谷川俊太郎はもう90歳になる。なのに元気で詩作や創作活動に挑んでいるみたいだ。この新刊を読んでいて、なんだか胸が熱くなる。作家だからといって生涯現役で活躍できる、というわけではない。認知症にもならず、頭も体も元気でいてね、と思ってもなかなかそうはいかないだろう。谷川さんは今車椅子生活をされているみたいだ。そんなことがこの本からわかる。
これは谷川俊太郎さんにブレイディみかこさんから送った手紙。それに対する谷川さんからの短い返事と詩。そんな往復書簡。親子ほど歳の離れたふたりのやりとりに、さらには谷川さんから見たら孫に当たる世代の奥村門土の絵が彩る3世代による一冊。
タイトルの『その世』という世界観が素敵だ。本文に解説がちゃんとある。あの世とこの世の狭間にあるかないかわからないような世界。いや確かにあるけど、微妙。あの、その、この、という世界からふたりのあまり噛み合わない(高橋源一郎談)やりとりがとてもいい。お互いがお互いと向き合いながら、しっかり自分の世界を提示する。散文と詩文。娘と父。目の前にあるその世と向き合う。