特にベトナムと中国は岩礁の領有を巡り1988年に「スプラトリー諸島海戦」という軍事衝突を起こしています。
当時、ベトナム軍が防衛する岩礁に対して中国軍が艦船から砲撃を加え、多くのベトナム兵が犠牲となりました。ベトナム兵は腰まで水に浸かりながらも岩礁を死守しますが、ベトナム人の多くがこの事件を忘れる事は有りません。
■ 国際法上、岩礁は領土では無い? ■
南沙諸島問題を巡る米軍と中国の論争は、「岩礁を領土と認めるかどうかの見解の相違」に原因が有ります。
日本の法律では「島」と定義されるのは周囲が0.1km以上で、それ以下は「岩礁」となります。しかし、国際法上は「島」と「岩礁」の区分は無く、満潮時に海上に出ていれば「領土」として認められる様です。
国際海洋法条約
第121条 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
但し、人工的に作られた島は「島」とは認められません。
第60条 人工島、施設及び構築物は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。
さらに排他的経済水域においえる島(領土)の定義はもう少し厳しく、次の様になっています。
第121条 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。
要は上の写真の様に満潮時に海面からちょっとでも出ていれば「領土」として認められる様です。しかし、この様な「岩礁」は波による浸食に晒される為、時間の経過と共に海面部が無くなり、領土も消失します。
日本の最南端とされる「沖ノ鳥島」ですが、この火山島も長い年月に渡る海蝕によって満潮時に海面から出ているのはほんの僅かとなっています。その「岩礁」の周囲を防波ブロックで囲い、必死に浸食から守っています。
ただ、日本ま真面目なので、「満潮時に海面から出ている」事を証明する為に海面上に残された僅かな岩の周囲に、きちんと海水が入る様にして、この岩が領土である事を証明しています。ただ、島自体が沈降したり、或いは海水面が上昇すれば、沖ノ鳥島は領土としては存在しなくなります。
さらに気象観測所や灯台を設置していますが、中国は「沖ノ鳥島は「岩」なので、排他的経済水域の基準を満たしていない」と主張しています。実はこの主張は有る意味正しく、沖ノ鳥島が排他的経済水域の基準を満たしていないと国際的に認められれば、日本の排他的経済水域は大幅に縮小する事になります。
■ 岩礁を埋め立てた場合はどうなる? ■
日本が沖ノ鳥島(正確には、かつての島で現在は岩礁)を必死で守ると同様に、中国も南沙諸島の岩礁を人工の構造物で守って来ました。最初はバラックの様な建物を建てます。
次にコンクリートの構造物で岩礁を完全にガードします。
そして昨年来問題となっている大規模な埋め立てを始めました。
最早、こうなるとどんなに波が押し寄せて来ようとも、本来の岩礁は埋め立てられてしまったので海蝕を受ける事も無く、それが海面上に存在しているかどうかの確認すら出来ません。
アメリカはこれを「人工物・人口島」と見なす事で「領土では無い」と主張し、中国は元々岩礁があったのだから「領土」であると主張します。両者の主張は平行線です。
■ 日本や周辺国のシーレーンが維持出来ない可能性が有る ■
そもそも、各国が領有権を主張して譲らない南沙諸島ですが、実際には「実効支配」してしまえば他国は戦争で奪還するしか手立ては有りません。尖閣諸島は日本の実効支配下に有り、北方領土や竹島はロシアや韓国の実効支配化に有ります。
上の地図は中国が人工島建設を進める岩礁の位置になります。これらの岩礁を中国が実効支配し、かつ軍事基地を建設し、さらに領有・領海を主張しているのですから事は重大です。
人工島の中には上の写真の様な軍用滑走路や軍用の港湾施設を備えたものも登場しているので、中国は今後、この海域での軍事的な優勢を強めていきます。
米軍がこれらの人工島の12海里以内をデモンストレーションとして航行すれば、中国としては領海侵犯と見なし黙って見過ごす訳には行きません。但し、スクランブルを掛けてイヤガラセはすれど、実際的な防衛行動(攻撃)は起こさないはずです。
・・・これが自衛艦だったら・・・まあ、自衛隊はそんな冒険はしませんが・・・。
ただ、これらの岩礁の周囲12海里を繋いでも、南シナ海には公海が残りますから、平時に日本のシーレンが脅かされる事は有りません。ただ、一旦有事となった場合、この海域に巨大空母を鎮座させるに等しい中国の人工島の存在感が一気に高まります。
■ 古くて新しい領土問題 ■
群雄割拠した時代から領土は争いの元となって来ました。現代においても多くの国の間で領土問題はくすぶり続けています。
昨今の「領土」問題は、排他的経済水域を巡る争いとなっていますが、一旦、軍事的緊張が高まれば、「領土」問題は海上輸送路確保に大きく影響を与える様になります。
軍事的拡張路線を歩む中国は、将来的に必ずや日米と東アジアで軍事的緊張を高めていきます。米軍は不必要な衝突を避ける為に、将来的にはグアム・ハワイラインまで撤退する事が決まっていますが、日本や東南アジアの国々は中国から遠ざかる事は出来ません。
巨大な中国に対して、アジア周辺国は「集団安全保障」で対抗するしか手立ては有りません。安保法制はこの為の下地を整えた訳で、強引な国会決議も、中国の拡張を考慮すれば仕方無い事と思われます。
国会前に集まったデモの方々が、どの位、日本の周辺情勢の変化を自覚されているのか・・・。尤も、彼らはいざ有事となると、一気に好戦的になるのかも知れません。
いかなる時も冷静に、現実的に判断する事が国民に求められますが、日本人が最も苦手とする事なのかも知れません。